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第3部 第3話【砂塵に眠る偽りの神殿】

掲げた掌に

【全属性変換】の光が渦を巻き、

荒野を覆う圧政の気配へと

静かに向けられていく。


理想郷の穏やかな時間と、

辺境を灼く覇道の時間――

二つの異なる時が、

同じ一つの帝国の中で、

確かに重なり合っていた。

【黄金を装う偽神】


帝国南方、

灼熱の砂海に抱かれたオアシス都市

「サンドゥーラ」。


ここでは奇妙な信仰が民の心を蝕んでいた。


数十年前に忽然と現れた

「砂の神アシュタル」を名乗る自称神官が、

実は砂中に眠る

古代兵器の残骸を操る詐欺師であり、

託宣せんたくと称して

民から莫大な貢物を

巻き上げ続けていたのである。


神殿の最奥、

金箔で覆われた偶像の内部には、

太古の魔導機構が息づいている。


その機構が発する微弱な波動を

「神の声」と偽り、逆らう者には

偶像の目から放たれる熱線で

見せしめの罰を下していた。


レグナが神殿に足を踏み入れると、

居並ぶ信徒たちが一斉にひれ伏す。


「アシュタル様の使いか……いや、違う。

 お前から漂うのは、

 もっと大きな理の気配だ」


偶像の内部で自称神官が声を震わせた。


レグナは静かに掌をかざす。


「まやかしの神など、この世に要らぬ。

 ……真実を晒せ」


黄金の光が偶像の金属質を

透明な硝子へと変質させ、

内部に隠された機構と、

詐欺師の姿があらわになった。


信徒たちの間に、驚愕と

やがて怒りのどよめきが広がっていく。



【砂塵に埋もれた真実】


偽神の正体が暴かれてもなお、

サンドゥーラには

根深い問題が残っていた。


長年

「神への貢物」として集められた

財と水利権は、

都市を支配する評議会の

一部有力者たちの懐に流れ込み、

貧しい民はかわいた井戸のそばで

飢えに苦しんでいたのだ。


レグナは評議会の帳簿蔵に足を運ぶ。


そこには、

貢物の名目で吸い上げられた

資源の流れが、

幾重にも偽装された取引記録として

眠っていた。


「信仰を隠れ蓑みのにした搾取か。


 ……父上の庭園に、

 こんな薄汚れた雑草は要らぬ」


彼の掌から放たれた光が、

蔵に積まれた記録のすべてを

黄金の真実の刻印へと変え、

隠された不正のすべてを

白日の下に晒し出す。


同時に、

都市を潤すはずだった

地下水脈の封印を解き放ち、

れかけていた井戸に

清らかな水を蘇らせた。


「これよりサンドゥーラの水利は、

 民のために開放される。……

 そして、信じるべきものは

 偽りの神ではなく、

 己の力で理不尽に抗う心だ」


砂塵の舞う広場に、歓喜の声と共に

清水の流れる音が響き渡った。



【母の待つ回廊にて】


砂海の熱気を纏ったまま、

レグナは天上の座へと帰還する。


回廊を進む彼を出迎えたのは、

いつものように

優雅な足取りで歩み寄るセレスティア

だった。


「お帰り、レグナ。

 今度は随分と

 埃っぽい戦いをしてきたようね」


「母上。偽りの神を騙る者どもが、

 民の信仰と水を

 同時に奪っていました。……

 もう、心配は要りません」


セレスティアは微笑みながら、

そっと息子の肩にかかった砂を払う。


その仕草には、

寵妃としての優雅さと、

母としての

慈しみが同時ににじんでいた。


「あなたが刈り取る理不尽の数だけ、

 父上の庭園はまた美しさを増していく。

 ……アーロン様も、玉座で

 あなたの帰りを

 心待ちにしておられたわ」


二人が並んで進む黄金の回廊の先、

究極の玉座に腰掛ける

アーロンの姿が見えてくる。


父の眼差しに宿るのは、

絶対の力を持つ覇王としての威厳と、

我が子の成長を見守る静かな誇りだった。


「父上、ただいま戻りました。

 砂の都に巣食う偽りの神は、

 もはやこの世に存在しません」


「よくやった、レグナ。……

 お前の歩みこそが、

 この無限の庭園を

 さらに美しく彩っていくのだ」


父子の視線が交わり、

天上の座に

静かな満足の空気が満ちていく。


レグナの覇道は、

これからも止まることなく、

次なる理不尽を求めて

広がり続けるのだった。


©[I・G・ε]All Right Leserved.

レグナが単騎で降り立ったのは、

アルカディア帝国の版図の最果て、

まだ完全には秩序の行き届いていない

辺境の属領「ガリオン地方」であった。


父アーロンが統すべる無限の庭園も、

その末端まで目を配るには、……。


明日も、7:30 に、投稿します。

よろしくお願いいたします。

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