第3部 第2話【理想郷と辺境、二つの時間】
「あの余裕こそ、我が息子の証だ。
……、レグナよ、存分にやってみせよ」
黄金の光が大陸の空を切り裂き、
反乱の火種は一つ残らず刈り取られていく。
表では単身の英雄として、
裏では父の絶対的な布陣に守られながら――
レグナの覇道は、これからも静かに、
そして確実に広がり続けるのだった。
【 首都に降り立つ汽笛の余韻 】
ITSが放つ
漆黒の車体と星屑の紋章が、
私たちが築き上げた究極の理想郷――
深緑の生命の樹と黄金の魔石に満ちた
アルカディア帝国の首都の
プラットフォームに、優しく滑り込んだ。
窓の外では、
無限のパラレルバースを巡ってきた
星雲の奔流が静まり、
代わりに穏やかな祝福の光が世界を
包み込んでいる。
重厚な鋼鉄の扉が開き、
プラチナブロンドの髪をなびかせた少年と、
気高い十代の乙女となった姫が
並んで降り立った。
彼女の手に握られた一輪の赤い薔薇は、
物質の形を超えて、
目に見えない確かな絆の温もりを
放ち続けている。
「ここが……父上が創り上げた、
私たちの真の故郷であり、
すべての次元の集う場所ですか」
皇子レグナが
頼もしい眼差しでその光景を見据え、
愛刀の柄からそっと手を離した。
その穏やかな仕草には、
もはや過去の
死地を駆け抜けていた頃のような
戦闘の緊張感はなく、
平和に満ちた新時代を確信する者だけが持つ
圧倒的な余裕と誇りが満ちていた。
アルカディア帝国の首都に響き渡った
汽笛の余韻は、
静かに宇宙の深部へと溶け込んでいった。
深緑の生命の樹が幾重にも星々を抱き込み、
黄金の魔石の光が大地と空を
優しく満たすこの究極の理想郷は、
いまや
無数のパラレルバースの中心として、
永遠の平和と調和のなかに息づいている。
【 黄金の午後、玉座の間の静けさ 】
生命の樹の木陰、
玉座の間に隣接する回廊の一角では、
セレスティアが優雅に茶器を傾けていた。
かつて
幾多の戦場を渡り歩いた寵妃の姿は、
今は
穏やかな午後の光の中に溶け込んでいる。
ルナとエレーナもまた、
任務の合間の束の間の休息を過ごし、
生命の樹から零れ落ちる光の粒子を
眺めながら、
他愛のない会話に花を咲かせていた。
「シルヴィア様も、吾郎様も、
すっかりこの都に馴染まれましたね」
ルナが微笑むと、
エレーナも頷きながら茶器を傾ける。
「ええ。……あの薔薇、
まだ枯れないままなのね。不思議なこと」
一輪の赤い薔薇を
大切そうに抱えたシルヴィアが、
吾郎と共に噴水のほとりへ腰を下ろす。
二人の間に流れる時間は、
かつて次元の狭間を彷徨っていた頃とは
比べ物にならないほど、
穏やかで満ち足りたものだった。
玉座に腰掛けるアーロンは、
その光景を静かに見渡しながら、
掌の上に小さな光球を浮かべていた。
そこに映るのは、
遥か辺境の荒野を単身進むレグナの――
否、この時、彼はすでに首都を発ち、
次なる理不尽へと歩みを進めていた。
【 辺境に立つ、もう一人の時間 】
首都の穏やかな午後と同じ刻、
レグナは
帝国最果ての荒れ地に立っていた。
乾いた風が土埃を巻き上げ、
遠くに見える砦からは、
圧政に苦しむ民の呻きが
かすかに漂ってくる。
「……ここにも、
父上の威光を汚す愚か者がいるようだな」
理想郷の穏やかな光とは対照的に、
荒野には濁った灰色の空が広がっている。
だが、
レグナの黄金の瞳に宿る意志の光だけは、
首都で見せていたものと
何一つ変わらなかった。
彼の脳裏に、
先刻まで過ごした首都の記憶――
母の微笑み、シルヴィアの薔薇、
吾郎の屈託ない笑顔――がふと過ぎる。
あの穏やかな時間を守るためにこそ、
この乾いた辺境で
理不尽と向き合う自分がいるのだと、
レグナは静かに得心した。
「理想郷の平和は、
誰かがその外側を歩き続けるからこそ
保たれる。
……ならば、俺はいくらでも歩こう」
掲げた掌に【全属性変換】の光が渦を巻き、
荒野を覆う圧政の気配へと
静かに向けられていく。
理想郷の穏やかな時間と、
辺境を灼く覇道の時間――二つの異なる時が、
同じ一つの帝国の中で、
確かに重なり合っていた。
©[I・G・ε]All Right Leserved.
帝国南方、灼熱の砂海に抱かれた
オアシス都市「サンドゥーラ」。
ここでは
奇妙な信仰が民の心を蝕んでいた。
数十年前に忽然と現れた
「砂の神アシュタル」を名乗る
自称神官が、
実は砂中に眠る古代兵器の残骸を
操る詐欺師であり、
託宣と称して、……。
明日も、7:30 に、投稿します。




