第3幕 第7話 【星屑の汽笛と、食堂車の邂逅】
姫が抱えていた無限の孤独には
誰も気づかなかった。
「私も……
過去の地上での無明の旅路の中で、
私を育んでくれた老夫婦を
愛していました。
それは目には見えないけれど、
魂の深いところで結ばれた
確かな絆でした」
少年は痛切な愛の詰まった薔薇を
差し出し、微笑んだ。
ITSの轟音が、
次元の境界を切り裂くように静まる。
漆黒の車体に無数の星屑の
紋章を焼き付けた巨大な蒸気機関車が、
夜空から垂直に舞い降りる。
車窓の外では、無限に広がる星の海が、
幾重もの光の帯となって流れていく。
我がアルカディア帝国の艦隊が
切り拓いた新たな宇宙の航路において、
この異質な列車の存在は、
単なる移動手段を超えた
運命の交差点となっていた。
食堂車の
重厚な木製テーブルに腰掛けた姫の瞳に、
少年の持つ
赤い薔薇の鮮やかな光が映り込む。
「目に見える物質や、
地位や名誉だけが
世界のすべてではない……。
あなたと話していると、
私がこの地上で過ごした日々の意味が、
ようやく
輪郭を持って立ち上がってくるようです」
姫の声音には、
もはや過去の迷いや
月影の巫女としての孤高さはなく、
一人の少女としての
純粋な温もりが宿っていた。
少年はそっと薔薇をテーブルの上に置き、
静かに言葉を継ぐ。
「旅の終わりにあるのは、
誰かに与えられた結末じゃない。
僕たちが何を選び、
何を心に刻んだかだけだ。
君が手に入れたその強い意志は、
きっとこの果てしない宇宙のどこかで、
新しい星の物語を紡ぎ出すよ」
その様子を、食堂車の入口の影から、
アーロンは静かに見つめていた。
かつてアーロンが、
王国から理不尽に追放され、
冷徹な孤独の中で世界を書き換えたとき、
アーロンには信じられるものなど
自身の能力以外になかった。
だが、こうして
時空の果てで交差する魂の営みは、
我が帝国の覇道に
冷徹さだけではない、
深遠な理をもたらしつつあった。
「父上、
あの少年と姫の波長……我が帝国の
魔力機関と完全に共鳴しています。
時空の歪みを縫うこの列車を取り込めば、
私たちの進軍は
さらに加速することでしょう」
レグナの報告に、
私は深く頷きを返す。
「ああ、行くぞ。
星々の運命がどう転がろうとも、
私たちが築く世界の行く手を
阻むものなど存在しない」
汽笛が再び宇宙の闇を切り裂き、
蒸気機関車は
さらなる次元の深淵へと加速していく。
過去の記憶と未来の神話が交錯する中、
私たちは次なる開拓地へ向けて、
静かに牙を研ぎ澄ませていた。
©[I・G・ε]All Right Leserved.
ITS
の轟音が、次元の境界を
静かに撫でるように遠ざかっていく。
漆黒の車体に無数の星屑の紋章を
焼き付けた巨大な蒸気機関車は、
幾千の恒星系を背後に従え、……。
明日も、7:30 に、投稿します。
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