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第3幕 第6話 【星屑の蒸気列車と魂の絆】

アーロン

地図の上で新たな防衛線を引きながら、

レグナや新しく加わった者たちと共に、

次なる次元の深淵へと

静かに視線を向けた。

帝国の拡大は、

宇宙の真理を書き換える

最終幕へと向けて、

いま

最高潮の熱量を帯びて加速していく。

我が

アルカディア帝国の開拓の手は、

深緑の超次元を越えて

さらなる高次の宙域へと達していた。

星々が幾重いくえにも重なり合う

この神秘の領域において、

私たちは次なる

統治の基盤を確実に固めつつあった。

「父上、周辺宙域の魔力同化率に

異常な波形が検知されました。

物理法則の壁を

内側から食い破るように、

未知の軌道が形成されています」

皇子レグナが

鋭い眼差しで宙図を指し示す。

その表情には、

かつて私たちが

通り過ぎてきた数々の死地や、

理不尽な過去の試練を乗り越えてきた者

特有の冷静と闘志が宿っていた。

「ほう……空間そのものをじ曲げて

侵入してくるとはな」

私は玉座から静かに立ち上がり、

深緑の生命の樹が幾重にも宇宙を貫く

その中心地へと視線を向けた。

かつて私が、

王国から理不尽に追放され、

「役立たず」とさげすまされながらも

『死の静寂しじま』の荒野で

世界を書き換えたあの日の記憶が、

脳裏をよぎる。

今、月影の巫女みことして覚醒した姫が、

我が帝国へと迎え入れられるその裏で、

彼女の過去の記憶と魂の深層を揺さぶる

未知なる次元の移動空間が、

不可避の必然として

展開されようとしていた。

次の新月の夜、

大気圏外の障壁をくだくような轟音ごうおんが、

我が帝国が制圧した

深緑の宙域を激しく揺らした。

それは偶然の産物ではない。

姫が内に秘めた

月の神気と大地の波長が、

次元の壁を共鳴させ、

彼女の運命の軌道を引き寄せた

必然の現象だった。

空間の歪みを引き裂きながら、

漆黒の車体に無数の星屑の紋章を

焼き付けた巨大な蒸気機関車が、

夜空から垂直に舞い降りたのだ。

静止したその鋼鉄の列車こそ、

彼女の魂を迎え入れるために現れた、

あのITSであった。

車輪を回転させるたびに、

次元の狭間はざまからかすかな汽笛と

石炭の燃える匂いをあふれ出し、

周囲に立ち込める霊的な霧を、

瞬く間に切り裂いていく。

重厚な鋼鉄の扉が音を立てて開き、

その車内へと

足を踏み入れた姫の視線の先で、

圧倒的な光景が広がっていく。

列車は無数の恒星系を置き去りにし、

次元の海を渡る軌道へと突入した。

窓の外を

奔流のように流れていく星雲のなか、

食堂車の片隅で、

姫は奇妙な少年の姿を見いだした。

プラチナブロンドの髪を風になびかせ、

小さな惑星から迷い込んできたような

その少年は、

膝の上にかすかに震える

一輪の赤い薔薇ばらを抱きしめていた。

「あなたも、どこかの世界の運命に

しばられた高貴な身分の方なの?」

問いかけた姫に、

少年は静かに首を横に振った。

「王座や称号なんて、

宇宙の歴史の前では何の意味もないよ。

僕にとって本当に価値があるのは、

あの小さな星で、

この一輪の薔薇を

心から愛したという事実だけだ。

目に見える

華やかさばかりを追い求めていると、

一番大切な心の真実は

すり抜けていってしまうんだ」

その言葉は、

姫の胸の奥底に眠る記憶のおり

優しくき乱した。

月影の巫女として覚醒するまでの間、

彼女を取り巻いていたのは常に

外見の美しさや手に入る宝物にばかり

目を奪われる者たちであり、

彼女が抱えていた無限の孤独には

誰も気づかなかったからだ。

「私も……

過去の地上での無明の旅路の中で、

私を育んでくれた老夫婦を

愛していました。

それは目には見えないけれど、

魂の深いところで結ばれた

確かなきずなでした」

少年は痛切な愛の詰まった薔薇を

差し出し、微笑んだ。


©[I・G・ε]All Right Leserved.

ITSインターバーステレポーテーションシステムの轟音が、

次元の境界を切り裂くように静まる。

漆黒の車体に

無数の星屑の紋章を焼き付けた

巨大な蒸気機関車が、

夜空から垂直に舞い降りる。

車窓の外では、

無限に広がる星の海が、

幾重もの光の帯となって流れていく。

我がアルカディア帝国の艦隊が、……。


明日も、7:30 に、投稿します。

よろしくお願いいたします。

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