第2部 第2幕 異界の扉を開く者 第6話 絶対神域の門扉、あるいは無限の踏み台
父子二代の圧倒的な力が共鳴し、
艦内の空気そのものが震え始めた。
「全艦隊、
進路を『絶対神域』へ固定せよ。……
残らずすべてを
我が帝国の領土へと書き換える!」
アスガルドの
巨大な推進機関が激しい光を放ち、
すべての次元の壁を粉砕しながら
未知の根源へと飛び込んでいく。
すべての世界、すべての理、
すべての神々がアーロンの
足元にひれ伏すその日まで、
追放された元無能――
いまや全次元の
覇王となったアーロンの
侵略の進撃が止まることはない。
すべての異世界を統括する最高神議会を、
アーロン帝国の美しき
モニュメントへと書き換えてから数日。
超弩級艦アスガルドの最奥に広がる皇帝私室、
そして艦橋の中央は、
かつての激烈な侵略劇の余韻を飲み込むような、
圧倒的な静寂に包まれていた。
だが、その静寂の裏側には、
あらゆる世界の理を
従えた者だけが放つことのできる、
重厚で
逃れられない覇気が満ち満ちている。
艦長席に深く腰掛けるアーロンの隣には、
かつての幼子の面影を完全に脱ぎ捨て、
冷徹で気高い
少年の容貌を湛えた皇子レグナが立っていた。
その瞳は
アーロンと同じ深遠な黄金の光をたたえ、
異界の全域から集積された無数の魔導データや、
次なる領域の空間座標を、
一瞥しただけで完全に把握・統括している。
「アーロン様、
多層次元回廊の全星系および異界領域の統合、
ならびに再構築が完全に完了しました。
これにより、
我がアルカディア帝国が直接統治する版図は、
この次元系における
すべての空間と理を完全に網羅しています」
側近のルナが
冷徹かつ誇らしげなトーンで報告する。
その額には完璧な任務を
遂行した者特有の微かな高揚感が漂い、
彼女の手元にあるコンソールは、
アーロン帝国の無限の拡大を示す
黄金色のグリッドで埋め尽くされている。
その隣で、
漆黒のドレスを纏いアメジストの瞳を
美しく輝かせる寵妃セレスティアが、
優雅な仕草で一歩前に出た。
「お言葉通りです、我が君主。ですが……
私たちの観測網は、
すでにその先の領域を明確に捉えています。
私たちが制圧した
この『次元系』そのものを内側に包み込み、
すべての運命を糸のように操る、
より高次な根源――現地が
『絶対神域』と称する
領域の存在をです」
セレスティアが
空中に展開したホログラムの映像には、
これまでのどんな異界とも一線を画す、
壮大で禍々(まがまが)しいまでに
美しい光の繭のような
空間が映し出されていた。
そここそが、
このマルチバース全体の理を鋳造し、
すべての世界の命運を勝手に
取り決めている真の元凶であるらしい。
「絶対神域、か」
アーロンは鼻で笑い、冷徹に言い放った。
地上を追放され、無能の烙印を押された
あの日の絶望から始まった私の復讐と
侵略の旅は、ついにこの宇宙の枠組みを超え、
すべての世界の頂点へと辿り着こうとしていた。
かつて
私を切り捨てた者たちが夢見た神の座すら、
今や我が足元の踏み台にすぎない。
「面白い。あの光の繭の奥にいる者たちが、
どんな『絶対の法』を定めていようと関係ない。
この宇宙の、そしてすべての異世界の理は、
俺の言葉以外には存在しないのだからな」
私は立ち上がり、
全軍に響き渡る低い声で号令を下した。
私の背後で、レグナもまた静かに右手を掲げ、
父と同じ眩い
黄金色の【全属性変換】の光をその掌に灯す。
父子二代の圧倒的な力が共鳴し、
艦内の空気そのものがピリピリと震え始めた。
「全艦隊、進路を『絶対神域』へ固定せよ。……
残らず
すべてを我が帝国の領土へと書き換える!」
アスガルドの巨大な推進機関が激しい光を放ち、
すべての次元の壁を
粉砕しながら未知の根源へと飛び込んでいく。
すべての世界、すべての理、すべての神々が
我が足元にひれ伏すその日まで、
追放された元無能――いまや全次元の
覇王となったアーロンの
侵略の進撃が止まることはない。
アスガルドが次元の壁を強引にこじ開け、
絶対神域の最深部へと突入した瞬間、
アーロンたちの目の前に広がっていたのは、
物質でもエネルギーでもなく、
純粋な「世界の設定」と
「運命の糸」が織りなす巨大な神殿都市――
『天上の座』
だった。
そこでは、
純白の翼を纏い、顔を持たない無数の
「高次概念神」たちが、
自分たちの定めたシナリオ通りに
マルチバースが稼働しているかを監視していた。
彼らの存在そのものが、
あらゆる世界の歴史や生命の生死を決定づける
「絶対の法」そのものだった。
「――なんだと!? 外部の次元系から、
我が天上の座の理を無視して
侵入してきた異物があるだと……!?
馬鹿な、そんなことは私たちの
書いた神話の台本には存在しない!」
「侵略者め!
この絶対神域の法に逆らう者は、
存在そのものを『無』へと書き換えてやろう!」
神殿の中央に座す最高位の神が、
全宇宙を揺るがすほどの
憤怒の思念波を放ちながら立ち上がった。
彼らが指を一本動かすだけで、
無数の世界が生まれ、そして消滅する。
まさに、このマルチバース全体の
「絶対的支配者」としての威厳を誇示していた。
だが、その傲慢な叫びを、アーロンは
冷徹な眼差しでただ見下ろしていた。
艦長席から一歩も動かず、アーロンは
右手をゆるやかに前方へ突き出す。
アーロンの腕の中で、
レグナもまた同じ動作で敵を見据え、
その黄金の瞳に冷酷なまでの輝きを宿した。
「お前たちがどんな台本を書こうが、どんな
理を神話として定めていようが関係ない。
そのすべての設定を、今この瞬間から
我が帝国の領土台帳へと書き換えてやる」
私が発した言葉の直後、アスガルドの
艦首から放たれた極太の黄金の光線が、
天上の座の中央へと直撃した。
轟音すら響かない絶対的静寂の中、
高次概念神たちが何億年もかけて構築した
「運命の台本」と「絶対の法」は、
アーロンの【全属性変換】の圧倒的な理の
前になすすべもなく粉々に砕け散り、
みるみるうちにアーロンが
帝国の宮殿を飾る壮麗な黄金の柱や、
永遠のモニュメントへと
その性質を変化させていった。
「なっ……馬鹿な……!?
私たちの定めた絶対の理が、一瞬で別の物質に……!
この男の言葉こそが、私たちを凌駕する
『真の理』だというのか……っ!」
最高位の神の断末魔の絶叫は、
美しい金属音と混ざり合いながら
空間の彼方へと消え去った。
抵抗の概念そのものが失われ、
絶対神域のすべてがアーロン帝国の
完全なる領土へと書き換えられたのだ。
「お見事です、我が君主アーロン様。
絶対神域の
制圧率、瞬時に100%を達成しました。
現地のエロヒム級概念神たちは、すべて
宮殿の礎石および我が帝国の新たな
玉座の装飾品へと変換完了しています」
セレスティアが完璧な挙措で一礼し、
冷徹な美しさを湛えた笑みを向ける。
ルナもまた、
コンソールを華麗に操作しながら、
アーロン帝国の
完全勝利を讃えるように深く頭を垂れた。
「さすがです、父上。
あの神々が持っていた
『世界の運命を操る権能』のすべてを解析し、
我が帝国の防衛網へと完全に組み込みました。
これより、
このマルチバースにおける全ての因果は、
完全に私たちの手中にあります」
レグナが冷徹でありながらも
誇らしいトーンでそう告げ、
私の顔をまっすぐに見据えた。
その頼もしい姿に、
私は満足げな笑みを浮かべ、
我が子の肩にそっと手を置いた。
「よくやった、レグナ。……だが、
これで全ての征服が終わったと思うなよ」
私は立ち上がり、
完全に我が領土となった天上の座の最奥、
すべての次元の源流を見下ろせる
新たな「究極の玉座」へと歩みを進めた。
その背後には、ルナ、セレスティア、
そして次代の覇王レグナが
完璧な隊列を組んで従っている。
「私たちの眼下のマルチバースを平定した今、
私たちの視線はさらにその外側――
いまだ誰も踏み込んだことのない
『無数の並行宇宙』と、
真の神々の根源へと向けられる。……
全軍に告げよ。 アーロン帝国の
侵略の進撃に、終わりなど存在しない!」
追放された無能だった男の物語は、
星々の海を統べ、すべての異世界を
我が物にしてもなお止まることなく、
さらなる無限の次元の彼方へ向けて――
いま、新たな
伝説のページをめくり始めたのだった。
©[I・G・ε]All Right Leserved.
すべての運命を鋳造する絶対神域――
『天上の座』を
アーロン帝国の完全なる領土へと書き換えてから、
幾星霜の時が流れた。
かつて高次概念神たちが世界の設定を
独占していたその神殿の最奥には、
かつての
素朴な玉座とは比較にならないほど巨大で、
あらゆるマルチバースの因果律を束ねる
「究極の黄金の玉座」が鎮座していた。
その玉座の傍らに立つアーロンの眼下には、……。
明日も07:30 に、投稿します。
よろしくお願いいたします。




