第二幕 第六章 【かつてのヒロインの凋落 】
【 かつてのヒロインの凋落 】
仇なすべき帝国軍を泥沼のなかに沈め、静寂を取り戻したアルカディアの領地に、一人の女がたどり着いた。
かつての俺を「石潰し」と切り捨て、王立魔導師団の看板を背負っていた女魔導師、エレーナだ。
かつての高慢な面影はどこへいったのか。そのローブは泥に汚れ、魔法の杖は半分に折れている。彼女はアルカディアの城門前で、泥の中に膝をついた。
「……。アーロン。久しぶりね」
エレーナは顔を上げ、媚びるような笑みを浮かべる。
「帝国が滅びた今、行き場を失ったわ。……でも、あなたは昔から私に優しかったじゃない。この最強の国で、以前のように私のサポートをしてくれるなら、今の状況も許してあげてもいいのよ」
俺は思わず吹き出しそうになった。
あまりのショックに、状況を全く理解していないのか、自分が追放した男が築いた国に来て、まだ自分が優位だと思い込んでいるのだ。
「……。エレーナ、一つ聞くが。あんたは、俺がどうして『追放』されたか覚えているか?」
「そんなの、無能だったからでしょう?」
彼女は当然のように言い放った。俺は溜め息をつき、門番たちに目配せをした。
「この国に『無能』は必要ない。だが、労働力ならいくらでも歓迎する」
「……。え?」
「あんたのその魔力、国を浄化するための『変換素材』としてちょうどいい。……今すぐその高慢なプライドを捨てて、地下水路の掃除から始めるなら、最低限の食事は与えてやる」
エレーナの顔が、絶望と怒りに歪む。
「私が、地下掃除ですって!? ふざけないで! 私は賢者様のお気に入りなのよ!」
「なら、帰ることだ、エレーナ。魔物に食い殺されるか、飢え死にするか、好きな方を選べばいい」
さっと俺が、背を向けると、彼女は震えながら、泥水の中に顔を伏せた。かつて俺を見下ろしていた瞳から、敗北の涙がこぼれ落ちる。
「やります、やります。やらせてください。……」
帝国という後ろ盾を失った彼らは、もはや俺の力にすがるしかない。
これこそが、俺が追放された日からずっと待ち望んでいた光景だ。
しかし、これで終わりではない。彼女の背後から、もっと不気味な気配が近づいていることに、俺の【全属性変換】の感知スキルが警告を発していた。




