第17話:最外縁の汽笛と鋼鉄の凱歌
第8部
アーロンが静かに右手を掲げると、
全属性変換能の聖なる光が
Asgard α から α 銀河団全域へと
穏やかに行き渡り、
過酷な最外縁で地道に働く者たちの魂が、
一つの静かな旋律へと溶け込んでいった。
もてなしの儀が一段落すると、
場の空気は即座に引き締まり、
最外縁の統制と防衛に関する
厳粛な実務の場へと移行した。
迎賓の間の重厚な側扉が開き、
最外縁の開拓線を前線で支える
軍参謀、
精錬技術長、
そして前線病院の代表からなる
臣民陳情団が入室してきた。
彼らは
アーロンの姿を目にするや否や、
感涙を流しながらその場にひざまずき、
深く額を床に押し付けた。
「聖王アーロン様……!
セレスティア総司令官閣下……!」
代表として進み出た無骨な精錬技術長が、
緊張に声を震わせながらも、
切実な思いを込めて陳情の書簡を差し出した。
「アーロン様!
謹んで直訴の陳情をお許しください!
我ら α 銀河団の臣民、
最外縁における不条理の刈り取りと
要塞陣地の拡大に向け、
昼夜を問わず採掘と建設に
邁進しております。
吾郎司令官の強力な指導のもと、
補給線の維持と前線基地の構築は
順調に推移しております。」
精錬技術長は一息つき、さらに言葉を強めた。
「……しかしながら、
最外縁のさらに外側に広がる
『未定義の超空間領域』より
突如として押し寄せる、
正体不明の『次元干渉嵐』の
発生頻度が、先月より
急速に高まっております!
この干渉嵐により、
外郭の採掘ドローンおよび
長距離通信用ビーコンの
物理的損壊率が増加しており、
前線基地の拡張スピードに
予期せぬ遅延が生じつつございます!
どうか……
どうか我が α 銀河団へ、
本国最新鋭の
『超次元位相固定アンカー』の追加導入と、
聖王様直接の御力による
当宙域の次元干渉の平定を
ご認可いただきたく存じます!!」
その陳情もまた、
己の保身や休息を求めるものでは
一切なかった。
最外縁の防衛線を
一日も早く完成させ、
聖王への絶対の統制を
さらに先の領域へ広げるための、
魂の底からの叫びであった。
セレスティアが端末を操作し、
差し出された次元干渉嵐の測定データを照合する。
「陛下。照合を完了いたしました。
彼らの陳情に偽りはございません。
最外縁特有の未定義空間から滲み出る
位相ノイズが、
物理機器へ
負担を与えているのが原因でございます。」
アーロンは
陳情団を見つめ、力強く深く頷いた。
そして、右手を静かに前方に掲げると、
全宇宙の理を司る
【全属性変換能】の波動を解き放った。
『Asgard α 』の艦体を超えて、
最外縁 α 銀河団の数千光年に及ぶ
全宙域へと広がっていく聖王の光。
未定義の超空間から押し寄せていた
猛烈な『次元干渉嵐』の波形が
一瞬にして
完璧な幾何学波形へと相転移し、
暴れていた空間の歪みが
まるで鏡面のように
滑らかに静まり返っていった。
さらに、アーロンは
S - オムニス - Aを通じて、
本国工廠へ最新型
『超次元位相固定アンカー』の
緊急配備命令を即座に送信した。
「……っ!?
次元干渉嵐の波動が……
完全に消滅した……!
宙域全体の空間位相が、
あり得ざる高精度で
完全固定されている……!
聖王様、直々の御力を賜り、
さらに最新アンカーの手配まで……!」
精錬技術長をはじめとする
陳情団の臣民たちは、
眼前で起きた圧倒的な奇跡と
決定的な恩寵に全身を震わせ、
ぼろぼろと大粒の涙を流しながら叫んだ。
「ありがたき幸せ……!
ありがたき幸せにございます、
聖王様!!
我ら α 銀河団の臣民、
この身が砕け散ろうとも
最外縁の鉄壁となり、
聖王様の御光を
全宇宙の果てまで届けて見せます!!」
それを見届けたセレスティアは、
美しくも威厳に満ちた笑みを浮かべ、
全宙域へ向けて最終布告を発令した。
「全軍、臣民たちよ。
これより我が聖国は、
さんかく座銀河にて正式布告された
宇宙全域統合交響曲第1番
《絶対なる秩序と調和の凱歌》
の第2楽章編纂シークエンスへと
移行する!
吾郎司令官率いる α 銀河団の
力強き誓いと武勇の歌声を、
陛下の絶対なる旋律へと融合させよ!」
「おおおーーーっ!!!」
本国アルカディアから6億光年。
最外縁 α 銀河団の星海に、
鋼鉄の汽笛と
臣民たちの歓喜の凱歌が響き渡り、
聖国ルネサンスの新たな歴史が
ここに刻まれたのだった。
本日19:30 に投稿します。
【セレスティア通信】
聖宮のひととき 〜APGが繋ぐ3人の絆〜
先日、陛下が作製された
完全プライベート通信端末
「APG」。
遠く離れた各銀河団の司令官たちが
密やかに
心を通わせ合っているようです。
ジュエダン、シルヴィア、吾郎の三人が、
それぞれの執務を終えた後に
お茶会のような温かな時間を
過ごされたとのこと。
その時の様子を、
後日お会いした際に
とても嬉しそうに
教えてくださいましたので、
その微笑ましい一幕を
ご紹介いたします。
[ジュエダン、シルヴィア、
吾郎による APG歓談の様子]
ジュエダン:
「ふう……今日の ∞ 銀河団の巡回と
サテライトの調整も無事に完了よ。
ふたりとも、息息災?
APGをかけると、
本当にすぐ隣に二人が立っている
みたいで不思議な感覚ね」
シルヴィア:
「ええ、ジュエダン。
ε 銀河団の星海も、
今夜はとても穏やかよ。
吾郎の顔も、
まるで近くの椅子に座っている
みたいに鮮明に映っているわ。」
吾郎:
「うん、俺もびっくりしたよ。
S-オムニスの公的回線とは違って、
副官たちの報告音声も入らないから、
本当に俺たちだけの静かな時間だ。」
シルヴィア:
「ふふ、ε 銀河団でも同じよ。
予言の巫女として
月影の歌を紡いでいた私が、
いまや臣民たちが
自発的に生み出す美しい詩歌の
波に包まれている……。
目に見える物質だけでなく、
心と精神に夢を灯すレグナ様の救済は、
真に聖王陛下の御心を
体現なさっているわね。」
吾郎:
「そうだな。
おれが胸に抱く
この一輪の赤い薔薇と同じで、
一番大切なのは
『目に見えない心の真実』なんだ。
ジュエダン:
「違いないわ!
また手が空いたら、
このAPGで集まりましょう!」
シルヴィア:
「ええ、また近いうちに。
ふたりとも、良い夜を。」
吾郎:
「うん、
おやすみなさい、ふたりとも。」
【セレスティアのひとこと】
「公務の合間にAPGをかけ、
こうして何気ない会話を
交わし合えるプライベートな時間……。
3人が嬉しそうに語ってくれた
その顔を見て、
アーロン陛下が
このグラスをお作りになられた
真のご意図がよく分かりました。
全多宇宙を支える司令官たちの心が
こうして温もりで満たされている
ことこそ、帝国の何よりの宝です。」
続【セレスティア通信】(1)
最外縁到達・α銀河団
(吾郎司令官)公式統制記録
本国聖宮の総司令官セレスティア、
ならびに
副官部ルナ・エレーナにより、
最外縁到達および
α 銀河団における
歓迎・視察・陳情処理が
以下の通り公式記録された。
α 銀河団への到達および
吾郎軍との合流完了
本国より実距離6億光年の果てに位置する
最外縁 α 銀河団において、
吾郎司令官(『Asgard α』/『ITS α』/
2名の副官/『S-オムニス-α』/)率いる
全艦隊との完全合流シークエンスを完了。
最外縁領域全体における
最高度の歓迎および絶対的忠誠を確認。
次元干渉嵐の平定と陳情処理の完了
臣民代表団より上奏された
「未定義空間からの
次元干渉嵐による建設遅延」に関する
陳情に対し、
聖王自ら
【全属性変換能】を行使し、
宙域一帯の空間位相を完全相転移・平定。
さらに
『超次元位相固定アンカー』の配備を認可。
最外縁における絶対的防衛基盤が完成した。
「宇宙全域統合交響曲第1番」
第2楽章編纂の開始
α 銀河団の平定に伴い、
宇宙全域統合交響曲第1番
《絶対なる秩序と調和の凱歌》
(Symphony No. 1
in Universal Harmony
"Triumphal Hymn of Absolute Order")の
第2楽章(α・ε・∞銀河団)編纂
シークエンスへの移行を公式決定。
続【セレスティア通信】(2)
α 銀河団副官体制および
「宇宙全域統合交響曲第1番」第2楽章
編纂(補足)
本国聖宮の総司令官セレスティア、
ならびに副官部ルナ・エレーナにより、
α 銀河団における
副官構造の補足説明および
交響曲編纂記録(補足)が
以下の通り記述された。
α 銀河団における吾郎付き副官
およびS-オムニス付き副官の身分・役職解説
ルキア: 吾郎司令官直属の副官
(Asgard α付き副官)。
超弩級旗艦Asgard α の艦内実務
および吾郎の補佐を地道に務める。
サンディ:
吾郎司令官直属の副官(ITS α 付き副官)。
多宇宙間跳躍システム ITS α の現場運用
および補給線の連絡実務を担当する。
『副官- α 1 』:
基幹制御システム S - オムニス - α の
専属AI副官(S-オムニス付き副官)。
ルキア副官の実務出力を
バックアップする基幹インターフェース。
『副官 - α 2 』:
航法管制システム S - オムニス - α・Navi の
専属AI副官(S-オムニス付き副官)。
サンディ副官が扱うITS α の
運行データを補助する。
第2楽章(α銀河団)編纂の進捗
吾郎司令官、人副官、
およびS-オムニス付き副官(α1・α2)が
淡々と積み上げる実務の営みが、
聖王の【全属性変換能】によって
相転移・昇華され、
大交響曲第2楽章の基調主題として静かに定着した。




