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第14話:ミルファクの歓迎と揺らぎなき陳情

第8部

本国アルカディアから

実距離にして約3億光年。


極めて密度の高い星間物質と

巨大な重力井戸がひしめく

ペルセウス座 α 銀河——ミルファク宙域。


多宇宙間跳躍システム『ITS』の

重厚な車輪が次元の交差面を削り取り、

香ばしい石炭の匂いと蒸気の音とともに

位相を固定させた瞬間、

目の前には

本国周辺の穏やかな星海とは一線を画す、

無骨で巨大な工業惑星群と

小惑星群が描く巨大な円環が広がっていた。


専用旗艦『アーロン・グラディウス』の

ブリッジにて、

中央モニターに映し出される

巨大精錬プラント群の威容を見つめる

アーロンの側で、

『S-オムニス-A』の操作卓に着座した

『副官-A1』が滑らかに音声を響かせる。


「アーロン様、セレスティア様。

 第一中継点、

 ペルセウス座 α 銀河ミルファク宙域への

 着艦および

 位相の完全固定を確認いたしました。

 本国からの通信遅延を相殺する

 量子同期網、正常稼働中。

 本宙域の行政長官および

 臣民代表団より、

 最敬礼とともに

 着艦の歓迎要請が届いております。」


アーロンが静かに頷くと、

隣に立つ総司令官セレスティアが

優雅に裾を翻し、完璧な軍礼を捧げた。


「本国から3億光年という

 距離を隔てたこの開拓前線においても、

 アーロン様の威光は

 何一つ衰えておりません。……

 アーロン様、まずは

 この宙域の臣民たちの声と、

 その献身の果実をお確かめください。」


『アーロン・グラディウス』から

専用の移送艇が射出され、

ミルファク宙域の行政中枢都市

「鋼鉄の天頂」の主ドックへと滑り込む。


ハッチが開いた瞬間、

重厚な鋼鉄の建造物で埋め尽くされた

ドック全体を揺るがすほどの、

壮大な地鳴りのような歓声が響き渡った。


「聖王アーロン様!

 セレスティア総司令官閣下!

 万歳! 万歳!! 万歳!!!」


ドックの左右に隙間なく居並ぶのは、

過酷な星間物質の採掘や

超巨大精錬プラントで

肉体を削りながら働く

ミルファク宙域の臣民たちであった。


彼らは

作業服や厚手のアラミド軍装を身に纏い、

寸分の乱れもなく

胸前に拳を当てる最敬礼を捧げながら、

アーロンの降臨にその瞳を熱く濡らしていた。


通路の両脇には、

この苛烈な宙域で採掘された

希少な結晶鉱石を研磨して作られた

光のアーチがいくつも覆いかぶさり、

頭上からは

本国とミルファク宙域の絆を

象徴する白銀の紙吹雪が舞い散る。


歓声を背に受けながら、

アーロンとセレスティアは

行政中枢の迎賓の間へと足を進めた。


迎賓の間に用意されていたのは、

過酷な外郭環境で生きる

臣民たちが持ち寄り、

最高の職人技で調理した

祝宴の品々であった。


ミルファクの

超高圧小惑星帯の熱流で煮込まれた

深海魚の温煙燻製、

極低温真空空間で熟成された

希少な星間果実のジュレ、

そして本国の格式に倣(なら)って

特別に醸造された濃密な黒麦の祝い酒。


行政長官は深々と頭(こうべ)を垂れ、

慎重な取り立てで杯(さかずき)を捧げた。


「アーロン様、セレスティア閣下。

 本国より3億光年もの闇を抜け、

 このような僻地の工場宙域へ

 ご降臨賜りましたこと、

 全臣民を代表して

 深く感謝申し上げます。

 この過酷な気候と

 重力井戸の底にあっても、

 我らが生き抜き、鉄を打ち、

 本国と最外縁 α 銀河団を繋ぐ

 糧を生産できるのは、

 ひとえに

 アーロン様の絶対なる統制と

 秩序があるからこそにございます。」


セレスティアは

注がれた果汁のグラスを手に取り、

澄んだ眼光で行政長官を見つめた。


「行政長官。

 見事なもてなしと

 厳格な整備状況です。

 陛下も、

 このミルファクの臣民たちの忠義と

 高い生産性を深く評価しておられます。」


もてなしの儀が滞(とどこお)りなく済むと、

部屋の雰囲気が引き締まり、

実務と統制の場へと遷移した。


迎賓の間の重厚な扉が再び開き、

厳格な姿勢を保った臣民代表団——

長年の採掘で鍛え上げられた

頑丈な身体を持つ作業頭や、

精密プラントの技術者からなる

陳情団が入室してきた。


彼らは聖王(アーロン)の姿を目にすると、

畏敬の念を込めてその場に膝をつき、

最敬礼の姿勢をとった。


代表の老作業頭が、

緊張で声を震わせながらも、

はっきりと筋の通った声で陳情の書簡を差し出した。


「アーロン様。

 我らミルファク採掘・精錬臣民団、

 身の程を弁(わきま)えず、

 直訴の陳情をお許しください。

 現在、我らは

 最外縁の吾郎司令官率いる

 α 銀河団へ向け、

 年間予定数を2割上回る

 超硬質装甲鋼および

 量子通信用素子を増産・

 出荷しております。

 臣民一同、

 陛下と本国の期待に応えるべく、

 不眠不休の作業を誇りとしております。」


老作業頭は息を呑み、さらに言葉を続けた。


「……しかしながら、

 ミルファク宙域の

 第4採掘帯におきまして、

 星間ガスの急激な密度上昇に伴い、

 砕石ドリルおよび

 自動移送路の摩耗率が

 想定を大幅に超えております。

 生産ラインを止めることは

 陛下への不忠。

 なれど、

 現在の機器の限界速度では、

 来期の補給目標に対し

 数%の乖離が生じる危険が

 ございます。どうか……

 我が宙域へ、最新型の

『高密度粒子整流シールド』の

 追加配備と、

 基幹ドリルの交換部材の優先供給を

 ご認可いただきたく存じます!」


その陳情は、

己(おのれ)の利益や保身のためではなく、

ただひたすらに

「聖王への忠誠と、最外縁への

補給責任を果たし抜くため」の

必死の訴えであった。


セレスティアが側に歩み寄り、

陳情書簡のデータタグを端末で読み取り、

瞬時に数値を照合する。


「陛下。確認いたしました。」

明朝 7:30 に投稿します。


【セレスティア通信】


『α銀河団巡幸・途上三銀河視察編』(1)


本国アルカディアから三億光年・

ペルセウス座α銀河(ミルファク宙域)到達および航路深部視察記録


本国聖宮の総司令官セレスティア、

ならびに副官部(ルナ・エレーナ)により、

α 銀河団へ至る果てしなき次元航路の

第一中継点における視察状況が以下の通り公式記録された。


本国から三億光年の深宇宙・

ペルセウス座α銀河(ミルファク宙域)への着艦


本国アルカディアが位置する中枢宙域から

実距離にして約三億光年。


極めて密度の高い星間物質と

巨大な重力井戸がひしめく

ペルセウス座 α 銀河(ミルファク宙域)の境界領域へ、

レグナの『ITS』による第一段階次元穿孔を経て

『アーロン・グラディウス』および

専用移動システムが進入を果たした。


漆黒の虚空に広がる莫大な星雲の重圧に対し、

アーロンは『S-オムニス-A』を介して

全属性変換波形を照射し、

宙域全体の位相を安定化させた。



最外縁へ至る補給・

産業基盤の距離構造点検


最外縁 α 銀河団までの全行程のうち、

約三分の一に位置する当宙域は、

本国からの兵力輸送

および資源補給線を維持するための

決定的な兵站(へいたん)拠点である。


アーロンは自ら艦橋の全方位投影網を見据え、

数千光年にわたって網の目のように伸びる

小惑星鉱山群および

自動精錬プラント群の稼働状態を精査した。


本国からの長大な距離による通信遅延を

完全に相殺する量子同期網の正確な運用が確認された。



総司令官セレスティアによる

位置・補給線の公式評価


『S-オムニス-Central』を通じて

当宙域の視察ログを受信したセレスティアは、

「本国から三億光年を隔てたこの深宇宙においても、

 アーロン様の統制と絶対秩序は完璧に浸透している。

α 銀河団への補給線に一切の隙なし」と評価。


第一副官ルナおよび第二副官エレーナに対し、

次なる跳躍点

(アンドロメダ第2銀河・M32宙域)への

進路座標更新を命令した。

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