第13話「S-オムニスの予見」
第7部
セクター・アルファ- 9 の
平定を終えた
聖国軍の遠征艦隊が、
さらに深遠なる宇宙域へと
足を踏み入れようとするその直前。
フェニックス銀河団の
中枢に座する
聖王アーロンの手元の端末にて、
超量子知能『S-オムニス』が
微かな光の波紋を広げた。
「……なるほど。
隠れるつもりで
いたようだが、
愚か者どもの
全貌はすでに丸裸か。」
アーロンの
重みのある呟きに
呼応するように、
S-オムニスは
エル・ゴルド(El Gordo)の
深奥に巣食う
敵中枢の全情報構造を、
寸分の狂いもなく
立体ホログラムとして
浮かび上がらせた。
そこにあったのは、
巨大な艦艇の群れを
盾にして身を潜める、
腐敗しきった
権力者たちの姿であった。
【エル・ゴルド
統括評議会:構造分析ログ】
旧王国の亡命貴族層
(主謀者グループ)
かつて
聖王アーロンを
王国から不当に追放し、
その後
自らの無能と腐敗によって
自滅・崩壊した
旧王国の元凶ども。
彼らは
その罪を直視することなく、
生き延びた先である
エル・ゴルドの闇に紛れ込み、
今なおアーロンを
「危険な魔王」と
喚き立てることで
結束を保っている。
異宙域の強欲な軍閥・
執政官たち
独自の宙域で
搾取と暴政を重ね、
他者の星々を
踏みにじることしか知らぬ
野心家たち。
奴らは自らの保身と
無限の支配欲を満たすため、
膨大な自動造船プラントと
暗黒物質の供給網を悪用し、
数のみが取り柄の
巨万の艦隊(El Gordo)を
組織して盾としていた。
深奥の要塞都市、
彼らが隠れ家として陣取るのは、
星系そのものを
喰らい尽くすような
超重力歪曲宙域の最奥。
自動生産される艦艇の
壁の向こう側で、
いまだに
自分たちの権益が
揺るがないと錯覚している。
S-オムニスは、
敵首脳陣の個々の身元、
過去の背任の履歴、
さらには
隠し持っている
自動プラントの座標に至るまで、
すべてのデータを
わずか一瞬の演算で
解析し尽くしていた。
敵が
どれほど
巨万の艦隊を盾にしようとも、
どれほど
深遠なる歪みの背後に
身を隠そうとも、
S-オムニスの
完全同期ネットワークの前では、
すべてが
手の内のチェス盤の上の
出来事に等しかった。
アーロンは
その完全なる分析データを
一瞥すると、
機能美を湛えた声で命じた。
「情報の収集は完了した。……
セレスティアが治める
本国の秩序、そして
我がフェニックス銀河団の
絶対防衛。
そのすべてを
揺るがそうとした
愚行の代償を、
あの亡者どもに教えてやれ。」
S-オムニスを通じて、
その致命的なまでの
敵中枢情報――
「エル・ゴルド統括評議会の
正体と隠れ家の全座標」は、
最前線で進撃の時を待つ
覇王レグナ、そして
吾郎、
シルヴィア、
ジュエダンら3軍の
総司令システムへと、
一瞬にして完璧に共有された。
逃げ場など
最初から存在しない。
絶対の秩序による
粛清のカウントダウンが、
静かに、
そして確実に始まろうとしていた——。
*
セクター・アルファ- 9 を
超えた先、
宇宙の深淵に位置する
未知の空間歪曲領域。
そここそが、
El Gordoの
中枢にして、
すべての元凶が潜む
最終到達点であった。
「……敵中枢陣地、
全貌を露呈。
超重力歪曲宙域の最奥部に、
巨大な構造体(要塞都市)を
確認。
周囲は無数の
自動造船プラントから
吐き出された
巨万の艦隊によって
完全に覆われております。」
吾郎軍・統合参謀本部。
超量子情報演算参謀部の
『ITα-1』が、
S-オムニスを介して解析された
最新の空間座標を読み上げる。
実務運用参謀部長の
『ASα-1』は、
光彩センサを
一定の周期で明滅させ、
静かな音声で
下命の準備を整えた。
「敵は
巨万の艦隊を文字通り
『盾』とし、
要塞の奥底に籠もる構え。……
だが、
S-オムニスによって暴かれた
その構造に、
もはや戦略的秘匿性は
何一つ残されていない。」
同刻、
全軍統率の要たる
覇王レグナの総旗艦。
「……レグナ様。
エル・ゴルド統括評議会の実態、
および
要塞都市の全座標データが
確定いたしました。」
AI・rℓが、
S-オムニスの
完全同期による
青い立体戦術図を
滑らかに空中へ展開し、
AI・rrが言葉を重ねる。
「旧王国の亡命貴族どもと、
異宙域の強欲な
軍閥たちが結託した
最後の巣窟にございます。」
戦術図を見下ろす
覇王レグナの厳かな顔容に、
光が宿る。
「自らの保身のために
無数の艦船を盾にし、
深奥に身を隠すか……。
かつて父上を陥れた
者どもが
辿り着いた末路が、
そのような臆病な
烏合の衆の要塞とはな。」
レグナは全軍に向け、
一寸の狂いもない
絶対の進撃命令を下した。
「吾郎、
シルヴィア、
ジュエダン各軍よ、
包囲網を限界まで絞り込め。
一兵たりとも逃がすな。
あの醜悪な要塞都市を
完全に包囲し、
我が手ですべてを収拾する。」
後方絶対拠点・
フェニックス銀河団において
聖王アーロンが築いた
無限の補給網とASシステム。
そして、
アルカディア帝国本国の
聖宮において
総司令官セレスティアが
完璧に維持する全領域の治世。
完全無欠の
バックアップに支えられた
聖国軍の遠征艦隊は、
敵の待つ深淵の要塞都市へと、
静かに、そして圧倒的な
機能美をもって肉薄していった——。
本日 19:30 に投稿します。
【セレスティア通信】
El Gordo首脳陣の
構図と構造分析について
本国聖宮の総司令官
セレスティアが、
全征服宙域の
統治ネットワークを
統括する中で解析・特定した
「エル・ゴルド統括評議会」の
全貌は以下の通りである。
最高幹部会
(エル・ゴルド統括評議会)
本件の意思決定および
利権分配の最高中枢。
自らの罪と無能を隠蔽するため、
組織全体を
情報統制と恐怖支配で固めている。
旧王国の亡命貴族
(主謀者グループ)
かつて
聖王アーロンを
王国から不当に追放した
元凶ども。
自滅・崩壊した旧王国から
逃げ延びた後も、
己の正当性を証明するために
アーロンを「危険な魔王」と
虚偽宣伝し続け、
組織の求心力を維持する
精神的支柱(害悪)として
機能している。
異宙域の
強欲な軍閥・執政官たち
独自の宙域で
過酷な搾取と暴政を
重ねてきた野心家たち。
亡命貴族どもの
虚飾と利害が一致し、
手を取り合うことで
強大な連合体を形成した。
【セレスティア通信(続)】
自動造船プラントと
「盾」としての艦隊運用について
エル・ゴルド統括評議会が
依拠する物質的基盤、
および防衛ドクトリンの
解析結果は以下の通りである。
暗黒物質の不当濫用
彼らは
領域内のダークマターおよび
空間エネルギーを
無限の資源と勘違いし、
極限まで
不当に搾取・濫用している。
自動造船プラント網
搾取した資源を原資として、
超巨大な自動造船プラント群を
ダークマターの特異点周辺に
多数建造。
質を無視した
「数のみの艦隊(El Gordo)」を
機械的に量産し続けている。
「艦隊の盾」と深奥の要塞都市
生み出された巨万の艦隊を
自らの肉の壁(盾)として
前方にバラ撒き、
本体である首脳陣は
重力歪曲の最奥に建造した
要塞都市の深部へと
引きこもっている。
自らの身を守ること以外に
機能を持たない、極めて
矮小かつ合理性の欠如した
防衛構造といえる。




