第4話「重厚なる影」
第7部 vs EL GORDO 編
「……セクター・アルファ- 9
全宙域に、
異次元 穿孔の
広域大増幅を検知」
吾郎軍・統合参謀本部。
超量子情報演算参謀部の
『ITα-1』が発する
平坦な合成音声が、
ホログラム盤の
青々とした光のなかで
規則正しく響く。
「El Gordo本隊、
後続戦力を全方位から投入。
敵艦隊の総数、12,000を超え……
さらに増大中。
S-オムニスによる処理負荷試算、
従来の800%へと急上昇」
実務運用参謀部長の
『ASα-1』は、
光彩センサを
一定の周期で点滅させ、
即座に
実務ラインの分析を展開した。
「敵の狙いは明確。
単なる多角侵攻ではなく、
空間を
物理的な艦隊の質量で
埋め尽くし、
我が方の
格子遮断網そのものを
歪曲の飽和によって
力押しで破砕する算段だ。……
ただちに
可視化データを
司令官専属副官へ送信」
吾郎軍・旗艦
『アスガルドα』司令室。
「司令官。
参謀本部
(ASα部・ITα部)より
緊急事態の入電です」
専属副官が
静歩で吾郎へ歩み寄り、
ホログラム空間に赤く揺らめく
巨大な群陣を展開した。
「El Gordo本隊、
後続の主力規模を
一挙に投入。
その数、
速報時点で
12,000隻を超過。
セクター・アルファ- 9の
全外縁部を
力押しで
包囲しにかかっております」
吾郎は腕を組み、
眼鏡の奥の眼光を
わずかに鋭くさせた。
落ち着いた、
しかし重みのある声が落ちる。
「数の暴力で
空間のキャパシティを
潰しにきたか。……
S-オムニスの計算上、
単独での完全相殺には
限界点が近いな」
「はい。
ITα部およびS-オムニスは、
局所集中防衛へのシフトと
段階的後退作戦の演算を
開始しております」
同刻、
全軍統率の要たる
覇王レグナの総旗艦。
「……レグナ様。
吾郎軍の展開する
セクター・アルファ- 9に
敵主力12,000隻以上が
新鋭出現。
空間飽和攻撃へ移行した旨、
S-オムニス経由の
最新ログが入りました」
左副官役のAI・rℓ が
可視化された
高精度空間ログを
美しく空中へ提示し、
右副官役のAI・rr が
滑らかな
合成音声で言葉を重ねる。
「吾郎軍のASα部
およびITα部は
防衛網の局所再編に
入っておりますが、
敵の物理的質量は
今なお増加傾向にあります」
広大な戦術図を見下ろす
覇王レグナは、
重厚で深みのある声音を
静かに響かせた。
「敵もなりふり構わず
牙を剥いてきたか。
吾郎の戦術と
S-オムニスの演算に
揺らぎはないが、
力押しによる
想定外の摩耗は避けるべきだ」
レグナは一息置くと、
2機のAI副官へ
毅然とした眼差しを向けた。
「念のため、
シルヴィア軍が
吾郎軍の後詰に入れ。
側衛宙域のシルヴィアへ
直ちに回線を繋げ」
「御意」
rℓ とrr の光彩が
一瞬明滅し、
0.001秒で
側衛宙域を固める
シルヴィア軍へと
レグナ総帥の
絶対命令が打電された。
後方に
絶対の安泰をもたらす
聖王アーロンと
総司令官セレスティア。
その揺るぎない
守護の基盤のもと、
覇王レグナによる
迅速かつ盤石な
前線配置変更が下された。
膨れ上がる
El Gordoの巨万の群れに対し、
聖国軍は
二つの軍勢による
確実なる
重層陣形をもって迎え撃つ——。
セクター・アルファ- 9 後方、
座標 PX - EG - 00812。
覇王レグナ総帥の
絶対命令を受け、
側衛宙域を展開していた
シルヴィア軍・先鋒艦隊が
一斉に空間歪曲跳躍
(ディストーション・ジャンプ)
を完了した。
暗黒の宙域に、
銀白の鋭利な艦影を持つ
シルヴィア軍の主力艦群が
整然と陣を形成していく。
「……覇王レグナ様より
直々の後詰命令、謹んで受領。
これより吾郎軍の背後を固める」
シルヴィア軍・旗艦
『アスガルド ε 』司令室。
凛とした佇まいの
女性司令官シルヴィアは、
静かな威厳を
湛えた声音で指示を下した。
「参謀部(ASε部・ITε部)へ伝達。
吾郎軍の統合参謀本部
(ASα部・ITα部)と
S-オムニスの
超量子回線を即時完全同期。
我が軍の防衛パラメータを
吾郎軍の
『三位一体格子遮断陣』の
外縁へ重畳させなさい」
「了解。
ASε・ITε部、
回線同期シークエンスを開始」
明朝 7:30 に投稿します。




