第3話「格子遮断(グリッド・ブロック)」
第7部 vs EL GORDO 編
セクター・アルファ-9。
東方・西方・中央の
3宙域にまたがる漆黒の空間。
El Gordo本隊が
放った計2,000隻の
強行突撃艦隊は、
巨大な空間穿孔の光柱とともに
同時に現れ、
重力推進器を限界まで
駆動させて出撃を開始した。
「……敵本隊、3宙域より
同時突入。
空間歪曲波の振幅、
予測値の98.4%に達す。」
吾郎軍・前線実行艦隊(FLα部)
の無人旗艦ブリッジ。
有機無機ハイブリッドAI
『FLα-1』の光彩センサが
一定の周期で青く明滅し、
処理データを
参謀部へ連続送信する。
「ASα部およびITα部より
発動承認を受信。……
『三位一体格子遮断陣』を起動」
FLα-1の平坦な
シークエンス展開コードに従い、
3つの宙域に潜伏していた
数百隻の無人駆逐艦から、
超量子知能S-オムニスの
演算に基づく
高密度位相歪曲格子
が、一斉に放射された。
一見すると、
広大な宇宙空間に
不可視の3次元網目が
張り巡らされたに過ぎない。
しかし、
そこへ突進した
El Gordoの2,000隻の重力波は、
格子に接触した瞬間に
物理法則の干渉を受けた。
「推進波、偏向不能……!
重力場が
網状に分解されていきます!」
El Gordo中央突撃隊の艦長が
絶叫するより早く、
歪曲格子に捕縛された
推進エネルギーは
互いに打ち消し合い、
巨大な運動ベクトルを
内部へと跳ね返した。
東方、西方、そして中央。
3つの宙域を
同時に進撃していた
2,000隻の巨大艦群は、
自らが放った
凄絶な推進力によって
自らの装甲を捻じ切り、
一切の閃光を残すことなく
歪みの隙間へと吸い込まれ、
自爆・消滅していった。
吾郎軍・統合参謀本部。
「……3宙域における
『三位一体格子遮断陣』の
適用完了。
敵本隊2,000隻の無力化を確認」
超量子情報演算参謀部の
『ITα-1』が、
S-オムニスの処理ログを
0.0001秒で更新する。
実務運用参謀部長の
『ASα-1』は
無駄な挙動を排したまま、
平坦な音声で追認した。
「全艦隊の歪曲格子補正率、
100%。
実務運用ラインに破綻なし。……
可視化データを
司令官専属副官へ送信」
吾郎軍・
旗艦『アスガルドα』司令室。
「司令官。参謀本部
(ASα部・ITα部)より速報です」
専属副官が静歩で進み出て、
立体戦術図の
最新ログを提示した。
「El Gordoの多角同時侵攻に対し、
S-オムニスの
【三位一体格子遮断陣】が
完璧に機能。
敵2,000隻の推進エネルギーを
格子内で相殺し、
我が方に一切の被害を
出すことなく全滅させました」
吾郎は
腕を組んだまま静かに
戦術図を見つめ、
落ち着いた声で応じた。
「こちらの処理能力を
飽和させる狙い
だったのだろうが……
S-オムニスの格子演算と
参謀部の連携の前には
無力だったな。……だが、
敵の本隊司令官とて
これで諦めはしないだろう。
次の手を警戒せよ」
「了解いたしました!」
その頃、
全軍統率の要たる
覇王レグナの総旗艦。
「……レグナ様。吾郎軍より
セクター・アルファ-9における
多角遭遇戦の
即時データが入りました。」
左副官役のAI・rℓが、
S-オムニス経由の最新ログを
美しく提示し、
右副官役のAI・rrが
続いて言葉を重ねる。
「吾郎司令官の即断と
S-オムニスの格子演算により、
敵2,000隻を
最小限のエネルギーで
全滅させました。
我が方に被害なし、です。」
重厚な思索の中にいた
覇王レグナは、
2機の副官AIが示した
完璧なデータログを一瞥し、
重みのある声音で呟いた。
「見事だ。
吾郎軍の指揮連絡体制と
S-オムニスの連携、
一分の隙もない。」
アルカディア本国の
聖宮を守護し、
後顧の憂いを
完璧に断つ聖王アーロンと
アルカディア本国の聖宮の
総司令官セレスティア。
その絶対的な安全が
担保されているからこそ、
前線のレグナ総帥と吾郎軍は
一切の惑いなく、
3,500万光年先の深宇宙を
無機質な機能美をもって
支配し続けていた——。
本日 19:30 に投稿します。
【 宇宙小話 】
宇宙の終わり
『ビッグフリーズ』
「はるかなる静寂の未来」
ビッグバンから始まった宇宙は、
一体どんな最後を迎えるのだろうか。
天文学者たちが
最も有力だと考えている
宇宙のシナリオ、それが
「ビッグフリーズ(大凍結)」。
宇宙は
「ダークエネルギー」の力によって、
どんどん加速しながら
広がり続けているらしい。
広がり続けるということは、
星と星、銀河と銀河の間が
どこまでも遠ざかっていく
ということだ。
数千億年という
途方もない時間が経つと、
夜空からほかの銀河の光が消え、
新しい星を作るためのガスも
尽きてしまうという。
やがて
すべての星が燃え尽きて
寿命を迎え、
ブラックホールさえも
長い時間をかけて蒸発し、
消えていくとしたら、……。
最後には光も熱もなくなり、
宇宙全体が
絶対零度に近い
「冷たく静かな暗闇」に
包まれる。
これが宇宙の最後の姿、
ビッグフリーズ。
一見すると
寂しい終末に思えるかもしれない。
しかし、
星が生まれ、
命が輝く
この一瞬の時代に
私たちが生きていること自体が、
宇宙の長い歴史の中で
奇跡のような出来事なのかも
しれない。




