第四幕 第十五章 【 外側からの来訪者 】
この大陸の全土を完全制圧し、アルカディアを中心に「絶対秩序」を敷いたアーロンの君臨は、もはや誰にも止められなかった。
かつての王国も、帝国も、聖王国も、そして鋼の共和国さえも、すべては俺の領土――すなわち『完全なる箱庭』のパーツにすぎない。
しかし、地上から敵が消え去ったその日、世界そのものの「外側」が異変を告げた。
「アーロン様。空が、……!」
玉座の間で寛いでいたアーロンの元へ、ルナが息を切らせて駆け込んでくる。
見ると、窓の外には、これまで青く澄んでいた大気の上層が、まるで絵の具をひっくり返したようにドす黒い紫色の亀裂で引き裂かれていた。
「ゴオオオオオォォォォ!」
と、地表の魔力すら吸い上げるような凄まじい重力が吹き荒れる。
旧王国のシステム管理者ごときが放ったエラーの比ではない。もっと圧倒的で、もっと抽象的な、世界の外側にいる「製作者」の気配だ。
「むっ! ついに来たか。俺がこの箱庭のルールをすべて書き換えたことで、本国がお出ましってわけだ」
アーロンは立ち上がり、ゆっくりとテラスへ歩み出る。
見上げると、空の亀裂から音もなく姿を現したのは、肉体を持たない「光の輪郭」だけで構成された巨大な人型のシルエット。この世界を作り上げた『真の創造主』の使徒だった。
「観測。被検体アーロンによる、全領域の不法占拠およびシステム権限の強奪を確認。貴殿は、我々が用意した実験プログラムの想定を完全に逸脱した」
頭に直接響くような、機械的でありながら冷酷な思念波。
その時、使徒がゆっくりと腕を掲げると、アルカディアを取り囲む大地そのものが、データのようにモザイク状へと分解され始める。
「不適合なバグ、および世界改変の特異点よ。直ちにその全権を返還し、初期化のプロセスへ移行しなさい」
圧倒的な「創造主の権能」が、アーロンの築き上げた国を丸ごと消し去ろうとする。
しかし、アーロンの表情に焦りは微塵もなかった。むしろ、すべての頂点に立つ者としての歓喜が、胸の奥で高鳴る。
「初期化、ねえ。……。よく言うぜ。お前たちが勝手に作った実験場を、俺が最高の国に仕立て直してやったっていうのに」
アーロンは、右手を掲げ、空の亀裂、そして使徒の光の輪郭めがけて指を突きつけた。
全土から集まる莫大な魔力と、これまで奪い取ってきたすべてのシステム権限が、アーロンの掌の上で黄金の炎となって燃え盛る。
「【全属性変換】――『創造主の神威』を『俺の忠実な僕』へ書き換えてやるよ!」
圧倒的な支配の力の差が、空の亀裂を逆に飲み込んでいく。
地上から始まったアーロンの覇道は、いよいよ「神々の領域」そのものを飲み込もうとしていた。
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