第21話「量子通信の神速と覇王の剣」
第6部
遠征に乗り出す前に、
為すべき絶対の条件がある。
それは
「後顧の憂いを
完全に絶つこと」
であった。
自分が
帝都を離れた隙を狙われ、
本陣を揺るがされるような
愚を、
アーロンは絶対に犯さない。
「セレスティア」
アーロンの呼びかけに応じ、
聖宮の奥で控えていた
寵姫セレスティアが
静かに姿を現した。
気品と
深い慈愛を湛えたその表情に、
アーロンは力強い視線を重ねる。
「これより俺は、
フェニックス銀河団へ親征する。
我が留守中、
この聖宮と帝都のすべてを、
そなたに託す」
「アーロン様……」
アーロンは
躊躇うことなく
勅令を下した。
「本日をもって、
寵姫セレスティアを
聖宮最高司令官に任命する。
聖国親衛隊、ならびに
帝都を守護する聖国軍の
すべてを、
そなたの指揮下に置く」
セレスティアは
一瞬息をのんだが、
アーロンの瞳に秘められた
絶対の信頼を感じ取り、
美しく凛とした所作で
深く膝を折った。
「謹んでお受けいたします、
我が王。
この命に代えましても、
アーロン様のご帰還まで、
聖宮と帝都の平穏を
守り抜いてみせます」
「頼む。——
そして、これを授ける」
アーロンが右手をかかげると、
その掌から
眩いばかりの光が
溢れ出した。
【全属性変換】の神威である。
万物の
組成、
質量、
エネルギー、
そして
法則をも再構築する
神の御手が発動し、
帝都の上空に
絶大な輝きの渦が
巻き起こった。
光の収束とともに、
帝都の造船ドック
および軌道宙域に、
数え切れぬほどの艦影が
瞬時に実体化していく。
それは、
これまでの
宇宙艦隊の概念を
根底から覆す、
超科学の結晶であった。
全艦に搭載されたのは、
量子技術の極致を極めた
超量子知能
S-オムニス(S-Omnis)』。
単なる
自動演算プログラムではない。
自律して
無限の戦略・戦術を同時に立案し、
万単位の変数を
瞬時に解析する超知能である。
アーロンが
【全属性変換】によって
創り出したのは、
超量子知能
S-オムニス(S-Omnis)を
核として備えた
数十万隻の大戦艦。
さらに、
その一隻一隻に
寸分の狂いもなく追従する
数億隻の駆逐艦群であった。
駆逐艦の末端の一隻に至るまで、
すべてに S-Omnis の端末が
宿されている。
それらが
超量子通信によって
互いの思考とセンサーを
完全同期させ、
一つの巨大な
「意思を持つ鉄壁」として
存在していた。
「これが……
アーロン様の創り出された、
新たなる力……」
窓外を埋め尽くす
数十万の巨大戦艦と、
群星のごとく輝く
数億の駆逐艦を見上げ、
セレスティアは
その壮大な神威に息をのんだ。
「この艦船群は
互いに思考を共有し、
完璧な防衛陣形と
絶対の攻撃能力を
自律して発揮する。
何者も、
この帝都に
牙を剥くことはできん」
アーロンは
セレスティアに歩み寄ると、
その華奢な肩を抱き寄せ、
後託の熱い唇を
彼女の額に落とした。
「帝都を頼むぞ、セレスティア」
「はい……アーロン様」
聖国軍・中央総旗艦
『セレスティア』。
その広大な総司令室の最奥、
全銀河の戦況ホログラムが
青白く揺らめく玉座に、
総司令官セレスティアは
静かに鎮座していた。
深奥——聖王の宮殿。
静謐と神聖な光に満ちた
謁見の間で、
聖王アーロンは
高座から
眼下の二人を見つめていた。
膝を折り、
深々と頭を垂れているのは、
聖国軍の中でも
卓抜した忠節と
判断力を誇る二人——
ルナとエレーナである。
「面を上げよ、
ルナ、エレーナ」
アーロンの
重厚で威厳に満ちた声が、
広間全体に静かに響き渡る。
二人が
静かに顔を上げると、
アーロンは
凛とした眼差しを向けた。
「そなたたちを
召喚したのは、他でもない。
3,500万光年先の
前線進出に伴い、
我が聖国の
全軍統率と
防衛の要となる
『決定的な務め』を
託すためだ」
「はっ。
いかなる大命なりとも、
謹んでお受けいたします」
右副官ルナが
真摯な声音で応えると、
左副官エレーナも深く頷いた。
アーロンは
二人を見据え、言葉を紡ぐ。
「ルナ、エレーナ。
そなたたち二人に、
総司令官セレスティアの
左右を固める
専属副官の任を命じる」
「総司令官セレスティア様の
……副官……!」
「そうだ。
セレスティアの
傍らに常に控え、
彼女の補佐を完遂せよ。
そして、
S-オムニスが出力する
100万分の1秒単位の
戦況データと演算報告を
過不足なく精査し、
迅速かつ的確に
セレスティアへ伝える
『チェーン・オブ・コマンド』の
絶対的な架け橋となるのだ」
アーロンの言葉に、
ルナとエレーナの背筋が
ピンと伸びる。
「S-オムニスの超量子演算と、
そなたたちの忠義なる眼。
それらが
セレスティアの判断と
完璧に融合してこそ、
聖国の
絶対的な守護は完成する。
二人に
我が聖国の未来を預ける。
頼んだぞ」
「——謹んで、
聖王閣下の大命を
お受けいたします!」
二人は再び深く頭を垂れ、
その胸に
決して揺らぐことのない
決意を刻み込んだ。
こうして
聖王アーロンより
直々に重任を授かった
ルナとエレーナは、
中央総旗艦『セレスティア』の
総司令室へと赴き、
総司令官セレスティアの
左右を固める
至高の副官として
起用されることと
なったのだった。
聖王アーロンの
絶対的な統率のもと、
総司令官セレスティアと
左右を固める
忠臣ルナ・エレーナ。
人間と超量子知能が
完璧な
チェーン・オブ・コマンド
で繋がった聖国軍の
指揮体系は、
一切の揺らぎもなく、
遠く3,500万光年先の
絶対前線を
支配し続けていた。
後顧の憂いを
完璧に絶った聖王アーロンは、
次なる布石——
覇王レグナとの連携へと、
その神速の意思を向けた。
帝都・聖宮の上空を
埋め尽くした数千億の巨艦群。
寵姫セレスティアを
最高司令官として戴く
『銀月至高親衛隊』と
帝都防衛軍が、
不変の絶対防衛圏を
展張したのと時を同じくして——。
聖王アーロンは、
自室の玉座から
超・通信技術
(超量子空間通信)を
起動させていた。
時空の
物理的な隔たりすら
完全に無へと帰す、
聖国の至高なる量子回線。
それが
脈動とともに接続されると、
別宙域で
巨大な軍を繰り出していた
覇王レグナの眼前へ、
アーロンの
威風堂々たる姿が
等身大のホログラムとなって
瞬時に立ち現れた。
「父上……!」
明朝 7:30 に投稿します。




