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第19話「平穏の誓いと微少なる歪み」

第6部

『了解いたしました、吾郎様!

 現場の全機、

 吾郎様の計算を信じろ!

 0.004秒の隙間に

 錨(アンカー)を打ち込むぞ!』


通信越しに

第二副艦長の力強い声が響く。


吾郎が泥臭く現場と対話し、

信頼を重ねてきたからこそ、

いまブリッジと作業現場は

完全な阿吽(あうん)の呼吸で

結ばれていた。


ITS α(アルファ)の

苛烈な演算結果が示す

唯一の「解」に向け、

数千基の重力作業船が

寸分の狂いもなく連動する。


「……今だ!」


吾郎の低い声と同時に、

銀河団核心部の歪んだ時空へ、

巨大な光の結晶体が

打ち込まれた。


次の瞬間、

宙域全体を揺らしていた

不気味な重力振動が、

嘘のようにピタリと収まる。


莫大な質量が

整然とした軌道へと収束し、

ホログラムの

警告インジケーターが

次々と緑色の「正常」へと

切り替わっていった。


「成功……成功です!

 核心宙域の重力場、

 完全に固定されました!」


ブリッジに歓声が沸き上がる。


吾郎はそっと息を吐き、

緊張で強張っていた

肩の力を抜いた。


12年短縮計画の最難関を、

彼らはついに

自分たちの手で突破したのだ。


同刻、

ジュエダンが護る

CL J1001+0220銀河団の境界宙域。


漆黒の宇宙空間に、

禍々(まがまが)しい装飾を施された

不法武装船団の艦影が群がっていた。


他宙域からなだれ込んできた

大規模な海賊船団である。


彼らは

聖国の管理体制が

まだ行き届いていないと踏み、

沿岸星系を掠奪(りゃくだつ)しようと

企(たくら)んでいた。


だが、

彼らの前に立ちふさがったのは、

黄金の光輝を纏う巨艦——

アスガルド ∞(インフィニティ)

であった。


『へっ、たった一隻で何ができる!

 一斉射撃で蜂の巣にしてやれ!』


海賊たちの艦隊から、

無数のビームと

実体弾が解き放たれる。


だが、アスガルド ∞ の

ブリッジで腕を組むジュエダンは、

微動だにしなかった。


「……聖王陛下から預かった

 この星々に、

 暴虐(ぼうぎゃく)の刃(やいば)を

 向けさせるわけにはいかん」


ジュエダンが静かに瞳を開くと、

彼女の全身から

圧倒的な「黄金のオーラ」が

溢(あふ)れ出した。


その波動は

アスガルド ∞ の重力制御機構と

完全に同調し、

宙域全体へ巨大な

「黄金の重力防壁」となって

展開される。


海賊たちの放った

苛烈な砲撃群は、

その黄金の壁に触れた瞬間、

運動エネルギーを完全に殺され、

光の粒子となって霧散した。


『な、なんだこの壁は!?

 攻撃が一切効かないぞ!?』


動揺する海賊たちに対し、

ジュエダンは

重厚な声を通信に乗せた。


『我が名はジュエダン。

 これ以上の無用な争いは望まぬ。

 武器を捨て、投降せよ。

 さすれば命は保証する』


絶対的な防衛力と、

揺るぎない

覚悟を秘めたその声に、

海賊たちは

戦意を完全に喪失した。


一発の反撃の砲弾すら

打つことなく、

海賊船団の機関が次々と停止し、

降臨のシグナルが点滅し始める。


無血での全宙域鎮圧。


ジュエダンが築き上げた

鉄壁の治安と防衛体制は、

住民たちに

絶対の安心感をもたらしていた。


作業を無事に終え、

自室で温かい茶を

口にしていた吾郎のもとへ、

ジュエダンとシルヴィアからの

定期報告が届く。


『吾郎さん、核心部のアンカー固定、

 見事でした。

 こちらでもジュエダンの活躍で、

 境界宙域の海賊どもが

 無血開城しました』


シルヴィアの

誇らしげな声に続き、

ジュエダンも重々しく頷く。


『うむ。

 三人がそれぞれの

 担当銀河で抱えていた課題も、

 これでようやく一区切りだな。

 こうなれば、レグナ様のもとに

 早く赴(おもむ)かねば、……』


だが通信を終え、

再びITS α のモニターに向き合った

吾郎の表情が固まる。


既に検出された

「10万分の1単位の計算のズレ」が、

消えるどころか、

ほんの僅(わず)かに

波形を複雑化させていたのだ。


「……おかしい。

 核心部のアンカーは

 完璧に固定されたはずだ。

 なのに、なぜ

 空間座標の微小なノイズが……

 増えている……?」


吾郎は眼鏡を掛け直し、

画面へ顔を近づけた。


完璧に整えられた秩序の裏側で、

何かが空間の「事実」そのものを

徐々に歪(ゆが)め始めている——。


SPT-CL J0546-5345銀河団の

第4重力アンカー宙域。


ホログラムモニターに

映し出される数千の

星系データは、

どれも完璧な

緑色の数値を刻んでいた。


12年後の重力崩壊という

絶望的な未来は

完全に回避され、

新設された監査局の

適切な運用により、

旧権益層と

一般住民の統合

移住計画も円滑に完了した。


「吾郎様、

 当宙域における

 第一期安定化計画、

 すべて完遂(かんすい)いたしました!」

明朝 7:30 に投稿します。

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