第17話「監査局の天秤と乙女の調停」
第6部
『はい――!!』
三人の声が見事に揃い、
星空に響き渡った。
アーロンの乗る旗艦アスガルドは、
後事を三人に託すと、
静かに空間を歪め、
光の尾を引いて
聖宮への帰還路へと就いた。
聖宮のテラスで出迎えたレグナは、
無事に帰還した
父の顔を見るなり、
安堵の色をみせた。
「お戻りなさりませ、父上。……
一発も撃たずに
銀河団一つを
鎮めてきたそうですね。
相変わらずの平和の示し方です」
アーロンは
テラスから広大な帝都の街並みと、
遠い宇宙の彼方を見上げた。
「私の力ではないよ、レグナ。
吾郎、シルヴィア、ジュエダン……
あの三人が
それぞれの地で積み重ねてきた
『至高の威厳』が、
あの四重奏の輝きとなって
実を結んだのだ」
聖王が続ける。
「だがな、レグナ。……」
「はい」と覇王
「あの3人も、それぞれ
広大な銀河団の治世を
監督官として担当している」
「そうですね。……」
「それに加えて
あの超巨大フェニックス銀河団を
連帯してとはいえ、
ちと、荷が重かろうと思う」
「御意。……」
「そなたを後見にするとは
いっておいたが、……」
「……」
「しばらくは
あの超巨大銀河団は
そなたの『預かり』として
そなたが面倒を見て
やってくれ」
「お任せください。父上」
セレスティアが温かなお茶を手に、
静かに歩み寄ってきた。
「三人様が
揃って聖宮にお戻りになる日が、
今から本当に楽しみですわね、
アーロン様」
「ああ。
本当に、待ち遠しいものだな」
聖宮の空には、
遠いフェニックス銀河団の方角から、
三人が未来を紡ぎ始める
力強い希望の輝きが、
静かに届いているようであった。
SPT-CL J0546-5345銀河団。
その深部にある
第4重力アンカーの観測デッキにて、
吾郎は
目の前のホログラムモニターを
静かに凝視していた。
「……吾郎様、
12年短縮計画に伴う
第3区画の移住スケジュールです。
旧権益層の自治会から、
またしても
計画の一律凍結を求める
請願書が届きました」
第一副艦長が
痛々(いたいた)しそうな面持ちで
報告の端末を差し出してくる。
一時は
壊滅的な崩壊を待つばかりだった
この銀河団も、
吾郎の
緻密な重力分散計算と
移住計画により、
確実に
救済の道筋が見えつつあった。
しかし、
長年この宙域で
既得権益を貪ってきた
旧勢力にとって、
自らの影響力を解体されるに
等しい「住民の再配置」は
受け入れがたいものだったのだ。
彼らは
「伝統的自治の侵害」を楯にし、
移住に応じようとしないどころか、
周辺の住民を煽って
反対運動を展開し始めていた。
吾郎はふうと小さく息を吐くと、
眼鏡のつるを押し上げた。
「力づくの排除や、
一方的な命じるだけの移住は
絶対にしない。
それは
聖王陛下が目指すルネサンスの
理念に反するからね。……
新設した『監査局』の全データを
公開しよう」
「全データ、ですか?」
「そう。
彼らの権益が
どれほど宙域の重力均衡を
脅かしているか、
そして再配置によって
彼らの生活環境と経済圏が
どう保護・拡大されるか。
隠し事なしの数値を全て提示し、
対話の席につく。
完璧な計算と論理は、
誠実さと組み合わさって
初めて人の心を動かすんだ」
吾郎は直ちに
監査局の精鋭を率いて
自ら対話の場へと赴いた。
感情論で
怒号を飛ばす旧権益層に対し、
吾郎は終始落ち着いた物腰で、
ITSαが叩き出した
精緻な環境データと
将来的な利益分配の
シミュレーションを一つひとつ
紐解いて見せた。
誇りや権利を奪うのではなく、
新たな平穏な時代へ
「共に移行する」ための提案。
その言葉と
嘘偽りのない数字の前に、
頑なだった旧指導者たちの表情も
次第に和らいでいった。
懸案に目途がついた吾郎は、
後事を
旗艦アスガルド α 付きの
副艦長に委ね、
フェニックス銀河団の
新たな統治体制の構築を
協議する為、
銀河団本部協議会に向かった。
フェニックス銀河団は、
あまりに巨大な銀河団である為、
戦後処理と暫定統治は、
覇王・レグナの預かりに
なっていた。
吾郎、シルヴィア、ジュエダンらが、
それぞれ担当銀河の抱える問題の
対処に忙殺されている故でもあった。
その頃、
吾郎の宙域から遠く離れた
XMMXCS J2215.9-1738銀河団。
旗艦アスガルド ε(イプシロン)の
ブリッジで、シルヴィアは
可憐な眉をひそめていた。
彼女の管轄宙域でもまた、
当面の懸案事項であった
「異星系間の文化的摩擦」が
再発していたのだ。
「シルヴィア様!
第8星系と第9星系の
警備艦隊が互いに
主砲の照準を合わせ合っています!
儀礼用の境界宙域を
どちらが先導するかで、
何百年もの因縁が再燃して……!」
明朝 7:30 に投稿します。
【 宇宙小話 】第13話(続)
「木星の月『エウロパ』の海」
太陽の光すら届かない
真っ暗な海の底には、
地球の深海と同じように
「温水が湧き出る熱水噴出孔」が
存在する可能性がある。
地球の深海では、
太陽光がなくても
その熱水と化学物質を利用して
生きる不思議な生き物たちが
たくさんいる。
同じように、
エウロパの海の底にも、
独自の生態系を持った
「宇宙生命」が
泳いでいるかもしれない。
現在、アメリカの探査機
「エウロパ・クリッパー」などが
現地へ向かって
旅を続けている。
氷のすき間から吹き出す水を
分析し、そこに生命の痕跡を
見つける日——それは、
人類が「宇宙で孤独ではない」と知る
歴史的な瞬間になるはず。




