第16話【 鳳凰の静寂と四重奏のアスガルド 】(下)
第6部
狂気に取り憑かれた
各銀河の勢力たちが、
絶え間なく破壊と掠奪を
繰り返し、
宇宙の空間そのものが
悲鳴を上げていたその時――。
――ゴオォォォォン……!
重力波の伝播を超えた、
全宇宙の底を揺さぶるような
重厚な「汽笛」の残響が、
フェニックス銀河団の全宙域に
響き渡った。
次の瞬間、
戦場を覆っていた熱線と
爆煙を押し払うように、
四隻の超弩級戦艦が
突如として
漆黒の虚空から姿を現した。
旗艦アスガルドを中心に、
α(アルファ)、
ε(イプシロン)、
∞(インフィニティ)の三隻が
十字の陣形を描く。
その後方には、
整然と並ぶ四編成のITSが
空間の歪みを固定し、
退路と逃げ道を
完全に塞ぐように
威風堂々と鎮座した。
その光景は、
単なる兵器の集結ではなかった。
アーロンの至高の慈愛、
吾郎の絶対の法規、
シルヴィアの深い祈り、
ジュエダンの圧倒的な打撃力――
それら四つの精神性が
【全属性変換】の輝きとなって
全天を黄金と琥珀色、
そして
澄み渡る白銀の光で
満たしたのだ。
「な……なんだ、
あの巨大な艦影は……!?」
「莫大な重力反応!
艦一隻の質量が、
小規模な銀河一つに
匹敵しているぞ!?」
「通信が……
全宇宙の周波数が上書きされた!
『戦いをやめよ』という
概念そのものが、
精神に直接流れ込んでくる……!」
交戦していた
数千の艦隊の兵士たちは、
ただその神々(こうごう)しくも
圧倒的な威容を
見上げるしかなかった。
レーダーに映る異常な数値、
視界を埋め尽くす絶対的な光。
戦うための照準器は狂い、
トリガーを引こうとした指は
恐怖ではなく、
あまりの格の違いと
神聖な威圧感によって
動かなくなった。
誰一人として
光線を放つことすらできず、
ただ武器を収め、
その場に
膝を屈するしかなかった。
数万年間にわたって
争いが絶えなかった
フェニックス銀河団の全域が、
わずか数分間のうちに、
恐ろしいほどの静寂と
静謐に
包み込まれていったのである。
敵を一人も殺さず、
一発の主砲すら撃つことなく、
ただ「存在する」ことによって
無数の銀河の争いを
完全に沈静化させたのだった。
【 託された未来と聖宮への帰還 】
不毛な狂乱が去り、
平和の静寂が満ちた
フェニックス銀河団の
旗艦アスガルド艦橋。
聖王は
全モニター越しに、
吾郎、シルヴィア、ジュエダンの
三人を見つめた。
「見事だ。
争いの嵐は完全に去った。……
だが、真の難事はここからだ。
力で抑え込んだ静寂を、
いかにして
民の平和と協調の秩序へと
昇華させるか。
吾郎、
シルヴィア、
ジュエダンよ」
三人は
各艦の艦橋で
正座するように姿勢を正した。
「このフェニックス銀河団の
戦後処理、
ならびに
新たな統治体制の構築は、
レグナとそなたたち三人の
連合にすべて任せる。
レグナが後見を果たすゆえ、
吾郎が
法の枠組みと機構を整え、
シルヴィアが
傷ついた民の心と信仰を繋ぎ、
ジュエダンが
その圧倒的な力で
防衛と基盤構築を支えよ」
吾郎が深く頷き、一歩前に出た。
「はっ! 吾郎、
この身に代えましても、
監督官としての経験を注ぎ込み、
この地に
揺るぎない法の秩序を
築いてみせます」
シルヴィアも静かに微笑み、
胸に手を当てた。
「双方の憎しみの歴史を
紐解き、
共に未来を育む
共同基金と対話の場を
創出いたします。
お任せください、聖王様」
ジュエダンは拳を胸に当て、
力強く胸を張った。
「このジュエダン、
黄金の打撃をもって、
二度とこの地に
戦端を開かせぬ防衛の盾と
なってみせます!
安心して聖宮へお戻りください!」
三人の
成長しきった頼もしい顔つきを
見届けたアーロンは、
心から満足そうに微笑んだ。
「うむ。
そなたたちに任せておけば、
何一つ案ずる懸念はない。……
事後処理が一段落したら、
副艦長たちに後を託し、
それぞれの専用双艦で
聖宮へ
骨休めに戻ってくるといい。
セレスティアとレグナとともに、
盛大な宴を用意して
待っているぞ」
『はい――!!』
本日 19:30 に投稿します。




