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第14話「賜(たまわ)りし双艦、祈りの地に」

第6部

合同委員会による

採掘権の再協議が進む中、

シルヴィアの元にも、

聖宮から

二隻の艦(ふね)が到着していた。


格納庫に降り立った艦影は、

これまで見慣れたⅠTSや

アスガルドと

似た輪郭を持ちながら、

どこか神秘的な光を

纏(まと)っている。


「監督官殿、初めまして。……

 アスガルド ε (イプシロン)、

 艦長代理を務めます」


「同じく、ITS ε (イプシロン)、

 艦長代理です」


二人の副艦長が、

恭(うやうや)しく一礼する。


シルヴィアは、

静かにその二隻(にせき)を見上げた。


「これは、聖王様からの?……」


「はい。……吾郎様のもとにも、

 同様の艦(ふね)が届いたと

 伺(うかが)っております。

 聖王様は、

 シルヴィア様にも、

 同じ心遣(こころづか)いをと」


副艦長の一人が、

書状を差し出した。


開くと、

そこにはアーロンの筆による、

簡潔な言葉が記されていた。


『ジュエダンが当面したような

 大きな危機の時の為にも

 あった方が良かろうと思った。

 骨休めに聖宮へ戻る時にも、

 それぞれのアスガルドなりITSを

 遠慮なく使え。

 その際、担当銀河団は、

 副艦長に任せておけばよかろう』


シルヴィアは、

静かにその文面を、

幾度も読み返した。


周囲に控えていた補佐官たちも、

その光景を、

感慨深げに見守っていた。


「……ありがたいお言葉です。

 ですが、今この時期に、

 この銀河団を

 離れるわけには、……」


「もちろん、

 無理にとは申しません。

 ……ですが、

 いずれこの争いが

 落ち着いた折には、

 ぜひ、……」


もう一人の副艦長も、

静かに続けた。


「シルヴィア様も、この数年、

 休む間もなく

 走り続けてこられました。

 我らが少しでも、

 その支えになれれば、……」


シルヴィアは、静かに頷いた。


「その時は、お願いします」


副艦長たちは、深く一礼すると、

静かに格納庫の一角へと

二隻の艦を移動させた。


まだ緊張の続くこの銀河団に、

少しでも安心の種を残すように、

二人はその後も、

シルヴィアの傍らで、

静かに控え続けていた。


数日後、

合同委員会から、

正式な報告が届いた。


「監督官殿。……

 採掘権の再分配案、

 双方の合意を得ました」


法務担当の補佐官が、

安堵の滲む声で告げる。


「詳細を」


「境界宙域の鉱脈を、

 両銀河が

 均等に採掘する権利を持つ、

 という形で決着しました。

 ……さらに、

 採掘によって得られた利益の

 一部を、

 共同で運用する基金にも

 合意が得られています」


「基金、というのは?」


シルヴィアの問いには、

これまでの

重い交渉の記憶とは異なる、

静かな期待が滲(にじ)んでいた。


「境界宙域全体の環境保全や、

 両銀河の

 若手技術者の育成に充てる、

 共通の資金です。……

 争いの種だった場所を、

 今度は共に

 育てる場に変えよう、

 というのが、

 双方からの提案でした」


シルヴィアは、

その報告に、静かに目を細めた。


「双方から、

 その提案が出たのですか?」


「はい。……

 三世代分の恨みを清算した後、

 双方とも、もう二度と、

 同じ火種を残したくない

 という想いが、

 強かったようです」


補佐官は、さらに続けた。


「技術者育成の枠には、

 両銀河の若者たちが、

 すでに

 応募を始めているとのことです。

 かつて

 対立していた者同士の子や孫が、

 同じ教室で学ぶ日も、

 そう遠くないかもしれません」


副艦長の一人が、静かに付け加えた。


「監督官殿の粘り強さが、

 実を結んだのですね」


「いいえ。……

 最後に一歩を踏み出したのは、

 あの二つの銀河の代表たちです。

 私は、ただ、

 その背を押しただけ」


一方、レグナは、この報せを

聖宮からの通信で受け取っていた。


「シルヴィアの銀河団も、

 良い形で収まったか。……

 三世代分の因縁が、

 共に育てる基金に変わるとはな」


副官が、感心したように付け加えた。


「レグナ様、シルヴィア様のやり方、

 力ずくとは正反対ですね」


「ああ。……

 だが、根の深さで言えば、

 俺が断つ理不尽と、何ら変わらん。

 ただ、断ち方が違うだけだ」


聖宮では、アーロンが、

静かにその報告書に目を通していた。


「争いの種を、育みの場に変えたか。……

 シルヴィアらしい、静かな覇道だ」


編纂生の一人が、興味深げに問うた。


「聖王様。……

 この基金、

 いずれ他の銀河団の争いにも、

 同じ手法が使えるのでしょうか?」


「使えるかもしれぬ。……

 だが、型だけを真似ても、

 魂が入らねば意味がない。

 大切なのは、

 双方が、心から次の世代のことを

 考えられたかどうかだ」


セレスティアが、静かに微笑んだ。


「聖国ルネサンスにも、この基金の名を、

 記録させましょう。……

 何か、

 良い名を考えなければなりませんね」


「そうだな。……

 二つの銀河が、共に紡いだ名を、

 いずれ聞かせてもらうとしよう」


窓の外、遠い銀河団の方角に、

穏やかな光が差し込んでいた。

明朝 7:30 に投稿します。


【帝国の未来賛歌】


「マルチバースの円環と新たな序曲」


超弩級艦アスガルドの


圧倒的な巨影が、


すべての次元の境界を


睥睨(へいげい)する


ITSの車輪が奏でる重厚な汽笛は、


無限に分岐する


パラレルバースの合図


量子もつれの糸で結ばれた


無数の星々が、


一つの巨大な理(ことわり)へと収束していく――



量子もつれ 遠く離れて 結ばれし

この心音を 君に届けん



どんなに遠く離れた


次元の海に迷い込もうとも


私たちが紡いだ絆と、


互いの胸に宿る


鼓動が狂うことはない


すべての結末は、


同時に新たな神話の


始まりなのだから――



届き来る 汝の鼓動を聞くたびに

世界の理は 我が心なり



終わらざる旅の果て、


私たちが辿(たど)り着いた究極の楽園


変わらぬ愛と絶対的な覇道を


この歌に乗せ、


永遠の未来へ走り出そう――



終わらざる 旅の果てにも 変わらじと

誓いし愛は 永遠(とわ)に朽(く)ちずよ

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