第13話「賜(たまわ)りし双艦(そうかん)」
第6部
吾郎の元に、聖宮から、
見慣れぬ艦影が二隻、
到着したとの報せが届いた。
格納庫に降り立ったのは、
これまで見たこともない
意匠を纏った超弩級艦と、
次元航行船だった。
艦体には、
見慣れたアスガルドやITSと
よく似た輪郭を保ちながらも、
どこか異なる紋様が刻まれている。
「監督官殿、初めまして。……
アスガルド α(アルファ)、
艦長代理を務めます」
「同じく、ITS α(アルファ)、
艦長代理です」
二人の副艦長が、
揃って深く一礼した。
吾郎は、
驚きを隠せぬまま、
二隻の艦を見上げた。
「これは……?」
「聖王アーロン様より、
監督官殿への贈り物です。
【全属性変換】にて、
新たに生み出されました」
副艦長の一人が、
恭しく一通の書状を
差し出した。
吾郎が開くと、
そこにはアーロンの筆による、
簡潔な伝言が記されていた。
『ジュエダンが当面したような
大きな危機の時の為にも
あった方が良かろうと思った。
骨休めに聖宮へ戻る時にも、
それぞれのアスガルドなりITSを
遠慮なく使え。
休暇の際、担当銀河団は、
副艦長に任せても
差し障りはなかろう』
吾郎は、しばし言葉を失い、
静かにその文面を読み返した。
周囲に集まっていた補佐官たちも、
思わず顔を見合わせている。
「……聖王様が、俺のために。……」
「はい。……
吾郎様が
この銀河団に着任されてから、
一度も、
まとまった休息を
取られていないと、
聖宮でも
案じる声が上がっておりました」
もう一人の副艦長が、静かに続けた。
「我らは、
吾郎様がこの銀河団を離れる間、
この地の監督業務を、
代わってお預かりいたします。
もちろん、重大な決定は、
必ず吾郎様のご判断を仰ぎます」
吾郎は、
深く息をつき、静かに頷いた。
「……ありがたい。
正直、この数年、
気を抜いたことが、
一度もなかった」
傍らに控えていた補佐官の
一人が、
思わず口を挟んだ。
「監督官殿。……
我々も、常々、
心配しておりました。
少しでも、
お休みいただければと」
「そなたたちにも、
心配をかけていたか。
……すまんな」
「いえ。……ですが、
これで少しは、
安心できそうです」
その時、
重力均衡研究部の技師が、
慌ただしく
報告に駆け込んできた。
「監督官殿!
分散配置案の試算、
まとまりました! ……
建設期間を、
大幅に短縮できる
見込みです」
吾郎は、
すぐさま資料に目を通した。
「……十二年か。
当初の見立てより、
八年も早い」
技師は、
興奮を抑えきれない様子で
続けた。
「先日ご提案のあった分散配置、
複数の
小型装置を連携させることで、
想定以上の効率が出ることが
分かりました。……
あの若い技師の着想が、
鍵になりました」
「あの者にも、
正式に功を認めてやってくれ。……
こういう成果は、
きちんと形にして返すべきだ」
技師は、深く頷きながら、
報告書を携え
足早に去っていった。
吾郎は、
その背を見送りながら、
静かに息をついた。
副艦長の一人が、
静かに微笑んだ。
「良い報せが届いた、
まさにその時に、
我らが参上できたようですね」
「ああ。……
だが、まだ気は抜けん。
移住の準備も、
並行して進める」
吾郎は、
そう言いながらも、
傍らのアスガルド α を、
静かに見上げた。
「……次に大きな山を越えたら、
一度、
聖宮に顔を出してみるか。……」
副艦長たちは、
揃って深く頭を垂れた。
「その日を、
お待ちしております」
一人が、
控えめに付け加えた。
「その間、我々二人で、
この銀河団の日々の業務を、
責任を持って
お預かりいたします。
……ご安心を。」
一方、レグナは、
吾郎への贈り物の件を、
聖宮からの通信で
耳にしていた。
「父上、
いえ聖王様も、
粋なことをなさる」
「レグナ様のところにも、
いずれ何か届くのでは?」
副官の一人がそう茶化すと、
レグナは静かに苦笑した。
「俺は、これまで通りでよい。……
あちらの三人こそ、
労わるべきだろう」
聖宮では、アーロンが、
静かにその報告を聞いていた。
「あれもこれも、
一人で背負わせる
わけにはいかん。
……たまには、
庭園そのものを、
外から眺める時間も
要るだろう」
セレスティアが、静かに微笑んだ。
「吾郎様だけでなく、シルヴィア様、
ジュエダン様にも、同じものを?」
「ああ。……
それぞれの働きに、
それぞれの形で、
報いたいものだ」
編纂科の長が、
静かに問うた。
「この贈り物の由来も、
記録に残して
よろしいでしょうか?」
「もちろんだ。……
力を分け与えるだけでなく、
労りの心もまた、
この庭園を支える
大切な一部だからな」
その言葉を胸に、
編纂科の長は、
静かに一礼して
去っていった。
聖宮の窓の外には、
今日もまた、
遠い銀河団の方角へと、
穏やかな光が差し込んでいた。
本日 19:30 に投稿します。




