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第11話「三世代の記憶」

第6部 

シルヴィアの担当銀河団、

XMMXCS J2215.9-1738では、

シルヴィアが命じた記録調査は、

両銀河の公文書庫を隅々まで洗い直す、

地道な作業となっていた。


調査に携わった記録官たちは、

劣化した古文書や、

断片的にしか残っていない記録の山と、

幾月にもわたって格闘し続けていた。


調査団の代表が、

数ヶ月に及ぶ調査の末、

ようやく報告に訪れていた。


「監督官殿。……争いの発端、

 ようやく特定できました」


「聞かせてください」


「三世代前、片方の銀河が、

 境界宙域に埋蔵されていた希少鉱脈を、

 正式な合意のないまま

 採掘し始めたのが、最初の火種でした」


シルヴィアは、静かに頷いた。


「では、片方に非があったと?」


「……話は、そう単純ではありません。

 当時の記録によれば、

 採掘を始めた銀河は、

 隣接する銀河の代表と、

 口頭での合意を交わしていたと

 主張しています。

 ですが、正式な文書は、

 どこにも残っていません」


「口約束だった、と?」


「はい。……そして、

 その口約束を交わしたとされる

 当時の代表は、

 採掘開始の直後、

 不慮の事故で亡くなっています。

 真実を語れる者は、

 もう誰も残っていません」


会議室に、重い沈黙が落ちた。


法務担当の補佐官が、慎重に付け加えた。


「監督官殿。……

 これでは、どちらが正しいとも、

 断定できません」


シルヴィアは、しばし目を閉じ、

静かに口を開いた。


長い沈黙の後、その言葉には、

確かな覚悟が込められていた。


「では、正しさを決めることは、

 諦(あきら)めましょう」


「諦める、とは?」


「三世代分の恨(うら)みの根が、

 証明できない口約束にあった

 のだとすれば、これ以上、

 正誤を争うこと自体が、不毛です。……

 代わりに、双方が新たに、

 公正な合意を結び直せばよいのです」


数日後、シルヴィアは、

両銀河の代表を、再び一堂に集めていた。


「調査の結果、過去の争いの発端は、

 もはや

 正確には裁けないと判明しました。

 ……ですが、それは、

 どちらの銀河にも、

 非がなかったという意味でもあります」


片方の代表が、慎重に問う。


「では、

 あの鉱脈は、どうなるのですか?」


片方の代表の問いには、

三世代分の緊張がそのまま滲(にじ)んでいた。


「これより、双方の技術者、

 法務官を交えた合同委員会を設け、

 改めて、

 採掘権の正式な分配を

 協議していただきます。……

 過去の因縁ではなく、

 今この瞬間の公正さに基づいて」


法務担当の補佐官が、

具体的な進め方を説明する。


「委員会には、

 双方から

 同数の代表を出していただきます。

 ……そして、

 聖国からも中立の立会人を派遣し、

 協議の透明性を担保します」


もう一方の代表が、静かに頷いた。


「三世代分の恨みを、正式に清算する、

 ということですね?」


「はい。……そして、

 この合意の過程そのものを、

 双方の記録に、

 正式な文書として残しましょう。

 二度と、

 同じ曖昧(あいまい)さで争わずに済むように」


片方の代表が、深く息をついた。


「……正直、これほど早く、

 この因縁に区切りがつくとは、

 思っておりませんでした」


「区切りをつけるのに、

 三世代かかった、とも言えます。……

 ですが、

 遅すぎるということはないはずです」


両代表は、しばし顔を見合わせ、

やがて、静かに握手を交わした。


銀河境沿いに睨(にら)み合っていた警備艦も、

この報せを受け、ゆっくりと後退を始めていた。


見守っていたレグナが、静かに呟(つぶ)いた。


「力で黙らせるより、時間がかかったな」


「ええ。……ですが、

 この方が、根から癒(い)えるはずです」


レグナは、静かに頷きながら、

自らが先日制圧した

圧政の銀河団のことを、

ふと思い出していた。


「……力でしか断てぬ理不尽もあれば、

 時間をかけねば解けぬ理不尽もある。

 ……どちらも、

 大切な覇道なのだろうな」


「レグナ様も、そう思われますか?」


「ああ。……

 そなたの粘り強さを見ていると、

 俺自身も、学ばされることが多い」


シルヴィアは、静かに微笑んだ。


「勿体ないお言葉です。……ですが、

 この解決も、

 レグナ様が国境の緊張を

 抑(おさ)えてくださったからこそ、

 時間をかけられたのです」


聖宮では、アーロンが、

この顛末を聞き、静かに目を細めていた。


「三世代分の恨みを、

 公正さで解きほぐしたか。……

 シルヴィアらしい、粘り強いやり方だ」


編纂(へんさん)科の長が、感心したように付け加えた。


「聖王様。……この記録、

 後世の法務官たちにとっても、

 貴重な事例になりそうです」


セレスティアが、静かに続けた。


「聖国ルネサンスにも、この一件を、

 記録に残させましょう。……

 曖昧な過去との向き合い方として、

 他の銀河団にも、

 きっと参考になります」


「ああ。……

 過去の真実が霞(かす)んだ

 現在や未来にこそ、

 公正さという光が、

 何よりも要るのだろうな。……」

本日 19:30 に投稿します。

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