第三幕 第十三章 【 聖なる偽りと、屈服の代償 】
その時、聖王国の王は、俺の言葉に言葉を失い、ただ震えることしかできなかった。
この国には、古より伝わる『神聖なる法』があった。それはかつての管理者たちが残した、人間を縛り付けるための呪いのようなルールだ。
「アーロン様。彼らは、この『法』に従わぬ者は死に値すると、教義を盾にしております」
ルナが聖王国の古い書庫から持ち出した書物を掲げる。そこには、俺のようなイレギュラーを『災厄』として排除せよと記されていた。
「ほう。……。神聖なる法か、いいだろう。その教義ごと、俺の支配下に書き換えてやる」
ツカツカツカと、俺は広場の中央に立ち、聖王国の全住民を睥睨する。彼らは恐怖と狂信に支配されていた。俺は右手を空へとかざし、周囲の魔力を急激に圧縮する。
空気が重く澱み、呼吸さえも困難になるほどの圧力が、広場を塗りつぶした。
「よいか、聞くのだ。お前たちが崇めていた『法』は、すでに消滅した。今、この大地に存在する唯一のルールは、俺が口にする言葉そのものだ」
俺は、聖王国の至宝である『聖なる鏡』――かつてシステムと通信するためのアンテナだったもの――を指差した。
「【全属性変換】――『神聖なる法』を『絶対服従の隷属印』へ」
聖なる鏡が眩い光を放ち、広場にいたすべての騎士、貴族、そして王の額に、俺の紋章が刻み込まれる。
彼らは一瞬、激しい苦悶の表情を浮かべたが、次の瞬間には、まるで最初からそうであったかのように、虚ろな瞳で俺を見上げ、一斉に額を地面に擦り付けた。
「支配とは、魂の書き換えだ。お前たちの祈りは、これより先、すべて俺の力となる」
かつての聖王国の全戦力が、何一つ抵抗することなく、俺のアルカディアの一部へと組み込まれた。
「神」を騙った支配者が、今や俺という「真の支配者」に跪く。
「ルナ。この国を『アルカディア直轄領・第1区』として再編しろ。逆らう者は、一人残らず変換して領土の肥料にしていい」
「畏まりました、我が王」
アーロンの支配は、大陸の北から南へと、まるで浸食するように広がっていく。
もはや誰も、俺の理から逃れることはできない。
しかし、そんな圧倒的な支配の果てに、俺自身の「支配欲」すらもが、さらなる飢えを求めて暴走し始めていた。
©2026 [インフィニティ・G・イプシロン]. All rights reserved.




