帰還したプロデューサーと仁義なき看病合戦
ふと、温かい光に包まれているような感覚を覚えた。
全身を苛んでいた引き裂かれるような痛みは消え去り、代わりに柔らかな感触と甘い香りが僕の意識を少しずつ現実に引き戻していく。
重たいまぶたをゆっくりと開けると、そこは見慣れた修復済みの工房の天井だった。
「……ん……ここは……」
僕がかすれた声を漏らした瞬間、周囲から弾かれたように5つの影が動いた。
「アルトっ……!」
最初に視界に飛び込んできたのは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたリゼットだった。
彼女は僕の胸に顔をうずめ、子供のように声を上げて泣き始めた。
「レヴィナス……!本当に、本当に……馬鹿な男よ……!」
クラウディアが震える手で僕の頬に触れ、青い瞳から大粒の涙をこぼす。
「神様……ありがとうございますです……!」
エミリアが僕の手を両手で包み込み、安堵の祈りを捧げていた。
「主殿……っ、よくぞご無事で……!」
菖蒲がベッドの傍らに膝をつき、声を殺して泣いている。
「アルト様ぁ……私、もう二度とお会いできないかと思いましたわ……!」
ルージュが僕の首に抱きつき、金色のツインテールを僕の顔に押し付けてきた。
5人の少女たちの温もりが、僕が生きていることを強烈に実感させてくれる。
「みんな……無事だったんだな」
僕が優しく微笑みかけると、5人は一斉に力強く頷いた。
「でも、僕は確かに限界を超えて、身体が消滅しかかっていたはずじゃ……」
オメガ・プロトコルの代償により、僕の肉体はエーテル体へと変換され、完全に消え去る寸前だった記憶がある。
僕の疑問に答えたのは、クラウディアだった。
「私たちが放ったアルティメット・プリズム・バーストが巨大母艦を粉砕した時、星喰らいが奪っていた膨大な生命エネルギーが無害な光の粒子となって王都に降り注いだのよ」
クラウディアの言葉をリゼットが引き継ぐ。
「その光の粒子が、消えかかっていたアルトの身体を包み込んで、失われた生命力を全部補ってくれたの」
「さらに、わたくしのヒーリング・エンジェルの力を最大出力で注ぎ込みましたです」
エミリアがふんわりと微笑みながら説明を加える。
「トドメに、私の愛の電撃で止まりかけていたアルト様の心臓をバチッと動かして差し上げましたわ!」
ルージュが自慢げに胸を張る。
「つまり、奇跡が重なって主殿の肉体は完全に再構築されたのでござるよ」
菖蒲の言葉を聞き、僕は深く安堵の息を吐いた。
僕の命を懸けたプロデュースと、彼女たちの奇跡の力が完璧に噛み合い、最高のハッピーエンドを導き出したのだ。
「そっか……君たちが、僕を救ってくれたんだね」
「当たり前よ……アルトがいなくなったら、誰が私のパンを美味しいって言ってくれるのよ!」
リゼットが僕の胸に顔をすり寄せてくる。
その柔らかな膨らみが僕の胸に密着し、思わず心臓が跳ねた。
「ちょっとリゼットさん、抜け駆けは許しませんわ!」
ルージュが反対側から僕の腕に抱きつき、その豊満な身体を押し付けてくる。
「アルト様、お目覚めの後は私の熱いハグで魔力補給をしてくださいませ!」
「二人とも、はしたないですわよ……レヴィナスはまだ病み上がりなのだから、安静が必要だわ」
クラウディアが冷静な声で二人をたしなめる。
だが、彼女はスッと僕のベッドの横に座り込み、自らの膝をポンポンと叩いた。
「ほら、レヴィナス。私の膝枕で頭を休めなさい。これはプロデューサーの筆頭騎士としての正当な職務よ」
「ク、クラウディアさんこそ、すごく大胆じゃないですか……!」
リゼットが顔を真っ赤にして抗議する。
「あらあら、皆さん。アルトさんのケアなら、治癒の専門家であるわたくしにお任せくださいな」
エミリアがふんわりとした笑顔のまま、僕のベッドの中に潜り込んでこようとする。
「肌と肌を密着させた方が、治癒の魔力は伝わりやすいと本に書いてありましたです」
「エミリア殿、それは何の本に書いてあったのでござるか!?」
菖蒲が慌ててエミリアを止めようとする。
「主殿の添い寝は、妻である拙者の役目に決まっているでござる!さあ主殿、拙者の胸に飛び込んでくるが良い!」
菖蒲までベッドの上に乗り上がり、僕を見つめてくる。
「いや、君たち、さすがに一斉に来られると……」
僕の言葉を遮るように、5人の少女たちのいちゃラブ猛攻が始まった。
「アルト、私が特製の栄養満点スープを作ってあげるから、口を開けて!」
リゼットがスプーンを僕の口元に突き出す。
「レヴィナス、スープの前にこのハーブティーで喉を潤しなさい」
クラウディアがカップを差し出しながら、僕の顔をじっと見つめてくる。
「アルトさん、身体のあちこちが痛むのではありませんか。わたくしが優しく撫でて差し上げますね」
エミリアの柔らかい手が僕の胸元を這い、甘い吐息が耳元をくすぐる。
「主殿、拙者の忍術マッサージで全身のツボを刺激して差し上げるでござる!」
菖蒲が僕の肩や背中を揉みほぐし、彼女の体温が背中からダイレクトに伝わってくる。
「ああもうっ、アルト様は私のものですわ!アルト様の初めては私がいただきますわ!」
ルージュが顔を真っ赤にしながら、僕の唇を奪おうと顔を近づけてくる。
「ちょ、ルージュ、それはまだ早い……!」
5人のヒロインたちが僕を巡って激しく火花を散らす。
それは巨大母艦との決戦よりも、ある意味で過酷で幸せな戦場だった。
甘い香りと柔らかな感触に包まれながら、僕は苦笑するしかなかった。
彼女たちの深い愛情が、痛いほどに伝わってくる。
この騒がしくて愛おしい日常こそが、僕が命を懸けて守りたかったものだ。
「みんな、本当にありがとう」
僕が心からの言葉を紡ぐと、5人の動きがピタリと止まった。
彼女たちの頬が真っ赤に染まり、潤んだ瞳が僕を真っ直ぐに見つめ返す。
「アルトのばか……愛してるわよ」
「レヴィナス……あなたという人は、本当に罪作りね」
「アルトさん……ずっと、わたくしのそばにいてくださいね」
「主殿……一生、お供するでござる」
「アルト様……私を世界で一番幸せな女にしてくださいませ!」
5人の少女たちの想いが、僕の心を満たしていく。
世界を救う戦いは終わった。
だが、僕の天才的頭脳をもってしても、この最高に可愛くて厄介なヒロインたちとの恋愛模様をコントロールする数式は、未だに見つけられそうになかった。




