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6-35

 北門に到着するラディッシュ達――

 

 門が見え始めた頃から「言い合い」らしき物は聞こえていたが、近づくとそれは罵り合いで、門兵と謎の人物が「入れろ、入れない」でモメていた。

 ローブを目深に被って素顔は分からないものの、声からして女性と思われる人物が、門兵数人に取り囲まれているにもかかわらず、怯む様子も、引き下がる様子も見せず、気の強さを窺わせたが、それ以上に気になったのは、騒動を見つめるだけの大司祭。

 止めに入る訳でも、仲裁する訳でもなく、その表情は何かに驚いている風にも見え、ただ立ち尽くす彼にターナップが当然の如く、


『やぃ、じじぃ! 何でぇ早く止めねぇんだ!』


 駆け寄り苦言を呈すと、

「やっ、やかましいわぁい!」

 大司祭は呼ばれて初めて気が付いた様子で振り返り、ラディッシュの姿を見るや、

「ゆっ、勇者様……これは……その……何と言ったら……」

 珍しく歯切れの悪さを晒し、するとローブの女性が、

「!」

 ラディッシュ達に気付いた素振りを見せるなり、


『やっと見つけたぁ!』


 歓喜の声を上げ、

「こっ、こら待ちなさい!」

 取り押さえる門兵たちを物ともせず、ラディッシュ達の方へ向かって来た。


 動きから推察して目当ては、ラディッシュ。

 ドロプウォート、ニプルウォート、パストリス、カドウィードは、すかさずラディッシュを背に置き身構えたが謎の女は歩みを止めず、それどころか愉快そうに、


『ハーハッハッハ! 女を盾にするたぁ噂通りの「腰抜け勇者」さぁねぇ♪』

「「「「ッ!」」」」


 カチンと来たのは、女性陣。

 心優しき勇者ラディッシュを、何処で聞きつけたか分からない悪言で謗られては我慢がならず、


『そこで止まって素顔を晒すのですわァ!』

『それ以上近づいたら容赦なく斬るさァ!』

『ラディさんの悪口は許さないのでぇす!』

『旦様ぇの悪言は許しまへんぇ!』


 ラディッシュと手を繋ぐチィックウィードまでもが、


『パパをわるくいうヤツぅ! あっちいけなぉ!』


 息巻くと、流石に分が悪いと思ったのか、謎の女性は「ヤレヤレ」といった素振りで立ち止まり、

「別に、捕って食ったりぁしないさぁねぇ~」

 呆れ笑い、

「ちょぉっと訊きたい事があるだけさぁねぇ」

 フードを外し、


『『『『ッ!!!』』』』


 ラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ターナップの四人は衝撃を受けた。

 露わになった彼女の素顔が、エルブ国を守る為に命を落とした「百人の天世人ラミウム」に、生き写しだったのである。


 違いと言えば、天世人の証である「髪の色」と「虹彩の色」が紫色ではない事か。


 唖然と立ち尽くす四人の姿に、むしろ謎の女性の方が驚き、

「ちょ?! な、なんなのさぁねぇアンタ達の反応はぁ? アタシの顔が、そんなに珍しいってのかぁい?!!」

「「「「…………」」」」

 からかいを交えた問いにさえ、驚きのあまり答えを返せずに居る四人であったが、


『ラディ! ドロプ! パス! タープ! アンタ達ぃどうしちまったってのさぁ!』


 ニプルウォートの声に、我に返ったドロプウォートが小声で、

(に、似過ぎているのですわぁ……)

(似てる?! いったい誰にさぁ?)

(ラミィ……ラミウムと瓜二つなのですわぁ……)

(ら?!)

 ニプルウォートは呆れたような短いため息を吐き、


「……アンタ達がラミウム様と、どこまで、どんな深い縁を持っていたか知らないけどねぇ……よく見て見なぁさ、ドロプぅ」

「?」

「あの女の髪の色は? 眼の色は? ウチらが天世で散々見て来た連中は、何色だったさぁ?」


 カドウィードも、


「そぅでありんすぅぇ。自分と容姿の似た人間は、三人居るともぉ、七人居るともぉ言うでありんす。過去に引きずられぇ現実を見誤るのはぁドロプらしからぬ、にありんすぇ」


 仲間たちの言いたい事は、頭では分かっていた。

 しかし、

「「「「…………」」」」

 頭で分かっていてなお、四人の心が、視線を外すことを許さなかった。


 すると、謎の女性は漏れ聞こえた会話の断片から、

「アンタ達がぁアタシに「誰を見てるか」なんてぇ、さらさら知ったこっちゃないけどさねぇ~」

 辟易笑いを浮かべながら、


「各国を旅して回ったアンタ達に「訊きたい事」があってねぇ、アタシぁわざわざアクア国から長旅をして来た、イリス・レ……「イリス」ってぇ名なのさぁねぇ」

((((アクア国のイリス……))))


 それが現実であった。


 どれほど彼女が「ラミウムに生き写し」であろうとも。

「…………」

 ラディッシュは「目の当たりにしたラミウムの死」を理解していたつもりが、何処かで生きているのを期待していた自身に気付き、

(そうだよ……ラミィは、もう……)

 おずおずと前に歩み出て「亡き知人の姿」を「赤の他人」に重ねてしまった事に、


「失礼を、深くお詫びします」


 深々と頭を下げ、彼女に纏う兵士たちに手振りで「任せて欲しい」と伝え、兵士たちが一定の距離に離れると、

「それで、僕たちに尋ねたい事とは何ですか?」

 改めての問いに、彼女は兵士に掴まれていた疲労をほぐす様に、グルグルと腕を回しながら、


「アタシぁ「料理人」を探してるのさぁねぇ」

「りょ、料理人?」

「おぅさぁね。勇者四国のどっかに「エラく腕の立つ料理人」が居るらしいんだけどねぇ、なにせ「流浪の料理人」らしくて情報も少なくてぇ、これが中々捕まらないのさぁねぇ~」

「はぁ……それが?」

「察しが悪いさぁねぇ~」


「え?」


「アンタ達ぁ、色んな国を渡り歩いてるんだろ?」

「まぁ、そこそこには……」

「だからぁ、何か情報を持ってるだろぅと思ってねぇ♪」

 ケラケラ笑う彼女に、


「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


 その場に居合わせた全員が「何言ってんだコイツ」と思ったが、ラディッシュだけはインディカのように「何か事情があるのかも知れない」と思い、ご丁寧にも、

「その料理人さんと、何かえにしが? あっ、もし訊いちゃマズイ話だったら別に……」

 気遣い、口籠ると、彼女は「カッカッカッ」と笑いながら、


「んなもぉんは無ぇさぁねぇ~♪」

『無い?!』


 呆気にとられるラディッシュと仲間たち。

「そっ、それならどうしてぇ?! アクア国ってぇ北方のアルブル国より更に北のパラジット国より、もっと北にある国なんですよねぇ?!」

 早口で問う彼に対し、

「よく知ってるさねぇ~」

 ケラケラ笑う彼女の口から語られた理由は、驚くほどシンプル、かつ驚くほど私的な物であった。


≪伝説級にウマイ料理なら一度は食ってみたいだろぅさぁね♪≫

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


 改めて言葉を失う一同。

 たった一食の為、遥か北方アクア国から遠路はるばるやって来ていた彼女の行動力に。



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