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第20話 残された旅路

 朝の光が魔王城の城壁を照らし始めたころ、エリアスはすでに手帳を開いていた。


 野営地から見える城は、夜の間に輪郭を変えたように見えた。もちろん、城そのものが変わったわけではない。闇に沈んでいた石壁の凹凸が光の中に現れ、崩れた塔や、壁面を覆う蔦の形がはっきりしただけだった。それでも、遠目には一枚の黒い影にしか見えなかった建造物が、近づくにつれて無数の細部を持つ場所へと変わっていく。


 エリアスはその様子を簡単に描き留め、時刻と天候を記した。


 昨日から、記録を取るたびに同じことを考えていた。彼らが魔王城へ至るまでの旅路は、公式の歴史に残された記述よりも長く、複雑だったのではないか。アルトの記憶に残る断片も、地図にかすかに残った別の道筋も、その可能性を示している。


 だが、可能性を並べただけでは、真実には届かない。


 彼は手帳を閉じ、荷物を肩にかけた。


「準備はできたか」


 少し離れた場所で、アルトが盾の留め具を確かめていた。


「できています」


「城へ入る前に、周囲を調べる。昨日の道も、もう一度見ておきたい」


「賛成です。入口を探すだけなら、城壁に近づけば済みます。しかし、私たちが知りたいのは、それだけではありませんから」


 アルトは盾を背負い直した。


「俺たちが、どうやってここまで来たのか、か」


「それに、何をしたのかです」


 エリアスは魔王城を見上げた。


「ここに到着したことと、魔王を倒したことは記録に残っています。ですが、その間に何があったのかは、十分に残されていません。仲間の働きも、旅の細部も、記録と物証が一致していない」


「記録にないから、何かが隠されていると決まったわけじゃない」


「ええ。ただ、記録にないものが実際に存在した可能性まで、否定することはできません」


 アルトはしばらく黙っていたが、やがて頷いた。


「なら、確かめよう」


 二人は野営地を離れ、昨日見つけた分岐点へ向かった。


 城へ続く道は、近くで見るとさらに不自然な形をしていた。崩れた石橋へ向かう道は、途中で岩崩れに塞がれている。一方、山腹を回り込む道は、狭いながらも人が通れる幅を保っていた。道の縁には古い石積みが続き、斜面の崩落を防ぐための補強が施されている。


 エリアスは地図を取り出し、道の位置を確かめた。


 公式の地図には、石橋へ向かう道だけが描かれていた。山腹を回り込む道は、薄い線として残っているものの、正規の旅程には記されていない。


 彼は分岐点の周囲を歩き、石積みの状態や道幅を調べた。何人もの人間が通行した跡は、年月と風雨によって失われている。足跡が残っているわけではない。道が使われた時期も、通った人数も、今の状態から断定することはできなかった。


 それでも、道は山の地形に沿って無理なく続いていた。偶然にできた獣道というより、人間が目的を持って整備した道に見える。


「こちらを先に調べましょう」


 エリアスが言うと、アルトは異論を唱えなかった。


 山腹の道を進むにつれ、城壁の一部が岩肌の向こうに隠れた。道は何度か折れ曲がり、そのたびに視界から城が消える。足元には砕けた石が散らばり、斜面の上から落ちてきたらしい岩が通路の端を塞いでいた。


 エリアスは、道が曲がるたびに地図へ位置を書き込んだ。


 公式の地図に描かれた経路と比べると、こちらの道は大きく迂回しているように見えた。だが、山の反対側には深い谷があり、直線的に進むことは難しい。地形を考えれば、遠回りの道が必要だったとしても不思議ではなかった。


 やがて、道の脇に崩れた石柱が現れた。


 柱の表面には、かすかに刻印が残っていた。文字なのか、装飾なのか。摩耗が激しく、形を読み取ることはできない。エリアスは手帳にその形を写し、周囲の石も調べた。


 柱の根元には、いくつもの石が重なっている。崩落によって倒れたのか、それとも別の理由で破壊されたのかは分からなかった。石の隙間からは草が伸び、土が積もっている。少なくとも、最近になって崩れたものではなさそうだった。


「何か分かったか」


 アルトが尋ねた。


「この道が、ある程度整備されていたことは分かります。ただ、いつ、誰が使ったのかまでは分かりません」


「俺たちが通った可能性は?」


「あります。ですが、ここまでの痕跡だけでは、そう判断する理由が足りません」


 エリアスは柱の写しを見直した。


 道が存在すること。人が通るために整えられていたこと。公式の地図には明確に描かれていないこと。その三つは、現時点で確認できる事実だった。


 彼らが通ったかどうかは、別の問題だった。


 アルトは周囲を見回し、道の先へ目を向けた。


「先へ進もう。何か見つかるかもしれない」


 その言葉に、エリアスは頷いた。


 調査は、記録に残された答えを探すだけではない。記録が答えていない問いを、目の前にあるものから一つずつ確かめる作業でもあった。


     *


 道は、やがて二つの岩壁に挟まれた狭い通路へと入っていった。


 両側の岩は高く、頭上には崩れかけた岩棚が張り出している。通路の幅は、人が二人並んで歩くには狭すぎた。荷物を背負った者がすれ違うなら、どちらかが壁際に身を寄せなければならないだろう。


 エリアスは入口で足を止めた。


 通路の先は暗く、奥の様子は見えない。岩肌には風化した傷がいくつも刻まれ、足元には大小の石が転がっていた。


「ここを通る必要があったのでしょうか」


「ほかに道がなければな」


「昨日の地図では、ここを通らずに谷を迂回する道が描かれていました」


「実際に通れる道だったかどうかは、分からないということか」


「そうです。地図に線が引かれていることと、その道が使える状態だったことは同じではありません」


 エリアスは通路の入口を観察した。


 岩壁の片側には、崩れた石積みが残っている。斜面から落ちてくる石を防ぐためのものらしいが、今は大部分が崩れていた。反対側には、自然の岩肌とは異なる平らな面があり、その一部に細い溝が走っている。


 彼は腰を落とし、溝の形を確かめた。


 刃物でつけた傷にも見える。しかし、長い年月の間に石が擦れた可能性もある。溝の幅は一定ではなく、途中で途切れていた。


 エリアスは、その形を手帳に写した。


「武器の傷か?」


 アルトが尋ねた。


「そうかもしれません。ただ、これだけでは判断できません」


「戦闘があった場所なら、もっと分かりやすい跡が残っていてもよさそうだが」


「時間が経ちすぎています。金属は失われ、血痕も残らないでしょう。石の傷だけで戦闘の有無を決めるのは難しいと思います」


 アルトは岩壁に目を向けた。


 その顔に、かすかな緊張が浮かんだ。


「……ここは、知っている気がする」


 エリアスは顔を上げた。


「思い出したのですか」


「いや。はっきりとは分からない。ただ、この狭さに覚えがある」


 アルトは通路を見つめたまま、しばらく動かなかった。


 岩壁に挟まれた道。前方を見通せない曲がり角。後ろへ下がろうとしても、荷物が邪魔になるほどの狭さ。


 その光景が、何か別の記憶と重なりかけていた。


 剣を握る手の感触。耳に響く金属音。すぐそばで誰かが息を荒くしている。足元には石が散らばり、進もうとするたびに靴底が滑る。


 だが、そこまでだった。


 何と戦っていたのか。何人いたのか。自分の前に誰が立っていたのか。肝心な部分は、霧の向こうにあるように掴めなかった。


 アルトは目を閉じ、記憶を追おうとした。


 しかし、無理に思い出そうとするほど、頭の中の光景は崩れていく。金属音は風の音に変わり、足元の石は目の前にある岩へと置き換わった。


 彼はゆっくりと息を吐いた。


「思い出せない」


「今は、それで構いません」


 エリアスは言った。


「無理に記憶をつなげても、確かめられない想像が混じります。覚えていることと、推測したことを分けておけば、あとで別の証拠と照合できます」


「記録係らしい考え方だな」


「そうでなければ、記録を残す意味がありませんから」


 アルトは、わずかに目を細めた。


「なら、今のことも書いておけ。ここを見て、以前に通ったような感覚があった。だが、実際に通ったかどうかは分からない」


「そのように記録します」


 エリアスは手帳を開き、アルトの言葉を書き留めた。


 書き終えたあと、彼は通路の奥へ目を向けた。


 ここで何があったのかは、まだ分からない。だが、アルトの記憶に反応があったことは事実だった。狭い通路という地形が、過去の何かを呼び起こしたのかもしれない。


 その記憶が正確なものなのかどうかも、今は判断できなかった。


 二人は慎重に通路へ入った。


 岩壁が近いため、昼間でも光が届きにくい。足元には崩れた石が散らばり、ところどころに深い窪みがあった。エリアスは転ばないように足場を選びながら進んだ。


 通路の半ばまで来たところで、アルトが再び足を止めた。


 今度は、地面に何かを見つけたようだった。


 彼の視線の先には、岩の隙間に挟まった金属片があった。土と錆に覆われ、形も崩れている。エリアスが近づいて確かめると、薄い金属板の一部らしかった。


 彼は慎重に周囲の土を払った。


 金属片の端には、規則的な穴が並んでいる。何かに固定するためのものだろう。だが、板の大部分は失われており、用途を特定できる状態ではなかった。


「装備の一部でしょうか」


「そうかもしれない」


 アルトは金属片を見下ろした。


「だが、俺たちのものとは限らない」


「ええ。古い戦闘の残骸かもしれませんし、ここを通った別の人間が落としたものかもしれません」


 エリアスは金属片の位置と形を記録した。持ち去ることも考えたが、今の状態では、持ち帰ることで得られる情報は限られている。まずは、どこに、どのような形で残っていたかを正確に残すべきだった。


 通路を抜けると、視界が急に開けた。


 山腹の斜面が緩やかになり、その先には古い石造りの広場が広がっていた。石畳の大部分は崩れているが、中央には平らな空間が残っている。広場の端には、低い壁が半ば埋もれた状態で続いていた。


 ここからは魔王城の側面が見えた。


 城壁の一部が崩れ、その内側にある建物の残骸が露出している。正面の門からは距離があるが、城へ近づくための通路として使われていた可能性はあった。


 エリアスは広場の周囲を見回した。


 地面には、細かな石の破片が散らばっている。壁の近くには、何かが置かれていたような四角い跡があった。石畳の一部は他の場所よりも摩耗しており、同じ方向へ続く擦れた痕跡も見られた。


 人が通っていたのだろう。


 ただし、それが兵士だったのか、城の関係者だったのか、あるいは別の者たちだったのかは分からない。


 エリアスは地図に広場の位置を書き込み、城との距離を測った。


「この道を通れば、正面の門を避けて城へ近づけますね」


「戦うための道だったのかもしれない」


「あるいは、城の裏側へ物資を運ぶための道だったのかもしれません」


「どちらもあり得る、か」


「今のところは」


 アルトは広場を横切り、低い壁のそばへ歩いていった。


 壁の向こう側は急な斜面になっていた。下には岩場が広がり、その先に細い谷が見える。正面から城へ向かうより、こちらを通った方が安全な場合もあっただろう。


 アルトは壁に手を置き、眼下を見下ろした。


 その姿を見て、エリアスはふと、王都で調べた戦闘報告を思い出した。


 そこには、狭い通路で大柄な戦士が敵を食い止め、勇者が敵の中枢へ進む時間を稼いだという記述があった。戦士の名前は残されていなかった。


 ガレクだったのではないか。


 エリアスは何度もその可能性を考えていた。しかし、報告書に記された特徴だけで、ガレク本人だと断定することはできなかった。大柄な戦士がほかにいなかったという証拠もない。


 それでも、目の前の狭い通路と、戦闘報告にある記述は、無関係ではないように思えた。


「アルト」


「何だ」


「王都で見た戦闘報告を覚えていますか。狭い通路で、大柄な戦士が敵を食い止めたという記録です」


 アルトは壁から手を離した。


「覚えている」


「ここで戦闘があった可能性はあるでしょうか」


 アルトはすぐには答えなかった。


 広場から狭い通路へ目を向け、再び城壁を見上げる。通路は幅が狭く、複数の敵が一度に押し寄せるには不向きだった。守る側にとっては、少人数でも進路を塞ぎやすい地形だっただろう。


「可能性はある」


 彼は言った。


「だが、この場所で戦った証拠はない。報告書の記述と似た地形があるからといって、同じ場所だと決めるのは早い」


 エリアスは頷いた。


「私もそう思います。ただ、地形の特徴は一致する部分があります。記録に残しておきます」


 彼は広場と通路の位置関係を描き、戦闘報告との類似点を書き添えた。場所の一致は未確認であることも、はっきりと記した。


 ペンを動かしながら、エリアスは考えていた。


 もし、あの報告書に記された戦士がガレクだったなら、彼は仲間たちを守るために、このような場所で戦ったのかもしれない。


 だが、その推測を確かめるには、別の証拠が必要だった。


 ガレクの装備。盾についた傷。戦闘報告の記述。アルトの記憶。


 それらが同じ出来事を示すなら、少しずつ確かなものになっていくはずだった。


 エリアスは手帳を閉じた。


「先へ進みましょう」


     *


 広場から城壁に沿って進むと、崩れた建物の跡が見つかった。


 建物は、かつて倉庫か詰所として使われていたようだった。壁の一部が残り、床には石が敷かれている。屋根は完全に失われ、内部には土砂や枯れ枝が入り込んでいた。


 入口の脇には、錆びた金具が残っていた。扉を固定するためのものかもしれない。床の隅には、陶器の破片も散らばっている。


 エリアスは、足元に注意しながら建物の中へ入った。


 壁際には、浅い溝が走っていた。水を流すためのものか、物資を運ぶために床を整えた際にできたものかは分からない。溝の近くには、黒ずんだ染みが残っていた。


 彼はその場にしゃがみ込んだ。


 染みは石の表面に薄く広がっていたが、何によるものかは判別できなかった。火の跡かもしれないし、長い年月をかけて染み込んだ土や水の成分かもしれない。


 エリアスは色と形を記録し、周囲の石の状態も調べた。


 そのとき、建物の奥でアルトが声を上げた。


「こちらを見てくれ」


 エリアスが向かうと、アルトは壁際の床を指していた。


 そこには、石を並べて囲った小さな区画があった。床の一部が他よりも平らで、周囲には細い溝が設けられている。何かを置いた場所のようにも見えた。


 区画の端には、浅い窪みがいくつも並んでいた。


「何かを保管していたのでしょうか」


「分からない。だが、ただの床には見えないな」


 エリアスは窪みの大きさを測った。どれも不規則で、同じ用途のものかどうかは分からなかった。金属製の器具を置いた跡にも見えるが、石が欠けただけという可能性もある。


 区画の近くには、壁の一部が崩れてできた隙間があった。そこから外へ出ると、城壁沿いの細い道につながっている。


 この建物は、城の外側から物資を運び込むために使われていたのかもしれない。


 そう考えれば、山腹の道や広場ともつながる。城へ近づくための別の経路があり、物資を運ぶ人間が出入りしていたとしても不思議ではない。


 しかし、それが勇者一行の旅と関係しているかどうかは、まだ分からなかった。


 エリアスは建物の全体を見渡し、簡単な見取り図を描いた。


 入口。床の区画。溝。壁の崩落箇所。外へ続く道。


 記録を終えたころには、日が傾き始めていた。


「今日はここまでにしましょう」


 エリアスが言った。


「城の内部も調べる必要がありますが、周囲だけでも、まだ見ていない場所が多い。暗くなってから移動するのは危険です」


「分かった」


 アルトは建物の外へ出た。


 エリアスも続き、二人は来た道を戻り始めた。


 帰り道、アルトは何度か足を止めた。


 山腹の曲がり角。狭い通路。崩れた石段。そうした場所を通るたびに、何かを思い出しかける様子があった。しかし、彼が口にできたのは、曖昧な感覚ばかりだった。


 長い道を歩いたこと。


 誰かと一緒に進んでいたこと。


 戦闘の前後に、何度も立ち止まったこと。


 それらは、旅が公式の記録にあるほど単純ではなかった可能性を示していた。だが、どの場所で何が起きたのかを説明するには足りなかった。


 エリアスは、アルトが話したことをその都度記録した。


 記憶が戻らないことを責めるつもりはなかった。無理に思い出させようとしても、失われたものが戻るとは限らない。それどころか、曖昧な記憶を問い詰めることで、本人が確信のないことまで事実のように語ってしまうおそれがあった。


 今必要なのは、断片を断片のまま残すことだった。


 いつか、それらを結びつけるものが見つかるかもしれない。


     *


 野営地へ戻ったあと、エリアスは地図と手帳を広げた。


 朝に記した城の輪郭。その周囲にある山道。狭い通路。石造りの広場。崩れた建物。今日調べた場所を順番に書き込み、公式の地図に残された線と比較する。


 すると、いくつかの点がつながった。


 地図に薄く残っていた道筋は、山腹を回り込むように進み、狭い通路を抜けて広場へ至る。その先には、城壁の外側にある崩れた建物があった。建物からは、城壁に沿って進める細い道が伸びている。


 これらが同じ時期に使われていたかどうかは分からない。


 まして、勇者一行がこの道を通ったという証拠も、まだ見つかっていなかった。


 それでも、地図に残されたかすかな線は、現地の地形と大きく矛盾していなかった。


 エリアスは、地図の線を指でなぞった。


 もし、これが彼らの通った道だったなら、公式の旅程に記された経路とは違う道を進んでいたことになる。山を迂回し、狭い通路を抜け、城壁の外側から近づいた。そうした旅路は、地図上の短い線だけでは伝わらない。


 だが、まだ仮説にすぎない。


 彼は地図の脇に、そのことを書き添えた。


 そのとき、向かい側で装備を整えていたアルトが顔を上げた。


「何か見つかったか」


「道筋の一部は、地図に残された線と一致しています。ただ、私たちが通った道かどうかは、まだ分かりません」


「明日、城の中を調べれば分かることもあるだろう」


「そう願いたいですね」


 エリアスは手帳を閉じた。


 今日見つけたものは、どれも決定的な証拠ではなかった。古い道。崩れた石積み。用途の分からない金属片。戦闘があった可能性を感じさせる狭い通路。物資の搬入に使われたかもしれない建物。


 一つひとつは、魔王城の周辺に残された古い遺構として説明できる。


 だが、公式の旅程と地図の食い違い、アルトの記憶の断片、そして仲間たちが消えたことを合わせて考えると、無視することもできなかった。


 エリアスは焚き火の向こうに見える魔王城を見つめた。


 この城には、まだ調べていない場所がある。そこで何が見つかるのかは分からない。期待するだけの根拠も、失望するだけの根拠もなかった。


 ただ、今日の調査によって一つだけ明確になったことがある。


 彼らが魔王城へ至るまでに通った可能性のある道は、公式の地図に描かれたものだけではなかった。


 そして、アルトの記憶には、その道のりが単純なものではなかったという感覚が残っている。


 それだけでも、調べる価値はあった。


 エリアスは明日の調査予定を手帳に書き込み、最後に一行を付け加えた。


 現時点では、消えた仲間たちの働きを示す直接的な証拠は得られていない。


 その一文を書き終えてから、彼はしばらく文字を見つめた。


 焦って結論を出すことはできない。


 リゼットが道を見つけたのか。ガレクが狭い通路で仲間を守ったのか。セレナが負傷者を治療したのか。今のところ、それらは確かめるべき仮説のままだった。


 それでも、エリアスは手帳を閉じる前に、ページの余白へ小さく書き添えた。


 彼らがここまで来たのなら、何かを残しているはずだ。


 それは証拠ではなく、願いに近い考えだった。


 エリアスは、その一文を事実の記録とは別の場所に置いたまま、手帳を閉じた。

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