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SAINT SOUL ~聖なる魂の王子は渡さないっ~  作者: 碧衣 奈美


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5/10

05.家に帰れば

 メリアーティスからいきなり同行するように言われ、ドーアンは戸惑った。言い方はおだやかだったが、この状況だとほとんど命令のように聞こえる。

「あの、私も……ですか? しかし、私はキャプロックの城へ向かわないと」

 さっきも話したように、自分には「ソルフォード王子に剣を渡す」という、非常に重要かつ急ぎの役目があるのだ。

 助けてもらった、とは言うものの、まだお互いの名前くらいしか知らない。来いと言われて素直に行ってもいいものか、ドーアンは判断しかねていた。

 少なくとも、彼女達から魔物の気配はしない。だが、信用させるために魔物をけしかけ、自分達が助けたように見せる、という罠の可能性だってある。

 さっきは助けが来てほっとしたが、落ち着いたら「これは本当に偶然だったのだろうか」と疑心暗鬼になってしまうのだ。

「ここから城へ向かっても、また今と似たような目に遭うわよ。それに、顔色がよくないわ。ドーアン、たとえ短時間でも、一度休んだ方がいいんじゃない? でなきゃ、次は本当に魔物の餌食になるわよ」

 なだめたり、脅したり。

 メリアーティスの言葉に、ドーアンは迷っているような顔をしている。

 確かに、このまま一人でキャプロックの城へ向かっても、無事に着ける自信はあまりなかった。

 長時間魔物に囲まれていたし、さっきの魔法もかなり力を使うものだ。歩きながらの回復は無理だし、彼女が言うように魔物がまた現れる可能性は高いと思われた。

 考えれば考える程、どうするのが最善かわからなくなってくる。

「メリアーティス、この調子でいくと、家に着くまでにちょっとした団体になりかねないぜ」

 ラツィオが苦笑する。

「仕方ないわ。近くに家があるなら送って行けるし、戦う力があるならいいけど。危険な所にいる人を、放っておけないでしょ。さ、ドーアン、立てる?」

「え……は、はい」

 立ち上がりながらも、まだためらっているような顔をしているドーアンの肩を、ラツィオがぽんと叩いた。

「とりあえず、行くしかなさそうだぜ、魔法使いさん。心配しなくても、取って喰いやしないよ」

☆☆☆

 幸い、と言うべきか。

 それからは同行者の人数が増えることもなく、三人はようやくメリアーティスの家であるルクスソーヴァ家に着いた。

 屋敷の周りに魔物はいないが、人気がなくてやけに静かだ。

「ねぇ、誰かいないの。メリアーティスが帰って来たわよー」

 門の外で叫んでも誰一人として出て来てくれないので、仕方なく自分で門を開けて入る。

 屋敷の扉の前まで来たが、かんぬきが下りているのか開かない。

 だが、かんぬきが下りているということは、この向こうに誰かがいるということになる。内側から鍵がかけられているのなら、まったくの無人ではないのだ。

「ちょっと、開けてよ。中に誰かいるんでしょ。父様、母様、じいー。ここを開けてよ。この家の娘、メリアーティス・ルクスソーヴァがダーリエから戻って来たんだってば」

 少し空しい気もしたが、名乗ってみれば開くかも知れない、と怒鳴ってみたが無駄だった。

 メリアーティスの言葉が終わると、周囲は再び静寂に包まれる。

「なしのつぶて、か。魔物が化けてる、とでも思われてるのかな」

 メリアーティスがどんどんと叩いても、なかなか開かない扉。それを見て、ラツィオがつぶやく。

「もしかして、見慣れない顔の私達が一緒にいることで、疑われているのでは」

「そんなことないわよ、たぶん。それに、化けるなら家族の姿になった方が、だませるでしょ。ねぇ、開けてったら。……いい加減にしないと、蹴破るわよ!」

 本当にやりかねない勢いで、メリアーティスが怒鳴る。と、扉の向こうで音がした。たぶん、かんぬきが外されている音。

 おとなしく待っていると、そっと扉が開いた。しかし、人が入れる程ではなく、隙間から老人が疑わしげにこちらを見ている。

「本当に……お嬢様ですか?」

「じい! 何を理由に疑ってるのよ。あたしはメリアーティスだって、さっきから言ってるでしょ。そんなすきまから見てないで、さっさと開けてよねっ」

 問答無用、という勢いで、メリアーティスはわずかに開いていた扉を掴むと、人が入れるくらいに押し開けた。

「さ、二人とも、入って」

「俺達が入って、叩き出されないかな」

「あの……本当によろしいのですか?」

「いいわよ。ここまで来て、何言ってるの。ほら、早くしないと、いつまた魔物が現れるかわからないでしょ。屋敷の中にまで入られたりしたら、厄介だわ。早く入って」

 メリアーティスにせかされて、ラツィオとドーアンは屋敷の中へ入った。

「じゃあ……えーと、お邪魔しまーす」

「こんな時に、申し訳ありません」

 招かれざる客のように思え、二人は遠慮がちに挨拶する。

「お嬢様……本当にお嬢様ですね。よくご無事で」

 メリアーティスの言動を見て、ルクスソーヴァ家の執事オージェイズはようやくメリアーティスを「当家の娘」と判断したらしい。

「うん、一応無事よ。ねぇ、じい。この国で何が起きたの? ダーリエから戻って来たら、あちこちに魔物がいるし、そのせいで街はまるで人気がないし。……父様と母様は?」

 ひとまず応接室へ入ったが、この状況でメリアーティス達の前に現れたのはオージェイズ一人だ。

 娘のことを心配していたであろうはずの両親は、いつまで経っても姿を見せない。

「それが……わたくしどもにも、事情がよく飲み込めておりませんで」

 近衛騎士隊長の家に仕える者として、常に身なりも知識もそれ相応の執事がうなだれた。

 いつもであれば、ほとんど白くなった髪はきれいに整えられている。タキシードや白いシャツに、汚れやしわなどもなく。

 だが、今は。

 わずかながらも髪や服装が乱れ、その顔色には疲れがにじみ出ている。普段はぴんと伸びた背中が、少し曲がって見えた。

 メリアーティスがダーリエへ出掛けた二日前。

 当家の主人バンフェルデは、いつものように仕事のためにキャプロックの城へ向かった。奥方のスィーナもまた、少し遅れて城へ出掛ける。

 そこまでは、普段と変わらない風景。

 それから半日も経たない頃、あちこちで魔物が現れ始めたのだ。

 丸腰の者や力の弱い者は、すぐに屋内へと逃げた。排除すべく、武器を持って外へ出た者もいたようだが、囲まれそうになって逃げ戻ったのだ。

 恐ろしくて、それ以降は誰もこの屋敷から外へは出ていない。そして、主人と奥方はいまだに帰館していないのだ。

 外泊の予定があれば、必ずオージェイズが把握している。ということは、帰れない状況にある、と考えられた。魔物が関係しているのだろう。

 それを確かめるためには……。キャプロックの城へ行くには、外へ出なければいけない。

 だが、とても出て行ける状態ではなかった。

 今はオージェイズだけがメリアーティスを出迎えているが、館の奥には自分の家へ帰るに帰れない使用人達がいるらしい。

 今は屋敷周辺に魔物の姿はないが、少し離れた所にいるかも知れない。もし完全にいなくなったのなら、主人達が戻って来るはず。

 仮に主人達に何かあったとしても、魔物がいなくなれば城の関係者が状況を知らせに来てくれるだろう。

 一般庶民ならともかく、当家の主人は近衛騎士隊長なのだから。

 つまり……結局は、ここも街と何ら変わらない状態だった。

「こういう大きな屋敷なら、食料の備蓄はそれなりにあるよな。しばらくは食いつなげるだろうけど……一生ここに籠城って訳にもいかないだろ」

「食料が尽きる前に、精神が保たないでしょう。我々のように魔物と対抗できる何がしかの力がなければ、普通の人達に外へ出ろとは言えませんし」

 魔法使いですら、ピンチにおちいりかけたのだ。民間人なら、すぐに魔物の餌食になってしまう。

「ご主人様も奥様も、ご無事で城にいらっしゃることを祈るしかありません」

 主の無事を確かめることができない状況は、執事としてももどかしいだろう。

「もしかして……時期が時期だけに、王家転覆を謀った誰かが魔物を呼びよせたのかしら」

「何だ、時期ってのは?」

「もうすぐ、ソルフォードが……王子が王になるの」

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