表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SAINT SOUL ~聖なる魂の王子は渡さないっ~  作者: 碧衣 奈美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/35

19.気付かなかったブラウエル

 なぜブラウエルは、ローズに聞かれるまま、ここまで話すのだろう。

 決まっている。それが成功するかどうかはともかく、ブラウエルは今言ったことを実行する気でいるだけ。誰にも邪魔させずに。

「ふぅん。それが嘘でもホントでも、何だっていいわ。今言えるのは、あたくしがあんたの支配なんてお断りだってことと、その男がどうしても欲しいってことよ」

 ローズはいきなり、風の刃をブラウエルへ放った。

 これという前置きもなしに放った力だが、ブラウエルは剣を出すと、その風の刃を跳ね返す。同時に、創魂珠の周囲に強力な結界を張った。

 ローズの力で創魂珠を壊されては、あとわずかで魂が抜かれるはずだというのに、最初からやり直しになってしまう。ここで壊される訳にはいかない。

 もちろん、奪われる訳にも。

 ローズはブラウエルへ向けて、毒針を放った。細い銀色の針が、無数に飛ぶ。だが、相手はそれを全て剣で叩き落とした。

 その間に、ローズは創魂珠を炎で包む。創魂珠が見た目通りに水でできていると思ったのか、それで水分を飛ばす算段らしい。

 だが、ただの水でできているのではない創魂珠は炎では消えないし、それ以前に結界がローズの炎を阻んだ。

「この男はあきらめてもらおう。魂は俺のもの、身体はアルカのものと決まっている」

 竜巻がローズを襲った。

 ローズがさっき出した風の刃を、広範囲にわたって出したようなもの。逃げ切れないローズは守りの壁を出しながら、さらに大切な顔を腕で隠す。

 風の勢いに押され、ローズは耐え切れずに謁見の間の壁に叩き付けられた。

「きゃああっ。あたくしの美しい髪と衣装がぁっ!」

 ローズの力より数段強かったブラウエルの力は、ローズが出した守りの壁を破ってその髪や衣装を切り裂いた。

 顔だけは腕でかばっていたのでどうにか無事だが、その顔をかばった腕や他はひどい状態だ。

「今すぐ引き上げるなら、生かしておいてやるぞ」

 そんなローズの姿を眺め、ブラウエルは余裕の笑みを浮かべている。もう勝負は決まったも同然だった。

 ローズの長かった金の髪は、風に切られて無残な形になり、身体のあちこちからも血がにじんでいる。

 守りの壁を出していなければ、切られたのは髪や衣装ではなく、この身体そのものだっただろう。恐らく、こま切れ状態にされている。

 さすがに、魔性の中でも強いと噂される男だ。その力は、伊達ではない。口だけではないのだ。

 メリアーティス達を苦戦させていたローズだが、今は自分がブラウエルに苦戦させられている。

「これ、すっごくお気に入りだったのに……。ふん、やってくれるじゃないの」

 ローズは長い舌で、手の甲に受けた傷から流れる血をなめた。

「直接あんたから坊やを奪うってのは、無理のようね。だけど、あきらめないわよ」

「何度来ても、結果は同じだ。いや、次に会う時は、今よりさらに強くなっているだろうな」

「ふふん、それはどうかしらね。あたくし、絶対にあきらめないわよ。ものは聖精。簡単にくれてやれるような代物じゃないんだからね」

「ふっ。何を言っても、負け惜しみにしか聞こえんぞ」

 だが、今度はローズの方が、余裕のある笑みを浮かべた。

「あんた、その珠で聖精をどうこうしようと思っているらしいけど、今のままじゃ絶対に何も起きないわよ」

「ふん、戯れ言を」

「それが、そうでもないのよ。だって坊やの魂は、その身体にはないんだもの」

 ローズのその言葉に、ブラウエルの顔から笑みが消えた。

「あらぁ、気の毒に。もしかしなくても、ずーっと知らなかったのかしら?」

 ブラウエルの表情を見る限り、本当に気付いていなかったようだ。

 それがわかって、ローズは形勢逆転とばかりに、にたにたする。勝ち誇っていた相手から余裕の笑みが消えるのを見るのは、とても楽しい。

「坊やはとっくの昔にそこから抜け出して、今は自分の彼女や家来と一緒にここへ向かってるわ。その身体を取り戻すためにね。坊や自身が取り戻せば、その魂も身体に戻るはずよ。今、無理にあんたから坊やの身体を奪わなくても、その時を狙うことにするから」

 身体から魂を抜く、という手順を踏まなければ、ローズは魂を喰えない。今のソルフォードのように魂だけが一人歩きしている状態では、しかも半分実体を持ったような状態では「魂を抜く」ことは無理だ。

 まずは、身体にその魂を戻し、改めて魂を抜かなければ。

 あそこにある身体を奪ってソルフォードの元へ持って行き、魂を戻すつもりでいたローズ。

 自分でそれができないなら、本人にやってもらえばいい。

 抜くべき魂がない、からっぽの身体。こんな今の状態では、ブラウエルだってどうしようもないはず。

 それなら……この聖精の持ち主は、まだ誰のものでもない。

「それじゃ、坊やが来る頃にまたお邪魔するわね。ほほほほほーっ」

 奇怪な笑い声を残し、ローズは消えた。後には、ソルフォードの身体を睨むブラウエル。

 アルカには待てと言ったが、正直言って自分でも妙だとは思っていたのだ。

 あまりにも時間がかかりすぎている。確かに、聖精は普通の魂とは勝手が違うだろうが、それにしても変化というものがなさすぎた。

 抜くべき魂がこの中に存在していないのなら、創魂珠だってどうしようもないし、変化の起きようがない。

「ふん、なるほどな。魂だけを外へ出すことで、創魂珠と同化するのを防いだ、か。おのれ、ソルフォード王子……なかなかやってくれるな」

 ブラウエルは、いまいましげにつぶやく。

 最初に聖精が現れた時、魂の輝きを強く感じた。それが感じられなくなったことに、もっと早く気付くべきだった。余計な時間を費やしたことになる。

 ブラウエルは玉座へ戻ると、そこに置いていた水晶球を取った。呪文を唱え、本当に王子が外にいるのかを確かめる。

 やがてそこに映し出されたのは、確かに数人の人間とともにいるソルフォードの姿だった。

 普通に歩き、動いている。王子は魔法を使えなかったはずだが、まるで本体そのものが歩いているように見えた。

 身体は間違いなく、創魂珠の中にあるのに。

「王子、いつまでもそううまくいくとは思わないようにね。おいたが過ぎるようだ。わたしを甘く見ていると痛い目に遭うということを、これからしっかり教えてあげますよ」

 ブラウエルは水晶を持ったまま、再び創魂珠のそばへ行った。

 水晶には、すでに何も映ってはいない。その水晶を掲げ、ブラウエルはさっきとは違う呪文を唱え始めた。

 少しすると、水晶から黒い煙のようなものが漂い出す。

 水晶に集められていた人間の恐怖や不安などの感情で、魔性が使う力として具現化したものだ。

 ブラウエルの呪文によって、煙は創魂珠にまとわりつく。じわじわと中へ浸透してゆき、やがてソルフォードの身体にまとわりついた。

 途端に、ただゆらゆらしていた王子の身体がびくりと震える。ブラウエルはその様子に、にやりと笑った。自分の魔法が効いている証拠だ。

「よくこの創魂珠から抜け出せたものですな。それはほめてあげますよ。だが、そろそろ戻っていらっしゃい。王子のいるべき場所は、ここなのですから。早くお戻りになることを願っていますよ。もっとも……願う必要などないでしょうがね」

☆☆☆

「ねぇねぇ、ソルフォード。この子、ケガしてるよ」

 子どもの声が聞こえた。この声は、たぶん女の子だ。

 近くにいる……のだろうか。よくわからない。

 気配は近くに感じるが、声がいやに遠く感じられる。

 眠りかけている時のように、意識と現実がひどく離れているような。

 女の子が話している「この子」とは、もしかしなくても自分だろう。

 それよりも、この身体が動かないのはどうしたことか。ぴくりとも動かない。

 自分は生きているのか。それすらも、わからなくなってくる。目も重くて、開けられない。

「かわいそうに。きっと、他のけものにおそわれたんだろうね」

 別の子どもの声がした。高い声だが、こちらは男の子だろう。

 気配からすると、どうやらそこには二人いるようだ。

 もっとも、今の自分は感覚がひどく鈍っている、という自覚がある。だから、そうだ、とは言い切れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000 (バナー作成:相内 充希さま) (バナークリックで「満月電車」に飛びます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ