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SAINT SOUL ~聖なる魂の王子は渡さないっ~  作者: 碧衣 奈美


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16.二手になって

 ゲラーニエはにたにたしながら、メリアーティス達の顔を見回す。

「ローズが最高の魂を見付けたって言うから、ついて来たんだ。身体は魂の器だからな。入ってた魂がそれなりなら、身体もそれなり。それが最高の魂ってんだから、当然身体だって最高のはずだ。魂と身体のレベルがアンバランスってのは、まずないからな。で、どれが最高の魂なんだ?」

「あの男よ。あたくしと同じ、金髪の坊や。あれが最高なの」

「うわ……同じにされた」

 確かにソルフォードもローズと同じ金の髪だが、色の濃さや艶などが違う。色が同じというだけで、一緒にされたくはなかった。

 しかし、またまたローズはソルフォードの嫌悪感もスルーする。

「坊やには劣るけど、他にいる男達もなかなかのものよ」

 ローズがソルフォードを指差し、それからいやらしい視線でラツィオやドーアンを見る。

「へぇ、魔法使いもいやがる。いいじゃねぇか。魔法使いの身体には、魔力が染み付いてるからな。たとえわずかでも、俺様の魔力の足しになるぜ。女の肉は柔らかくてうまいからな。ローズ、さっさとやっちまおうぜ。どれでもいいから、早く喰いたい」

 ゲラーニエが舌なめずりする。

「どれでもと言うなら、お前にはそっちの二人をまかせるわ。あたくしは、この輝く魂の方を優先させたいからね」

 ローズはソルフォードとメリアーティスに、ゲラーニエはラツィオとドーアンに狙いを定める。

「さすがは聖精の持ち主。どういう魔法を使ったのか知らないけれど、あたくしのムチを切るなんて素晴らしい力ね。だけど、あたくしの武器は、このムチだけではないのよ」

 言いながらローズは、その手に扇子を出した。貴婦人が持つような、ふわふわの羽でできた扇子だ。

 色は、着ているものと同じピンク色。扇子だけならかわいいのだろうが、ローズが持つと、どうしても下品に見えるから不思議だ。

「この扇子を持って、舞うように攻撃する。美しいあたくしに似合いの動き。さぁ、今度こそ、その魂をいただくわよ。この素晴らしい舞いで、あたくしの虜におなりなさい」

 攻撃予告と言おうか、挑発と言おうか。

 普通なら恐怖か怒りを抱きそうなセリフなのに、ローズが相手だと気持ち悪さしか出て来ない。

 もしくは「何言ってんだ、こいつ」という嘲笑。

「何が虜よ。気持ち悪いものを見て、虜になるはずないでしょ。鏡、見たことあるの?」

「お黙り、小娘! 口うるさいお前から、血祭りにあげてやるわっ」

 ローズが、メリアーティスに襲いかかってきた。

☆☆☆

 勝手に二手に分けられ、ラツィオとドーアンは自分達より身体の小さい、だが殺気を隠そうともしないゲラーニエと対峙していた。

 ラツィオとしては、仇であるローズをぶった斬りたかったのだが、問答無用でこちらへ回された形だ。

 いつの間に出したのか、ゲラーニエは自分の背丈よりも長い錫杖を持っていた。

「へへっ、さっきは結界を張ってたみたいだけど、俺様の雷をまともに食らって無事でいられっかなぁ? 試してやるぜ。俺様を楽しませてくれよ」

 錫杖を振り上げ、地面を叩く。途端に、さっきより大きな雷が落ちた。

「うわああっ」

 ドーアンが結界を張っていたが、完全には防ぎ切れなかった。

 電流が、ラツィオとドーアンの身体を駆け抜ける。堪え切れず、二人は地面にひざを着いた。

 直接受けていたら、間違いなくやられている。

「惜しいね。あとちょーっと。割合でいきゃ、もう四分の一防ぐことができたら、完璧だったのに。お前の魔力ってその程度かよ。ま、俺様が強すぎるから、仕方ないっか」

 ゲラーニエは勝って当然、という顔だ。黄色い歯を見せて、にたにたしている。

「……ちっくしょお」

 まだ身体がしびれながらも、ラツィオが立ち上がった。

「へぇ、まともじゃなかったにしろ、俺様の電撃を食らってこうもすぐに立ち上がるとはね。だけど、魔法使いはまだ立てないみたいだな。次にもう一発食らったら、しかも結界なしじゃなぁ……さすがに立ってられなくなるぜ。食らってみるか?」

「させるかっ」

 錫杖を再び振り上げたゲラーニエに、ラツィオが突進した。

 地面に突き刺す前に、剣で錫杖を弾き飛ばす。空を舞って、錫杖はゲラーニエから離れた場所の植え込みに突き刺さった。

「けっ、ざまーみろ。今度はこっちの番だ。いくぜ」

「ざまーみろだと? 俺様は錫杖なんかなくたって、電撃くらい出せるんだぜ」

 ラツィオの剣を軽々とよけながら、手を前に差し出す。その手から、稲光と同じ光が飛び出した。

 ゲラーニエに向かって走っていたラツィオは、勢いづいてその光へ飛び込む形になってしまう。止まろうにも、簡単には止まらない。

 やばい、やられるっ。

 無駄とわかりつつ、まともに食らわないよう、ラツィオは倒れ込んだ。

 しかし、いつまで経っても、雷撃は襲ってこない。顔を上げると、ほんの目と鼻の先で、稲光が何かに弾かれているのだ。

「ちっ、こしゃくな魔法使いだな。ずっと倒れてりゃ、そのうち楽に死なせてやったのによ」

「生きている者は誰だって、命がかかれば必死になります。きっと、魔性にはわからない感覚でしょうね」

 ラツィオより一歩遅れて立ち上がったドーアンが、さっきより強い結界を張ってゲラーニエの雷撃から仲間を守ったのだ。

 錫杖がないので、何とか持ち堪えられている。やはり、あの錫杖がゲラーニエの攻撃を増幅させていたのだ。

 やがて、ドーアンの結界とゲラーニエの力が、ぶつかり合った部分で爆発した。双方の力が相討ち状態になったのだ。

 どちらの力も無効になった途端、ドーアンは高速で石つぶてを飛ばす。

 だが、ゲラーニエもすぐにその場から飛び上がり、空中で身体に釣り合わない程の大きな剣を出して、ドーアンを攻撃する。

 魔法使いは突風を起こして相手を寄せ付けず、駆け付けたラツィオがゲラーニエの剣に打ち付けた。

☆☆☆

「きゃあっ」

 メリアーティスとソルフォードを相手にしていたローズが、右へ行くと見せかけて左に動き、一瞬の隙を狙ってメリアーティスの背後に回った。

 少女の首に腕を回し、それまで何度となくメリアーティスやソルフォードの剣を跳ね返した扇子を頬に当てる。

 それを見て、ソルフォードの動きが止まった。

「ほほほほほーっ。坊や、この女の命が欲しい? この微妙なかわいさの顔に、傷を付けられたくない? だったら、その剣を置いてこちらへいらっしゃい。妙なことをしたら、この小娘の首は胴から離れるわよ」

「微妙なかわいさって、何よっ。気分の悪い言い方して。いっそ、はっきりと不細工って言われた方がすっきりするわ」

 脅し文句は気分が悪いものだが、ローズが言うと腹が立つ。

「あら、そぅお? じゃあ、言い直すわ。坊や、この醜女(しこめ)をさらに醜くしたい?」

 見た目はただの扇子でも、実際には剣を当てられているようなもの。

 そして、ローズはこんな口調であっても本気だ。ソルフォードが何かしようとすれば、ためらうことなくメリアーティスの顔を傷付け、首を切るだろう。

「ダメよ、ソルフォード。来ちゃダメ。あなたが来たって、どうせこいつはあたしを解放するつもりなんてないんだから」

「だからって、このまま見殺しにしろって言うのかい? ぼくにはできない」

 ソルフォードは、剣を地面に落とした。

 メリアーティスはラツィオとドーアンの方を見たが、二人ともあの雷撃小僧と戦っている最中で、とてもこちらには手が回りそうにない。

 あたしのバカ。どうしてこんなふざけた魔性に捕まるのよぉ。そのためにソルフォードが……。

 メリアーティスは自分の腕の悪さ、動きの悪さに心底嫌気がさした。

 さっきもソルフォードにローズのムチから救われたが、その一方で自分は何をしている? 彼を窮地に追い込んだだけだ。

「メリアーティスを放せっ」

 セラップが空から急降下し、扇子を持つローズの手に鋭い爪で攻撃しようとする。だが、そんなセラップを、ローズは扇子ではたき、簡単に叩き伏せた。

「セラップ!」

 メリアーティスとソルフォードが、同時に叫んだ。

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