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SAINT SOUL ~聖なる魂の王子は渡さないっ~  作者: 碧衣 奈美


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12.黙っていた理由

 創魂珠に飲み込まれ、一時は意識を失ったソルフォードだったが、やはり魂の持つ力が強いのか、身体は動かなかったが意識だけは戻ったという。

 とにかく、すぐにでも創魂珠から逃げなければならないが、身体はもう動かない。水中の藻のように、揺らめくだけだ。

 ブラウエルが言ったように、誰かに創魂珠を壊してもらわなければ出られないのだろう。つまり、自力ではどうやっても無理。

 そうして、ソルフォードの心に浮かんだのが、メリアーティスだった。

 もちろん、魔性に占領されたこの城へ彼女が来るのは、危険極まりない。命の保証はできないだろう。

 だが、自分の身体が外へ出られない限り、そしてこの魂が創魂珠に同化してしまえば、地上は全てあの魔性が支配してしまうことになる。

 どちらにしても、危険だ。

 ソルフォードにとって助けを求められるのは、メリアーティスしかいない。

 そう考えたソルフォードは、懸命に声を送った。

 どこにいるのかすら定かではないメリアーティスへ向けて、自分の身体を救ってくれ、と。

 自分の声が彼女に届く、と確信していた訳ではない。今できることが、それしか思い浮かばなかった。

 そうしているうちに、どれだけの時間が経っただろう。

 ふいに、魂が身体を離れたことを自覚した。

 最初は「とうとう創魂珠に魂を抜かれたか」と思ったのだが、そのまま創魂珠の外へと出てしまう。

 魂の持つ力が、創魂珠の魂を吸収しようとする力に勝ったのか。

 事情はわからないが、創魂珠に同化さえされなければ、ブラウエルは求める魔力を得ることができない。その間に身体を取り戻し、反撃することができれば。

 まだ自分は負けていない。

 そう思ったソルフォードの魂は、そのままメリアーティスの家へ向かう。考えることは、セラップと同じだ。

 今はとにかく、メリアーティスを頼るしかない。彼女を通じて、反撃してくれる仲間を集めなければ。

 そうしてここへ現れたのだが……まさか実体まで得られるとは思わなかった。

「あたし、ソルフォードが聖精なんてものを持つ、特別な人だなんて知らなかった。どうして教えてくれなかったの? それを聞いてあたしが離れて行くとか、変な目で見るとか思ったの?」

 世間から見れば、王子という立場であるだけでも十分特別だ。

 しかし、幼い頃からずっと一緒に遊んでいるメリアーティスにとって、王子なんて身分は一切関係ない。

 それよりも「二人の間で隠し事があった」ということの方が、メリアーティスにはショックだった。

 城のことについては、政治も絡んだりして話せないこともあるだろう。

 だが、ソルフォードについてそんな重要なことを知らないでいた、なんて思わなかった。

 黙ってるなんてひどい、と言うよりは、信じてもらえなかったみたいで悲しい。

「違うよ、メリアーティス。そんなこと、思っていないよ。ぼくもつい最近まで、自分がそうだってことを本当に知らなかったんだ。父上が亡くなる前、初めて聞いたんだよ」

 ソルフォードが聖精を持つ、と最初に知ったのは、マルゴーだった。

 生まれてすぐに彼の輝く魂に気付いた魔法使いは、両親である王と王妃にその事実を告げた。

 同時に、代々王家に伝わっていた「アンゲルンの剣」を常に王子のそばにあるように、と進言する。

 王達は知らなかったのだが、この剣は大変強い魔力を持つ宝剣で、王子を狙う魔性から守ってくれるものだった。

 聖精を持つ者が生まれる時、必ずその者を守る何かがそばにあるのだが、ソルフォードの場合が「アンゲルンの剣」だったのだ。

 柄や鞘にはめこまれた守光石はその名の通り、まさに彼の光を守る石。

 さらにマルゴーは、ソルフォードが王位を継承するまでは聖精のことを、本人も含めて誰にも教えない方がいい、とも言った。

 幼い時はまだ、その魂が持つ力を発揮することもない。だが、周囲に教えることで、その存在をうとましく思う輩が現れないとも限らないだろう。

 また「自分には、元から王となる素質がある」と王子が考え、高圧的な人間に成長してしまうこともありうる。

 そうなれば魂の輝きは失われ、そのことに気付かないまま、ただの暴君と成り果てるかも知れない。

 そういった理由から、ソルフォード本人にすら聖精の存在を知らされなかった。知っていたのは王と王妃、そして存在を見出した魔法使いの三人だけ。

 自分のことでありながら何も知らないソルフォードは、普通の王子と同じように育った。

 剣の腕、学習能力、容姿や誰からも慕われる性格など、普通よりも優れた部分は多かったが、表面上はどこにでもいる王子として教育されたのだ。

 だが、急に王が病に倒れ、余命幾ばくもないとわかった時、ようやく真実が本人に告げられた。

 お前はこの国を、もしくはこの世界を治めるために生まれて来たのだ、と。

「今はまだ、そういう自覚みたいなものはないけれどね。ぼくは、ぼくだから。それに、王位を継いでもしばらくは伏せておくようにって、マルゴーから言われたんだ。元々、公にする必要はない話だからね」

 即位するとは言え、まだ十代。ソルフォードの力は、心身と同じで成長途中にあり、不安定だ。もし魔性に目を付けられれば、付け込まれる隙を与えてしまうこともある。

「今回の件は、守ってくれていた剣が手元からなくなったことで、ぼくの存在が魔性によく見えるようになったらしい。で、こんなことになったんだ。ぼくのせいで、みんなに迷惑をかけたことは謝るよ」

「そんな! 王子が悪い訳ではありません。聖精を持って生まれたのは、王子の意思ではないのです。それを王子が申し訳なく感じられる必要など、どこにもありません」

「ありがとう、セラップ」

 王子をかばおうとするセラップに、ソルフォードは静かな笑みを向けた。

「今の話で、王子の境遇はだいたいわかった。この国がおちいっている状況って奴も。で、俺達がやるのは、王子の身体をその魔性どもから取り返すことだな」

「そういうことだ。ぼくの魂は、今ここにある。だから、創魂珠に同化されることはまだない。でも、いつまでこうしていられるか、わからないんだ。再びこの剣を得られたとは言っても、持っている今のぼくは本体じゃないから。どこまで剣の結界が有効かは定かじゃない。母上や他の人達も心配だけれど、まずは自分の身体を取り戻さないと、何もできないんだ」

「何にしろ、急がなくてはならない、ということですね」

「たぶん、あたしの父様や母様もいるはずなのよ」

 キャプロックの城にはソルフォードの身体だけでなく、多くの人質を取られているようなものだ。

「母上達のお姿は確認してないけれど、あの時城にいた人はみんな影の洞窟に入れたって、女魔性が言っていた。無事……とは言えないかも知れないけれど、生きているはずだ」

「その鳥も、さっき話してたけど」

「わたくしには、王子とメリアーティスが付けてくださった、セラップという素晴らしい名前があります!」

 ラツィオがさっきから「鳥」としか言わないので、セラップが断固主張する。

「はいはい、わかったよ。そのセラップも話してたけど、その影の洞窟ってのは何だ?」

「すまない。説明不足だったね。城の地下にある、迷宮のような洞窟だよ」

 遠い昔から存在している、とてつもなく巨大な洞窟がそう呼ばれている。

 城の地下と言っても、本当に城の真下にある訳ではない。城の中庭を横切った所に、その入口がある。

 あまりに広く、どこへどう伸びているのか知る者はいない。国の何カ所かに出口があると言われているが、それすらも定かではないのだ。

 昔は「死に値する罪を犯した者が、この洞窟へ入れられた」と伝えられている。罪人を奥深くまで連れて行き、そこで放置するのだ。

 もちろん、行く時は目隠しをしているから、どちらから来たのかわからない。運がよければ外へ出られるだろうが、出た人間はまだいないと言われている。いたとしても、ごく少数だろう。

 洞窟の中には、うっすらと発光するコケが生えている。なので、完全な真っ暗ではないのだが、逆に光があることで影ができるのだ。

 そこから、この洞窟の名前が付けられた。

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