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「ねぇ志穂ちゃん。私はあなたに期待していたの」
朱美は言葉とは裏腹に、随分と楽しげにそう言った。
「自殺人であることは隠さなきゃだめよね。だってそれは、『罪』なんだから」
志穂の身体をえぐる言葉。それは罪。
志穂は喘ぐ。呼吸が浅い。どうしようどうしよう。
「でもってね。その罪を、快く楽しめる人間じゃないと、自殺人って務まらないのよね」
うふふ。朱美は笑む。
「だってね、本来は極上なものなのよ。罪の味っていうのは。とっても甘美なものなんだから」
志穂は理解を放棄していた。ただ、さいなまれていた。罪の意識に取り殺される錯覚。
「ケンジもあなたと同業よ。まさか志穂ちゃん。自殺人は自分ひとりだなんて思ってなかったでしょうけどね」
そこで朱美の声色がわざとらしく変わった。努めて低いものになった。
「でも残念だったわ。せっかく志穂ちゃんにはチャンスをあげたのに。自殺請負人じゃなく、れっきとした殺しを提供してあげたのに。まあ、最初の童貞君殺した辺りから怪しい感じはしていたけどね」
そう言って朱美は大げさに肩をすくめる。どこかちゃめっ気に。
「あとは、あと何を言えばいいのかしら。この国の腐敗についてかしらね。志穂ちゃん、調査員につかまったんだって。それなのに無罪放免。なんででしょうね。答えは簡単よ。殿堂入りした流行語なのよ、この国は。匙を投げちゃっているのよ。全ては繋がっているわけ。志穂ちゃんを追いかけていた彼の妹ちゃんもそうよ。今も監視してるんじゃないかしら。そうやって私たちは持ちつ持たれつの関係をつくっているってわけ。あなたを追いかけていた彼は、今頃ストーカー疑惑で取り調べを受けているんじゃないかしら。まあそれも、そろそろストーカー殺人になるんだけどね」
朱美と志穂は屋上にいた。朱美に連れられてきた。おあつらえ向きの廃工場だという。確かそんなことを言っていた。
朱美の後ろにはケンジがいた。冷めた目を志穂に向けている。
「朱美さん。そろそろなんじゃない」
「ああ、そうね」
そう言って、志穂の肩をとん、と押す。志穂は後ろによろけた。何度も肩をつつかれる。あっという間に、屋上の縁に来てしまった。
「ここで落ちれば全部片付くわ。でも最後に。私は優しいからね。これだけは教えてちょうだい」
縁のギリギリに志穂は立たされている。
「志穂ちゃんにとって、罪の味はどうだった?」
そう聞かれて、志穂は目を閉じた。
数々の死体。自分が積み上げた死体。でもそこに新たに築かれた、罪にまみれた死体。人を殺したという自分の身体が、志穂はひどく汚れているように見えた。今更なんなんだよ、と志穂は思う。
罪の味? そんなの考えるまでもなかった。私はその味に、耐えられそうにない。
志穂は自ら一歩を踏み出した。




