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罪の味  作者: しみじみ
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 寺門志穂は放された。調査事務所を離れる。追ってくる人はいない。


 志穂はそのまま放心状態でいた。何を考えればいいのかが分からない。でも一つだけ確かなことがあった。


 私は人を殺したんだ。


 その思いが全身を駆け巡る。私は人を殺した。志穂は激しくせき込み、何度もえずいた。吐き気に襲われる。何度もえずき、その度に巡る。私は人を殺した。


 寺門志穂が初めて覚える感覚。罪の意識。圭の言葉が張り付いてとれない。


 君は殺したんだよ。


 殺した。人を。人殺し。罪の芽は、頭の中で殺した場面が繰り返されるうちにどんどん肥大化していった。罪の芽の花は何色? 志穂は想像もしたくない。


 志穂は叫んだ。それは絶叫に近かった。そうしてしゃがみこむ。あまりの罪の重さに耐えられなかったのかもしれない。


 私は殺すのが好きだったのに。私は殺すのが好きだったのに? そこには罪がなかったから。むしろ良いことをしている気分だったから。私は死にたい人を導いていたのだから。


 また、絶叫。


「志穂」


 自分を呼ぶ声。それも一番聞きたいと思っていた声。志穂は立ち上がる。そこにはケンジがいた。


「ほら。風邪ひくよ。乗って」


 ケンジの傍らには車があった。ケンジは志穂の腕をとって助手席に座らせる。その所作の優しさに志穂は縋ろうと思った。


 車が発進する。


 ケンジはどうしてここに。そんな質問をぶつけるのが怖かった。ただ自分は安堵したい。その気持ちを優先させることにした。


「ありがとう。ケンジ」


 それだけ言った。気になることは山ほどあった。でも、それだけしか言わなかった。


 目をそらす。志穂はそうやって処世しようとした。見なかったことにする。見ないふりをするにしては、その穴はあまりに大きすぎるけれど。


「着いたよ」


 目を上げる。ケンジのアパートだった。


 車を降り、ケンジの部屋にいく。そこに自分の幸福が、救いがあるのだと志穂は思った。でもその前に。幸福感に打ちのめされるためにも、やっておかないといけないことがあると思った。まずは解毒だ。


「あのね。ケンジ。話があってね」


「うん? なあに」


 二人で階段をのぼる。ケンジの部屋は二階だから階段で充分だ。その間に話してしまおう。


「あのね、驚かないで聞いてね。実は私ね」


「うん」


 ケンジの部屋の前に来た。彼は鍵を取り出して開錠する。


「自殺人なんだよ、私。自殺請負人だったんだ。どう、ビックリしたでしょ」


 ケンジの動きが止まった。開けようとしていた扉のノブに手を掛けたままの静止。


「はぁー。マジかよ」


 次に出てきた言葉に、志穂は衝撃を受ける。その声は初めて聞くものだった。その口調は今までにないものだった。


「言っちゃうのかよ。なんだよそれ。せめて最後くらいイッパツやりたかったんだけどな。もう引き渡さなきゃじゃん」


「……ケンジ? 何を言ってるの」


 ケンジが億劫そうに扉を開けた。


 部屋は明かりがついていた。そこには一人の女がいた。


「おかえり。志穂ちゃん」


 志穂は確かに、幸福が遠ざかっていく音をきいた。救いが逃げていく音も聞いた。


 そこには朱美が立っていた。


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