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罪の味  作者: しみじみ
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 調査員の確保の拘束力は薄い。逮捕と違って拒否することが出来るし、拘留期間なども厳密に定まっていない。だからこそ無理やり調べることもできるが、裏を返せば場所を変えた職務質問と変わらないという見方もできた。一般的には怪しい人物を確保して事情聴取をし、警察に引き渡す。これらの一連の流れがある。調査員は調査が仕事。それに重きを置かれたうえの判断である。


 寺門志穂は素直に圭の言葉にしたがった。


 彼女の様子がおかしいのは連行している間に気が付いた。彼女はまったくの抵抗を示さなかったのだ。初めて会った時ははねつけるような挑戦的な表情をしていたのに、今はその面影がまったくない。まるで初めて罪の意識が芽生えたかのようにおとなしくしていた。


 これはなにかある。圭はそう確信した。


 事務所に戻り調査室へと移動する。調査室は確保した人間などの話を聞く場所だ。警察でいう取調室のようなものという位置づけになっている。


 スチール机とパイプ椅子。志穂はここでも言われるままに椅子へと座る。圭は対面に座った。姫野には戻ってきたときに事情を訊かれたが、終わったらすべて話すと言って強引に話を切り上げた。


 ここが正念場だ。圭はそう思っていた。


「あなたの名前を教えてください」


 形式的な身元確認を終わらせ、圭は唇をしめらす。さあ、何から聞けばいいのだろうか。


「あの、調査員さん」


 何から切り出すか考えていると、志穂の方から口を開いた。あの、調査員さん。


「どうして今回になって私を捕まえようと思ったの。チャンスなら他にもあったのに」


 志穂の言葉にどこか縋るものが秘められていることに圭は気づいた。彼女は何かを払拭しようとしている。


「どうしてって、君がやったのは殺人だよ」


「いやそんな、一般的な話をしたいんじゃなくてさ」


「君の場合は次元が違う。何人殺したっていうんだ」


 言いながら、自分が聞きたいのはこんなことじゃないと思う。自分も自殺は容認しているんだ。そんなことは口が裂けても言えない。でも、何か伝えなければいけないことはあるはずだ。そのためには。


 圭は数枚の写真を机の上に置く。あらかじめ用意していたものだ。五枚の写真。そこには、今回の国会で問題として取り上げられていた人たち。全員、死んでいる。


「ここに写っている人たちに見覚えがある?」


 志穂は写真を見る。その目が大きく見開かれた。同時に、何かの色が消えたことを圭は確信する。


 寺門志穂は、自殺人になれなかった。


 ただの人殺しに成り下がってしまったのだ。


「君はここの人物の中の誰を殺した?」


「…………」


「答えてくれ。僕は君を救いたい」


 ようやく本音が出た。寺門志穂を救う。それが何を指して救いとなるのかは分からない。それでも少しでも尽力したいのだ。彼女はまだやり直せる。そう思いたかった。


「君がやった殺しは自殺志願者たちを――」


「全員」


 沈黙が打った。その衝撃の強さに圭は言葉が出ない。


「全員だよ。全員私が殺した」


 志穂が圭を見る。そこから窺えた色は困惑。


「どうして。この人たち志願者でしょ。自殺志願者を殺して何が悪いの。手助けしてあげただけじゃない。志願者は死にたい。私は殺したい。一致してるじゃん。だから私は」


「志願者なんかじゃない」


「えっ?」


「ここの5人は全員、自殺志願者ではなかった」


「え、違うよなんでそんなことないっ!」


 圭の言葉を弾こうと志穂は声を荒らげる。


「だって私はそうやって頼まれたから」


「死にたがりじゃなかったんだ」


 自分の声がひどく冷たい。圭はそう思った。その感情の住処が、いったい自分の身体の中のどこにあったのだろう。


「君が殺したのは、生きようともがいた人だった。それを君は殺したんだよっ!」


 政府にとって都合の悪い人間だろうと、生きたがっていたことに違いはない。そこで圭は思った。政府にとって都合の悪い人間。


「違う。違うよ私。違う、違う違う違うっ!」


 志穂が混乱の渦の中に沈んでいく様を圭は見ている。寺門志穂は信じていたのかもしれない。自分の信念があったのかもしれない。死にたがっている人間だから殺す。そうした芯を、持っていた。しかしその芯は荒々しく歪められたのだ。本人も知らない中で。


 それを仕組んだやつがいる。


「なあ教えてくれ。君に自殺の依頼をした人物は――」


 調査室の扉が乱暴に開けられる。


「何をしている! 一般人を不当に確保して。これは懲罰だけじゃ済まさんぞっ!」


 乱暴に扉を開けるなり、入ってきた男はそう言った。


「さあ。早く一般人を放してやりなさい」


 そう言って、志穂の腕を取り立ち上がらせる。


 圭はわけが分からなかった。この男はなんなのだ。


「ちょっと待ってください」


「私は警察の人間だ。調査員の目の余る行為、どうかしてるよ君。一般人、それも女子高生を密室に入れて二人きり。これはどういうことなんだ」


「ふざけないでくださいっ!」


 今度は圭が声を荒らげる番だった。ここからだ。ここから寺門志穂の救いが始まるはずなのに。


「ほら。一般人を連れて行きなさい」


 男がそう言うと、さらに二、三人の男が入ってきて、寺門志穂を調査室の外へと出した。


「おい! どういうことだ」


「それはこっちが聞きたい」


 姫野だった。


「どうしたんだ姫野。お前も止めてくれ。自殺人の大本を辿れるチャンスが」


「それを隠れ蓑にしてたわけか」


「はっ? お前何を言って――」


「未成年へのストーカーって、お前こそなにふざけたことやってんだよっ!」


 姫野の拳を、圭はもろに受けた。


 床に倒れこみ、圭は動けない。あまりの衝撃の連続でどう対処をすればいいかが分からない。ふと、知花の言葉が頭を過ぎった。


 無駄だから。


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