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罪の味  作者: しみじみ
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 議員の不祥事はいつものことだ。政治スキャンダルはもはや日常茶飯事で、国民もすっかりその空気に慣れてしまった。はいはい、また税金泥棒ね。そんな厚顔無恥ばかりがのさばっている政権与党の自由党。しかし今回のスキャンダルは今までにないほどの衝撃を与えているという。


 テレビのワイドショーでは連日その事件を取り扱っているが、組織ぐるみの複雑な工作もあってか、なかなかその事件自体をうまく説明できている番組がなかった。でも、要約してしまえばこれに尽きる。政治とカネの問題。


「よく飽きもせずやってるよな」


 姫野がテレビを見ながら毒づく。毎度毎度の国民を舐めた態度に、国民はおろか、それを追求するはずの野党ももはや野放しにしている。そういえば公務員と並んで国会議員もなりたい職業の上位につくようになった。見るからに楽そう、というのがその理由だ。政府のお粗末さ加減は世も末なんてレベルではない、既に腐りきった泥船のような様相を呈していた。


「いつものことだよな。組織の腐敗。何年連続流行語になっているんだっけ」


「政治腐敗、というワードはもう殿堂入りしているよ」


 圭はそう言いながらも、その言葉には気持ちがこもっていない。いつもなら憤りを示すはずなのに、どこか元気がない。そのことを姫野も察しているのか、いつになく圭に話しかけるけれど、圭は気のない返事ばかりだ。


 場所は調査事務所の部屋。ここ数日は事務所が動くようなことがない。ということは、自殺が減っているということか、と安心するのは禁物だ。気づかれていない自殺が今まさに作られているかと思うと、いたたまれない気持ちになる。もちろん気づかれる死も同様だけれど。


 気づかれる死。


 圭は妹の部屋で自殺請負の現場を生で見た。それからというもの、仕事に身が入らなくなっていた。


 本当に自分は正しいことをしているのか。その思いが圭の頭の中を占領している。


 あそこまで死にたがっているんだから。


 あそこまで死にたがっているんだから? 殺してやってもいいんじゃないのか。


 圭はテレビに目を向ける。ワイドショーはいかに官房長官が稚拙な言い訳で逃げているのかを得意げに解説していた。


 こんな国なら死にたくなってもおかしくない。 


 ふと、そんな考えが頭を過ぎる。実際、寺門志穂に近づいていないのは、自分の中でそういう思いがあるからかもしれない。


 でもなにも、死ななくてもいいのではないか。自殺人を容認しようとする気持ちとおなじぐらい、圭は死を否定しようとしていた。していたけれど、死の圧倒的な力に、ほとんど押し負けてしまいそうになっていた。


 死の力は絶対だ。なにもかもを無かったことに出来るのだから。


 自殺を請け負う。そのことに圭は引っかかっていた。これが殺人なら、自分は真っ先に動くだろうに。


「圭。そういえば知ってるか」


 気のない返事ばかりの相棒に苛立ちを込めながら、姫野がぶつけてくる。


「自殺処理案件の噂」


「自殺処理案件?」


 圭の目に力が入る。それを姫野は見逃さない。


「なんでも無理やり自殺に見せかけている案件がいくつか出回っているらしい。今回、やたらと議員連中が死んでるだろ?」


 そう言われて思い出す。連日の報道で、政治とカネを巡るキーマンとなっていた人物や、裏で工作をさせられていたという人物。疑いをかけられている議員の秘書。それらの人々が相次いで死亡しているのだ。報道の過熱が死へと追い込んだのだとマスコミを非難するネットの声もあったと聞く。


「それが関係しているのか」


「ああ。香澄が言ってた。なんでも相談センターに殺される前に電話をかけてきた秘書がいたらしい。狂ったように命乞いをしていたという話だ」


 秘書が相談センターに電話。それだけでもどこか違和感があるというのに、その秘書が死んでいるとなると。


 寺門志穂。彼女の名前が浮かぶ。しかし彼女は自殺人だ。自殺を志願している者にしか死を与えないのではないのか。


 現代の自殺は利用される死となっている。


 ふいに、妹の声がよみがえる。確か知花はこうも言っていた。


 でもそれはもう、自殺者だけの問題じゃなくなっている。


 これらの言葉が伝えようとしていること。


 圭は立ち上がると、姫野の声を無視して部屋を飛び出した。


 移動しながら携帯を取り出す。かける相手は決まっていた。相手はすぐに出てくれた。


「知花がやっているのは自殺の監視なんだよな」


『なんなの急に』


「いいから答えてくれ」


『……だったらどうするの』


「次に起こる場所を教えてくれ」


『だからそんなことをしたって』


「止められないって分かってるのか」


『…………』


 知花は答えない。何かを言おうとして堪えているようにも感じた。


『今まさに起こってる』


「どこで」


『もう手遅れかもしれないよ』


 そう言って知花はマンションの名前と部屋番号。それから携帯電話の番号を教えてくれた。


 それが何を意味するのか、もはや聞く必要もない。圭はそう思って礼を言うとすぐに電話を切り、教えられた番号に電話する。


 どれだけ待っても応答はなく、留守番電話に切り替わってしまう。


 これが今殺されかけている人間の番号だったとして、今から行って間に合うのか。考えている暇はなかった。 


 タクシーに乗り込む。なるべく飛ばすように言って目的地を告げた。運転手は何かを悟ったのか、裏道を使ってくれ、夜の時間帯も相まってか、圭が予想していたよりかなり早く目的の場所に着いた。


 マンションの手前でタクシーを降りる。


 寺門志穂に会いませんように。現行犯で、その犯行の手前で捕まえられますように。そう願ってエントランスに入ろうとしたとき。


「とまれ。寺門志穂」


 ほとんど反射的にそう言っていた。見つけたから。見つけてしまったから。


 寺門志穂。制服姿のままマンションを出てきたということは、もう殺しは終わったということか。


 彼女を見る。どこかうつろな表情。そのことが気にかかりながらも、圭は志穂に言った。


「お前を確保する」


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