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罪の味  作者: しみじみ
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 泉拓が死んだらしい。それも自殺だって。しかも自殺人に頼んだらしいよ。そんな言葉が教室中に飛び交い、葬式には参列しようとクラスメイト達が団結している。泉拓が自殺保険に入っていたかを確認出来ていないので、きちんと葬式には悲しみをまとって参列すること。生徒たちは確認しあう。


 そんな光景を傍で見ながら、志穂は別のことを考えていた。朱美にはなんて話そうか。


 殺し自体はうまくいった。でもその内訳はひどいものだった。冷静に受け止めてみて、拓が志穂のことを想っていたかなんて、そんなの火を見るより明らかだった。身体めあて。その結論にしか行き着かない。


 結論は揺るがないけれど疑問が残っている。志穂が耳にした言葉。はっきりとは覚えていないけれど、拓は言っていた。メールがどうした、とか。そして志穂のことを処女のように扱っていたともとれる言葉も言っていた。それが志穂には腑に落ちない。メールなんぞ送っていないし、処女なわけがない。きちんとケンジと済ませている。


 だったら何なのだ。泉拓の勘違いか自分の勘違い。でも私は確かにその言葉を聞いた。それなら泉拓があれだけ興奮していたのも頷ける。じゃあ誰かが細工をしたということだ。でも誰が?


 自然と志穂が自殺人であることを知っている人間ということになる。でもそうなると答えが一つしか出せない。


 朱美。彼女がわざわざ泉拓にメールをして、拓をその気にさせて志穂に殺させた? でもなんのために。


 訊ねてみてもいいだろうか、朱美に。今日会うわけだし。志穂はそんなことを考えながら、亡くなった泉拓に寄せ書きの色紙を送るのはどうだろうかと本気で検討しあうクラスメイトを眺めていた。


 始業のチャイムが鳴るかというところで、志穂は席を離れる。なんだか急に普通に授業を受けているのがバカらしく思えてきた。私は人殺しを生業にしているのよ。そんな傲慢な気持ちが浮かぶ。普段はそれを意識して普通の生徒でいようとしていたけれど、なんだか急にアホらしくなってきた。いいや、サボっちゃえ。


 志穂の行く場所は決まっていた。というか、他に行く当てはない。


 屋上に通じる扉を開ける。今日は貸し切りみたいだ。


 寒空は澄んでいて雲一つない。単純な色彩のその空の色に、志穂は目を奪われた。空ってこんなにいいものだったっけ。


 しばらく見上げていた。制服にはちょっとキツイ寒さだと思ったけれど慣れればなんてことはない。まだ冬が始まるには早い時期だ。


 始業のチャイムが鳴った。


「物思いにふけているの。なんだか大人だね」


 後ろから声がする。声だけでその主が誰かは分かる。志穂は振り返らないで言った。


「それって大人なの」


「子どもはやらないでしょ」


「現代っ子は違うかもよ」


 東川浩太が隣に並ぶ。彼はフェンスに手を触れる。


「泉拓が死んだね」


 浩太は天気の話でもするような気軽さで言った。


「君の仕業?」


「さあ。どうだろう」


 志穂は言う。


「だったらどうする?」


「いや、どうもしない」


「本当にどうもしないんだろうね。君の場合は」


「でも羨ましいとは思うかな」


 浩太は言う。いつも淡泊な彼には珍しく、声に色を読み取れる。


「羨ましいって誰が。泉拓?」


「そうだね。噂通りなら羨ましいよ。自殺人に頼むなんてね。素直にすごいと思う」


「そうかな」


 志穂は努めておどけるように言った。


「だって、頼むだけなんでしょ。それだけなら誰でも出来るじゃん」


「いや。そうでもない。いくつもの掲示板を回って嘘か真実か見抜いて、それでも何度かは騙さ

れて。そうしてようやく見つけることが出来るんだ」


 珍しく熱がこもっている。そう思った。


「それでうまく見つけられたとしても、自分に確認しなくちゃいけない。ちゃんと自分は死にたいのか。それも、誰かに殺されたかのように見られる死を望むのかって。その時の自分は随分と惨めなものだよ。誰にも相談出来ず止められることもなく、ただ自死の道を進むだけだからね」


 浩太はそこで自嘲気味に笑った。こんな僕を笑ってよ。そう言っているようにも見えた。


「まるで見てきたように言うんだね」


「そうだね。だって見てきたから」


 志穂は意外に思った。へえ、彼も自殺志願者なのか。そして同時に思う。死ぬのって、そんなに大それたことなんだっけ?


 志穂は自分の中の価値観が揺るぎだしていることに、なんとなく気づいていたけれど、それは

見ないふりをすることにした。


 私は、どこか間違えた? その問いに答える者はいない。


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