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罪の味  作者: しみじみ
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 泉拓は予定通り志穂に気を取られるようになった。学校での透明人間扱いは今も続いているけれど、本人には以前の顔色の悪さは窺えない。無論、志穂との距離が縮まったからだ。少なくとも志穂はそう思っている。


 ゲームセンターでの出会いに加え、映画館や図書館など、その後も拓の周辺に志穂は出没した。その度に偶然を強調したけれど、さすがに重なりすぎる偶然に拓も思うところがあったのか、この頃は好奇心を隠そうともしない。どころかどんどん志穂にのめりこんでいるように見える。そういえば、着ている服装もなんだか大人っぽいものになったし、歩く姿もどこか自信をつけているようだ。泉拓と志穂は特別に約束を結んだりはしていない。あくまで偶然の出会いに固執している。それが拓を増長させる一番の手法だと志穂は思っていた。そしてその通りに拓は動く。これほど計画通りにいくなんて。志穂は喜んだ。これでまた一歩、計画に近づく。


 本当はゲームセンターでの一件で、拓との距離を物理的に縮めようと思っていたけれど、もう少し慎重になることにした。朱美の言葉を受け、失敗は許せないと強く思うようになったからだった。だからその後も、志穂は拓の周りに現れてお話をする、というのを続け、今日こそは近寄ろうと決めた。


 その前に確認したいことがあった。志穂は昼休みが始まるやいなや、屋上へと向かう。教室を出るときに拓がこちらを確認したことを、志穂はもちろん把握済み。


 たまには先回りをしてみたい。そう思って購買にも寄らずに屋上に出てみたけれど、東川浩太は既にそこにいた。購買で買ったと思われるパンと牛乳を携えて、フェンスに寄りかかり座っている。


「待ってたよ」


「いつからいたの」


「ずっとだよ。僕はここから離れない」


 何を言う。一緒に授業を受けていたではないか。そうは思ったけれど、わざわざ口にするのも無粋だと感じ、志穂は黙ることにした。


「それで。泉拓とはどう? うまくやってるの」


 先に泉拓の名前を出されることに、朱美のような先読みを想像してしまったけれど、この場合は違う。これは自然な流れだ。だって浩太は、知っていて聞いてくるのだから。別格なのは朱美だけ。志穂はそんなことを思った。


「うまくいってるよ。うまく行き過ぎて自分でもびっくりしてる」


「彼には元気が出てきたね」


「やっぱりそう思う?」


「思うも何も、寺門さんが仕組んでいるんだろ」


 仕組んでいるんだろう。ここで、元気づけているんだろ、とでも言われたら落胆してしまうところだけれど、やはり浩太は違う。志穂が何かをするための準備として拓に近づいていることをきちんと分かっている。しかしその内容までは想像できないのだろう。浩太は素直に訊いてきた。


「泉拓の何が狙いなの」


「うーん、狙いか。そう言われるとな。気障な言い方するなら、ハートかな」


「ふうん。随分とまあ」


 浩太はおそらく、拓を殺そうと思っていると言っても、今と同じように顔色一つ変えないのだろう。現代っ子は死をもファッションだ。消費するものなのだ。確かそんな話をどこかの雑誌で読んだ。そうか、私たちは現代っ子なのだなと志穂は感心する。


「泉拓に何があっても驚かない?」


「驚くよ。内容によっては」


「なんだったら驚くの」


「そうだな」


 数秒の間を空けて、浩太は言う。


「生き返ってきたら驚くかな」


「なにそれ」


「脱透明人間が出来たらってこと」


「ああ。そういうこと」


 志穂は微かに驚いた。浩太が思うのと正反対のことをしようとしているからだ。なんなら打ち明けてしまおうか。そんな気持ちにもなったけれど、朱美の顔がちらついた。志穂は頷くに留めた。


「もっとビックリするかもよ」


「それは期待して観察しないとだ」


 もう観察も出来なくなるけどね。そんな言葉を胸に留めて、志穂は屋上を出ていく。校舎に通じる扉を開けて、振り返る。浩太はこっちを見ていた。


「くれぐれも」


 距離があるので、浩太の声がうまく聞き取れない。


 風が吹く。志穂はそれを感じて季節が動いていることに気づく。あれ、こんなに寒かったんだっけ。


「くれぐれも、気を付けて」


 今度は声が聞こえた。気を付けてっていったい何に?


 志穂は返事をせずに中へと入った。


 昼食を摂るために購買に寄ってから教室へと戻った。教室の中でいくつも作られている集団。顔を合わせることなく交わされる会話。どっと笑いが起こるグループ。誰もかれも、その人の顔を見てはいない。みんながみんな、携帯の液晶に目がいっている。


 志穂は思う。今ここで泉拓を殺しても、犯人が自分だと気づかれないのではないか。みんな、見ている世界がそれぞれ異なっているのだから、そんなに人目を気にする必要はないのかもしれない。そんな想像を巡らせる。


 視線を感じてそちらを見ると、泉拓だった。


 志穂は見つめ返す。これから殺すことになる男子生徒に、志穂は微笑を浮かべてみせる。笑みは自然と生まれた。これからの楽しみを想像したからだった。


 拓は小さく手を振ってくれた。ハートをもらうなんて簡単ね。志穂はそう思った。


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