波に揺られて3
漁港
「竹ちゃん、これ、そっちにやってくれや。」
タンクトップにねじり鉢巻、肌は茶色く焼けた大男は、重そうな木箱をその場にいた別の大男に受け渡した。
「おうよ。」
大男が渡された木箱を運ぼうとすると、遠くの方に手を振っている人が見えた。
「ん?あっ、ヒロさん!あれ、莉子ちゃんじゃないのか?」
古川を先頭に匠たちが歩いている。
「ったく、ようやく来たか。」
「おーい、おじさーん!来たよー。」
「元気そうだね、莉子ちゃん。」
黒いタンクトップの大男は、額に汗を滲ませながら言った。
「竹さんもね。」
そう言うと、古川はその大男と握手を交わした。
「莉子、遅いじゃないか。もう、14時だぞ。」
「ごめん、おじさん。実は電車に乗り遅れちゃって。一本乗り過ごしたら、数十分は待たないとだからね。」
「そうだったのか。まぁ、いい。それで、その人達が?」
古川の伯父は、古川の後ろにいる匠達を覗き込むように見た。
「うん、そだよ。紹介するね。左から進藤匠、篠崎琴音、二人とも同じクラスで琴音は部活も一緒なんだよ。」
古川の伯父はパッとしない顔をしている。
「……俺は!?」
場が少し沈黙した後、鈴木は人差し指で自分を指差し、驚いた顔をした。
「あ、鈴木いたの?」
「てんめぇ、お前が連れてきたんだろうが。」
鈴木は指を差しながら古川に詰め寄った。
「あーら、そうだったっけ?まぁ、紹介してあげてもいいわ。」
「かぁー!本当に腹立たしい奴だぜ、お前は。」
鈴木と古川はバチバチに睨み合っている。
「わっはっはっは!」
古川の伯父は大きな口を開けて笑った。
「莉子!喧嘩するほど仲が良い友人ができてよかったじゃないか!昔もよく喧嘩していたけどな……」
「伯父さん!その話はしないでよ。」
古川は焦るように伯父を止めた。
「そうだな、その話はまた今度にしよう。取り敢えず、来てくれてありがとう。歓迎するよ。明日の朝から手伝ってもらうから、私の家に行こうか。」
匠たちは古川の伯父の家へと向かった。
「わっはっはっは!いやー、進藤君に鈴木君、君たちは話がわかる男だな!是非、漁師になろう!さぁ、飲め飲め!」
古川の伯父は匠と鈴木のコップにお茶を注ぐ。
「ありがとうございます。ところで伯父さん、俺たちがこっち着いた時に漁港で言うとしてたことって何ですか?」
匠はお茶が注がれたコップをテーブルに置いた。
「ん?何のことだ?」
古川の伯父は顔が紅潮していて、殆ど泥酔状態だった。
「古川が昔もよく喧嘩してたって」
「あぁー、そのことか。」
古川の伯父は飲んでいた缶ビールをテーブルに置くと、落ち着いた表情で話し始めた。
「あれは、莉子が小学4年生くらいの時だったっけなー。」
「何やってるの!?」
眼鏡を掛けた女性教師が血相を変えてドアを開け、教室に入ってきた。どうやら、生徒が教師を呼んだようだ。
「あんた、絶対に許さない!」
小学4年生の古川は、男子生徒の上に馬乗りになっている。その目は常人の目をしていなかった。憎しみを帯びた獣のような目だった。下になっている男子生徒の顔は腫れ上がっていた。
「古川さん!やめなさい!何やってるの!?」
女性教師は古川を男子生徒から引き離すと、古川の頬を平手打ちした。
「あっ……」
古川は我に帰ると放心状態になった。場は騒然として、泣いている女子生徒もいた。
『俺はすぐに学校に呼び出されたんだ。最初は何があったのかも分からなかった。幸い、昼は海に出てなかったからすぐに学校に行ったんだ。』
「何があったんですか!?」
古川の伯父は小学校の相談室のドアを勢いよく開けた。
「古川さんの伯父様ですか?」
女性教師はソファから立ち上がり、尋ねた。
「はい!莉子が他の生徒に暴力を振るったって言うのは本当なんですか!?」
「え、えぇ。暴力を振るったのは事実です。ただ、事情を聞いても何も話してくれなくて。」
女性教師はソファで俯いている古川の方を見た。
「……」
伯父は無言のまま古川に近づき、しゃがんで目線を合わせた。
「莉子!」
「ごめんなさい……」
古川はこっぴどく怒られると思い、顔を合わせられなかった。
「こっちを見なさい!」
伯父は少し語気を強めて言った。
古川が恐る恐る顔を上げると、伯父は強く抱きしめた。
「ばかもんが!お前は気も強いし少々喧嘩っ早いけどな、何の理由もなく人を殴るようなことをする子じゃないことくらい知ってる!でもな、どんな理由があっても暴力はだめなんだ。暴力を振るったら負けなんだ。わかるな?」
古川は伯父の胸の中で大粒の涙を流した。数分経って古川が泣き疲れると、伯父は事情を聞いた。




