波に揺られて4
小学4年生の古川が男子生徒に暴力を振るったのは、許せいない事があったからだった。
騒然とした空気の中泣いていたのは、イギリスから親の仕事の関係で移住してきた『エマ』という女の子だった。彼女はイギリスから引っ越して来てからまだ日が浅かった。日本語も殆ど分からない状態で何とか学校に馴染もうと努力していた。そんなエマを見て古川は優しく接していた。古川にはエマの気持ちがよく分かったのだ。
小学4年生の古川が伯父と暮らしているのは、両親が所謂転勤族だったからだ。古川の通うこの小学校は、古川にとって二つ目の学校だった。転校して1年も経たないうちにまた違う学校に転校することになった時、古川はそれを強く拒んだ。
親は仕方ないと言った。しかし、転校を繰り返す事がまだ幼かった古川にどれだけの負担を強いていたのか、それは古川本人にしか分からなかった。
だから、古川は我も忘れて怒り狂ったのだ。日本に転校して来て間もないエマを虐めたのだから。
「莉子、お前が怒った理由聞かせてもらえないか?」
伯父は泣き疲れた古川の頭を撫でると、古川は無言で頷き、話し始めた。
「エマちゃんは悪くないんだよ。日本語が上手じゃないのは当たり前なのに、そんなことを理由に意地悪をされたの。だから、許せなくて……」
古川は俯き、どこか後ろめたい顔をしている。
「そうか、莉子も転校して来たもんな。エマちゃんの気持ちが痛いくらい分かるんだよな?」
「……」
古川は無言で頷く。
「偉いぞ、莉子!本当にいい子に育った!」
伯父は再び古川を抱きしめた。
「えっ……?」
古川は伯父の予想外の行動に呆然としている。
「お前ならもう分かってるはずだ。いけないことをしたらちゃんと謝る。暴力を振るった男の子に謝りに行こうか。」
「うん!」
古川は微笑んだ。
古川と伯父は、女性教師に連れられて男子生徒のいる部屋に行った。
部屋に入ると、男子生徒の母親がいきなり大声で怒鳴って来た。
「あなたなの!?うちの子に暴力を振るったのは!?謝りなさいよ!!」
相当お怒りのようだ。男子生徒は隣で震えている。
「あのですね、元はと言えば、」
伯父が言い返そうとすると、
「うちの子が悪いっていうの!?女の子なのにこんな暴力的に育てて、あなた一体どんな教育をしているのかしら!?」
その瞬間、何かが弾けた。
「伯父さんの!」
「莉子の!」
伯父と莉子の怒りが重なった時、机を叩きつける音が響いた。
バンッ!!!
見ると、女性教師は俯き両手を長机に叩きつけていた。
「どんな教育を……ですか?失礼ですが、それはこちらの台詞です。お母さん、先程からケイタ君が震えているのにお気付きですか?」
男子生徒は、膝に両手を乗せ震えていた。
「それはその子にまた暴力を振るわれるかもしれないって思っているからでしょ?」
「違いますよ。あなたがそんな高圧的な態度を取っているからですよ。子供はあなたの傀儡じゃない!恐怖で子供を支配しようとしないでください!家で圧迫されていた鬱憤が、今回のような形で発散されたのではないのですか?」
男子生徒は母親を見て震えていた。
「ケイタ?そうなの?私が悪かったの?」
母親は少し放心状態になりながら男子生徒に尋ねた。
「ごめん、お母さん。僕はお母さんが怖くて、いつも我慢してたんだ。古川さんが僕に暴力を振るったのは、僕が女の子を虐めてたからなんだよ。だから、僕が、僕が悪いんだ……」
母親は泣き出した。




