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本当の思い

第25回学生科学研究発表会は、予想通り才門高校の金賞で幕を閉じた。


琴音が演奏ホールに戻ると、これから結果が発表されようとしていた。

「あっ、琴音、こっちこっち。今から、結果発表だよ。5位までに入れば東日本大会に出れる。先輩たちは3位以内には入りたいようだけどね。」

古川は上級生の方に顔を向ける。その言葉には皮肉が混ざっているようにも聞こえた。


それでは、順位の発表をします。一位、私立雪風(ゆきかぜ)高校、二位、都立華川原(はながわら)高校………

審査員によって、淡々と発表されていく。

五位、県立滝嶋高校

「やったね、琴音!」古川は琴音に抱きつく。

呼ばれなかった高校は次々と落胆していく。この演奏会で引退なのか、泣いている学生もいた。


「みんなお疲れ様ー。なんとか、東日本大会に繋ぐことができたねー。よかった。」部長は安堵の表情を浮かべた。

「ちょっと待って。良かった、じゃないわよ。三位以内だったら東日本大会でも加点があったのに。あの一年の所為(せい)で」

上級生は琴音の方を指差し、他の学生も琴音の方を見る。

「待って下さい。琴音の病気のことは知ってますよね?途中から持ち直したこと、先輩たちも気付いているはずです!よく持ち直したって言うべきじゃないんですか?」古川は琴音の前に立って庇った。

「えぇ、そうね。でも、それだったら大会終わるまで少し控えたら?私たち3年生はこの大会で最後なの。あなたが耳が聞こえづらいとか、そんなの」

「やめて!関東大会には行けるの。それでいいじゃない。どうして、そんなことを言うの?篠崎さんは一生懸命頑張った。普通の人なら自分のハンデと闘わないで、言い訳して逃げると思う。でも、篠崎さんはそれでも吹奏楽が好きだから頑張ってるじゃない。それを奪う権利は私たちにないわ。」

いつもおっとりとしている吹奏楽部の部長が、強い口調で同じ3年生の部員に言ったのだ。その姿にみな驚いている。


智美(ともみ)でも……」

「でもじゃないよ。篠崎さんの腕は確かだよ。みんなだって吹奏楽をやってるんだから分かるはず。だから、」

「部長!ありがとうございます……実は最近、耳の調子が良くなくて、なのでお休みを頂きたいと思っていたんです。」

「篠崎さん、あなたが遠慮する必要なんて」

「遠慮なんかじゃありません。本当に耳の調子が良くなくて、なので大丈夫です!それでは、私はお先に失礼します。」

琴音は楽器カバンを持つと、その場から逃げるように帰った。

「琴音!」

「古川さん」

部長は琴音を追おうとした古川を止め、首を振った。

「今は一人にしてあげて下さい。大丈夫です。篠崎さんはこの部に必要な存在ですから。」

「部長……」


帰宅する電車の中で匠は物思いにふけていた。

「どうしたんだよ、匠、そんな顔して。そんな考えてるよう顔お前らしくないぞ、馬鹿なんだから。」鈴木は心配そうに訊く。

「お前にだけは言われたくない。」

「金賞取れなかったのがそんなに不服か?」

「当麻先輩まで、そんなじゃありません。ただ……」

「ただ、なんだ?」

「ちー先輩は、やっぱり転校しちゃうんですよね。」


千里はコンクールが終わると、病院に行くと言って先に帰ったのだった。


「まぁ、そうだな……」

「……」

「匠、これはお前のせいではない。お前は今日までよく頑張った。でも、千里の家の問題は私たちの力では解決できない。最初から私たちにできることは、このコンクールで最高の思い出をあいつにプレゼントしてやることだけだったんだよ。金賞は届かなかったが、審査員特別賞を貰うことができた。十分じゃないのか?」

「……」

「納得出来ていないようだな。なら、お前の思いを千里に伝えてこい。千里には言うなと言われていたが……」

そう言って、荒川は千里の叔母が入院している病院の住所と部屋番号が書かれたメモ用紙を差し出した。

「揚羽先輩……ありがとうございます。」

匠は荒川の差し出したメモ用紙を受け取る。


病院の一室に夕日が差し込んだ。

「菊さん、ありがと。最高の思い出ができたよ。もう思い残すことはないよ。」

「そうかい。よかったね。」

「うん」

「……」若干の沈黙が流れた。

「あ、菊さん、りんご食べる?剥くよ。」

その時、廊下を走るような音が聞こえた。その音は次第に大きくなり部屋の近くまで来ると、勢いよくドアが開いた。


「ちー先輩!」


匠は息を切らしながら病室に入ってきた。

「おい、匠。ここは病院だぞ。(わきま)えろ。」

「あらあら。元気な子ね。千里ちゃんのお友達かしら?」

「違うよ。部活の後輩だよ。」

「そうなの。」

「それで、貴様は遥々何の用だ?病院を教えた覚えはないが、知っていると言うことは揚羽のやつだな。」

「ええ、まぁ。ここに来たのは思いの丈を全部ぶつけようと思ったからです。」

「迷惑な話だ。」

「千里ちゃん、そんなこと言わないで。折角来てくれたんだから、話て来なさいな。」

菊子は優しい笑顔を千里に向け、匠と話すよう促した。

「匠、屋上に行くぞ。」千里はため息した後、匠を屋上へと連れて行った。





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