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千里の過去3

夕日が差し込む病室に千里の姿があった。

「菊さん、具合はどう?」

千里は病院のベッドに横たわる叔母を心配している。

家庭崩壊した千里を引き取った叔母の高江菊子(たかえきくこ)である。千里を引き取り、夫の陽一(よういち)と暮らしている。

「ちさちゃんは優しいね。ごめんね、お仕事休まないといけなくなっちゃった」

「仕事なんていいよ。私のためにごめん」

「元はと言えば、あの子のせいなんだ。謝らないといけないのは私の方だよ。妹なのにどうしてあげることもできなかった。私は姉として失格だよ」

叔母は憎しみと悲しみが混ざったような顔をしていた。

「あの人のことはいいよ。菊さんも陽さんも私のために一生懸命になってくれた。だから、私は菊さんたちにこれ以上我儘(わがまま)は言えないよ。私をあの檻から出してくれたんだから」


昔は優しい母だった。

「千里、ご飯できたわよ」

『母の料理が大好きだった。母が作る料理なら全部が美味しかった。小学校低学年の私は教科書を閉じ、嬉しそうに一階に降りて行った。大好きな母と大好きな父に囲まれて私は幸せだった。あの出来事がなければ…』


『突然、私の日常は壊された。父は仕事が休みだったのでその日は外食する予定だった。私は学校が終わると急いで家路に着いた。』

「ただいまー」

『いつもなら誰かいれば玄関まで迎えにきてくれていたのだが、その日に限っては返事すらなかった。私は、父は寝ているのかと思っていた。しかし、現実はそんな生易しいものではなかった。玄関のドアは開いているのに家の中は真っ暗だった。』

「お父さん?」

『私は不審に思いながらリビングに入るドアを開けた。真っ暗な部屋にカーテンの隙間から夕日が少しだけ差し込んでいる。目の前には黒いシルエットがぶら下がっていた。私はすぐにそれが何か察してしまった。身体が動かなかった。頭で理解してても、身体が付いていかない。声も出なかった。』

「た、助けをよばなきゃ…」

『私は暗い部屋で電気も点けずに電話を探した。何かに足をぶつけても痛くなかった。必死に電話を探し出し、警察に助けを求めた。』

『それからどれだけ経っただろう。おそらく、10分程度だったはずである。私には数十分、いや数時間にも思えた。パトカーのサイレンが聞こえると、私は玄関に向かっていた。すぐにインターホンがなり、私は玄関の扉を開けた。』

「君か!?110番したのは?」

若い男性警察官が驚いたように言う。

「……」

千里は何も言わずに頷くだけだった。

『その後、警察による現場検証が始まり、私も事情を聞かれた。共働きの母が仕事から帰ってきたのは、警察の現場検証が行われている時だった。』

「あなた!」

母は血相を変えてリビングに入ってきた。それと同時に父の遺体が運び出されようとしている。母は父を確認すると、その場に座り込んで泣きじゃくった。

『警察によると首を吊った父の下に、ワープロで書かれた遺書が置いてあったと言う。自殺の可能性を視野に入れて捜査するらしい。しかし、私には自殺じゃないことがすぐに分かった。機械音痴の父がわざわざワープロなんて使って遺書を書くとは思えなかったからだ。そもそも、自殺する理由なんてない。私たちは幸せだったんだから…』


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