千里の過去2
千里は腕を組み、科学室のドアにもたれかかっている。
「千里!」
「当麻、お前はそんなにおしゃべりだったか?余計なこと吹き込みおって」
千里は呆れたような顔で近づいて来る。
「勝手に話してしまったことは謝る。匠があまりにも真剣な表情だったからな」
「まぁ、よいわ。話してしまったのなら仕方ない。匠、満足したか?」
「満足って、俺は…」
「貴様にできることなどない。これは仕方のないことなんだ。もう決まったことだから…」
千里は憂いに満ちた顔で俯いた。
「もう決まった?なんの話だ?」
荒川は千里に訊く。
「そうだった。それを言おうと戻って来たんだったな。実はな、私…」
『そうだ、ちー先輩はこの後…この後…転校してしまったんだ…』
「私な転校することになったんだ。急ですまんな」
心配させないようにするためなのか、千里は辛い気持ちを抑えて笑顔を作っていた。
「そんな…」
当麻と荒川は信じられない様子だ。
「おい、千里、どうして今まで黙ってた?さっき決まった話ってわけでもないんだろ!?」
当麻は強い口調で突っかかる。
「まぁ、そうだな!」
千里は明るく答えた。
「そうだな、じゃないだろ!俺たちずっと一緒だったじゃねーか。どうして、そんな大事なこと言ってくれなかったんだよ!?」
「おい、当麻、熱くなりすぎだ。少し落ち着け」
荒川は当麻に冷静になるように言う。
「じゃあ、貴様に何ができるんだ?金をくれるのか?家庭を修復してくれるのか?幸せだったあの時間を返してくれるのか!?もう、戻らないんだ……」
誰も何も言えなかった。
「今日の部活は無しだっと言ったはずだ。私は先に帰る」
千里は科学室を出て行った。
匠が昇降口で靴を履き替えていると、凛がやって来た。
「あら、下校かしら?」
「凛か…」
「私で悪かった?」
「いや、そうじゃないんだ。寧ろ、お前で良かったよ」
靴を履き替えながら話す匠からは、陰鬱なオーラが漂っていた。
「何かあったのかしら?」
「まぁな。部活の先輩のことさ」
「近衛千里のことかしら?」
「そっか。俺の記憶だもんな」
匠は一瞬驚いた表情をするが、すぐに合点がいった。
「そうね。この後、どうなるのかも知っている」
「転校だろ?」
「ええ」
「俺も覚えているよ。ちー先輩は直前まで言ってくれなかった。結局、誰も止めることができずに転校して行ってしまった。後悔してるんだ。何かできなかったのかって…」
「できない、と言ったはずよ」
「そうかもな。でも、やってみなきゃ分からない。この世界での出来事だっていい。後悔したまま次に進むなんて、また俺は苦しむことになるんだ。凛、お前がなんて言おうと、俺はちー先輩を止めるよ。無理だと分かっていても」
「結果は変わらない」
「結果じゃない!凛、お前には分からないのか?頑張った結果として失うのと、何もしないで失うのが本当に同じだと言うのか?」
匠は凛の両肩を掴んで、問いかける。
「…い」
「ん?」
「近い!」
匠はビンタを食らった。
「いってーな。何すんだ」
赤くなった頬をさすりながら言う。
「変わった人ね。帰りましょう」
凛はそう言うと先に歩き出した。
「あ、待てよ」
匠も後を追う。




