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千里の過去

千里は一人、科学室で寝ていた。


「あなたなんて生まれてこなければ良かったのよ!」

心無い言葉が千里に突き刺さる。小さな部屋に千里はいた。目の前には煙草を吸いながら椅子に座る男と千里に怒りの眼差しを向けている女がいる。


眠る千里の目から涙が溢れた。

「ちー先輩?」

千里は目を開ける。

「なんだ、貴様か」

「すいません、俺で。それより、どうしたんですか?」

「何がだ?」

「ちー先輩、寝ながら泣いてましたよ」

「えっ?」

千里は目の辺りを手で拭う。千里の手は涙で少し濡れた。

「ねっ?」

「なっ!泣いてなんかない…ちょっと昔のこと思い出しただけだ」

「昔のこと?」

「うん。だが、貴様には関係のないことだ」

「何があったんですか?」

「言わん。今日の部活は休みだ。他の連中にも言っておいてくれ」

千里はそう言い残し去って行った。

千里が科学室から出るとすぐに当麻と荒川とすれ違った。

「あっ、おい、どこ行くんだ?」

「今日の部活はなしだ」

当麻の問いにそっけなく答えると、千里は階段の方へ行ってしまった。

「なんだあいつ?」

当麻と荒川は科学室に入る。

「匠、居たのか。今日の千里は様子がおかしいように見えたが何かあったのか?」

荒川は匠に問いかける。

「ちー先輩、泣いてました。昔のことを思い出したって…揚羽先輩何か知りませんか?」

「昔のこと…そうか。匠、あいつのことはそっとしておいてやれ」

「何か知っているんですね?教えて下さい」

「それを知ってもどうにもならない」

「そうかもしれない。でも、心配なんです。いつも明るいちー先輩のあんな表情、初めて見ました。気になります。何もできないかも知れないけど、先輩の過去に何があったのか知りたい!だめですか?」

匠は真剣な眼差しを荒川に向けた。

「どうする?」

荒川は当麻に意見を求める。

「話してやれ。匠の目を見れば、単なる興味本位だけで訊いてるようには見えない。匠なりに考えがあるんだろう」

「わかった。匠、あいつの頭脳でなんでこの高校に居ると思う?あいつならトップレベルの進学校は余裕で狙えたはずだ。いや、狙えたんじゃない、本当なら行けてたんだ…」

「本当なら…?」


「そう。あいつは昔から勉強のできるやつだった。小学校の時から私たち3人は一緒だった。馬鹿やって怒られたこともあったよ。あいつは自分を曲げないやつでな、自分が間違ってないって思ったら先生相手でも立ち向かうようなやつだったんだよ。そのおかげで先生たちからは厄介視されていた。でも、テストでは毎回満点近く取るもんだから、先生たちは強くは言えなくてな、私や当麻は負けじとテストが近くなると勉強したもんだよ。それでも、千里には勝てなかったがな。小学校を卒業すると、私たちは同じ中学に進んだ。そこでもあいつは常に学年のトップだった。あいつの成績なら推薦でどこにでも行けたんだが、やつはそうしなかった」

「どうしてですか?」

「家庭崩壊だよ」

当麻が代わりに答えた。

「えっ…?」

「信じられないか?」

「そんな記憶…」

「記憶?」

「いや、なんでもないです。じゃあ、今ちー先輩は」

「叔母の家から通ってる。あいつは叔母さんに迷惑をかけまいと、お金のかかる私立より家から近いこの高校を選んだのさ」

「さっき、ちー先輩が昔のことを思い出したって」

「それくらいにしておけ」

科学室のドアには千里が立って居た。


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