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 平穏を破ったのは、アクマが神社にきて三ヶ月ほど経ったある午後のことだった。


「おいマコト!」


 社務所で内職していると、セキが血相を変えてやってきた。


「セキ、どうしたの?」

「どうもこうもあるか!? 外見てみろ!」


 セキに急かされ外に出ると、黒く大きな人型の何かが神社前の道路に立っていた。

 それも一人では無い。何十人もの姿が目視で確認出来る。大きな角と翼、妖しく光る真紅の瞳。人型の集団は間違いなく、アクマに似ている。

 だがアクマと違う所もあった。彼らは皆、服を着ていたのだ。

 手足を覆うローブのような物を身に纏い、一様に両手を体の前へ広げ、この世の物ではない言語で何かを訴えている。


「もしかしてアイツの仲間か……!?」

「分からない、けど」


 まずは町の人の安全を確保しなければ、と誠は彼らの周りを見回す。幸い、辺りに人はいないようだ。


「よし、」


 誠はゴクリと唾を飲み、懐のしゃくを取り出す。祝詞のりとを唱え、笏を天にかざすと虹色の波紋が神社と黒い彼らを包み込む。鬼神神社に代々伝わる結界術だ。これで結界が破られない限り、町の人の安全は保証される。


「やるじゃねーか」

「初めて唱えたから、上手くいってるかは不安だけどね」


 それより、一刻も早くアクマに話を聞かないといけない。と誠は冷や汗をかきながら呟く。確か彼は今、裏手の掃除を行っていたはずだ。


「僕、アクマを呼んでくる!」

「いヤ、呼ばなくて良イ」


 アクマの元へ向かおうとすると、いつの間にかアクマが二人の近くに立っていた。


「アクマ、彼らは知り合い?」


 一体いつからいたのだろうか? と感じつつも誠がそう聞くと、彼は黒い集団をジッと見ながらゆっくりと頷いた。表情はいつも通りの無表情。まるで彼らが来ることを分かっていたようだった。


「ワタシの元同胞達ダ」

「それって、」

「話はあト。まずはどうするカ」


 彼らは未だ、境内へは入ってこない。神社の周りを囲んでジッとこちらの動向を伺っている。


「今のところ何もしてきていないが、迷惑だぜ正直」

「……」


 彼らはアクマの姿を捉えたようで、何人かがこちらを指さしてコソコソと話し始めた。

 そして、


「謌サ縺縺ヲ縺薙>縲?冷味笳寂命窶サ窶サ!」


 今までより大きく、不気味な叫び声をあげた。何度も、何度も。


「嫌ダ」


 アクマはその叫び声に対してはっきりと拒絶した。

 そして誠とセキを見る。


「この町から出て行ってくレ。町の皆の迷惑ダ」


 二人は目を丸くする。アクマがここまでこの町を大切にしているとは思わなかったからだ。


「謌サ縺縺ヲ縺薙>縲?冷味笳寂命窶サ窶サ!!」


 すると、奴らはより不気味で大きな叫びをあげる。それは本能的に人間を恐怖させる声で、誠はへたり込んでしまった。


「おい!」


 慌ててセキが誠に駆け寄る。アクマも誠に近づこうとしたが、セキに無言で睨まれ動きを止めた。

 幸い、誠には意識があるが体が震え、目が虚ろになっている。


「畜生!」


 原因は明らかに黒い集団だった。セキはその場から飛び上がり、背中の金棒を手に取る。

 そして金棒を振り下ろし、殴りかかる。

 奴らの一人がセキの攻撃で吹っ飛んだ。同時に奴らはの叫びは止まり、唸るような低い声に変わる。明らかに怒った声だ。


「險ア縺輔↑縺!」


 瞬間、奴らが集団でセキに襲いかかる。金棒で何度も吹っ飛ばすが、次第に集団の奴らに追い詰められ、ついには取り押さえられ、身動きを封じられてしまった。


「セ、セキ!」


 叫びが止まったお陰で動けるようになった誠が境内から出ようとする。


「やめろ!」


 しかし、セキに止められた。


「おめーはまだ宮司になったばかりで結界術を上手く使いこなせてなかったはずだ! やめろ!」

「ッ!」


 そんな時、アクマが誠の前に立った。背中を向けたまま、アクマは誠に言う。


「グウジ、力を貸してくださイ」

「っ、それは」

「! おいてめー!」


 アクマの提案に誠は顔を強張らせ、セキは更に眉間の皺を寄せる。


「ワタシは皆ヲ、この町を守りたイ。守るにハ、今のワタシの力では足りなイ」


 それでもアクマの目は真剣だった。本気で彼らを、町を守りたいと必死で訴えていた。


「……見返りは?」


 と誠が言うと、アクマは知ってたのカ? といいたげな目を向ける。誠はアクマをジッと見た後、そっと視線をそらした。


「……強いて言うなら、豆を食べてみたイ」

「へ?」


 アクマの回答に誠は目を丸くする。


「出会った、セキが美味しそうに食べてたかラ、食べてみたイ」

「はぁ!?」


 セキが信じられないような目でアクマを見る。きっと僕も同じような表情をしているんだろうなと、誠は思った。


「……それだけ?」

「それだケ。それ終わったラ、ワタシはここから出て行ク」

「! それは、僕が許さないよ」

 

 誠がそう言うと、アクマは目を丸くした。セキはあーあ、しゃあねーなという表情をして、誠へ笑いかける。もう好きにしろ。俺が何とかフォローするから、と言いたげに。


「出ていっちゃダメだ。君にはもう少しここにいてもらう」

「どうしテ?」

「君と、仲良くなりたいからさ!」


 僕の名前は、と言って誠が自分のフルネームをアクマに教える。そうするとアクマは黒いオーラを纏う。そして境内の外へ飛び出し、セキを押さえつけていた奴らを爪で薙ぎ払った。


「一応礼は言うぜ!」


 そう言ってセキは金棒で奴らを叩き潰す。そうして二人で黒い奴らを倒していく。ある程度倒すと怯んだのか、奴らは撤退していった。


「ありがとう、アクマ」

「どういたしましテ」



 その後。神社にも近隣にも物的な被害は無かった。怪我人や死者も出なかった。大事にならなくて良かったと、セキは言う。けれど誠の表情は暗いままだった。


「でも僕は、もう少し何かやれたと思う」

「……まぁそれがお前なんだろうな」


 俯く誠に、セキは頭を掻きながら言葉を返す。そんな二人を、アクマは貰った豆を無表情で頬張りながら隣で見つめていた。

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