エピローグ
平穏になったある日。セキはあれ以来、頻繁に神社へ顔を出すようにしたらしく、今日もアクマへ一方的に喧嘩を売っていた。しかしアクマの純粋な反応に、結局セキが絆されている。
そんな二人を見ながら、誠はふと蔵で見つけた一冊の書物を思い出す。
『ナキモノ辞典』。
鬼神神社や鬼神町にとって有害な悪霊やこの世の者ではない何か――ナキモノを記した辞典。父が大事に、けれど誠には見つからないよう、蔵の中へ押し込まれていた書物。そこに記された内容を読み、誠は確信した。アクマはやはり、この世界の鬼とは全く異なる存在――滅すべき対象の「悪魔」なのだと。
「(でも、滅すべき悪ではなかった)」
アクマが神社へやってきた際、誠は彼が悪魔であることは薄々感づいていた。誠の父は誠に書物を読ませはしなかったが、口頭で町を脅かすナキモノの概要は伝えていたからだ。
アクマが来た節分の日。誠はアクマの処遇をどうするか決めかねていた。問答無用で滅するほど害があるようには感じず、かといってこのまま放置する訳にもいかない。
だからこの神社に招き入れた。監視のためでもあり、何より初めて会った鬼以外の『ナニか』を知りたかった。
それは守り神であるセキにすら共有していない、誠だけの秘密だった。
けれど今は違う。心からアクマと仲良くなりたい。
「ところで、アクマの本当の名前は?」
「?」
セキとの会話が一区切りついたタイミングで二人の間に入り、誠がアクマに問う。アクマは首を傾げる。
「アクマって種族の名前でしょ? だったら君自身の名前で呼びたいなって」
「……アクマのままで良イ」
「そう? ……それなら、いいけど」
誠は苦笑し、空を仰いだ。
そうしてこの神社は日常を取り戻していく。しかし近隣の人達からは密かにこう呼ばれるようになった。
あの神社はね、鬼だけじゃない。アクマも棲む社なんだよ、と。だからこの町は鬼とアクマが守ってくれるんだよ、と。




