15. カックリーとの一日
夢の中の光点はぼんやりとしていた。
「俺は全てのチップを賭ける……なぜなら、答えがお前の右手にあることはよく分かっているからだ。その汗でびしょびしょの雑巾みたいな右手にな!」
…………
…………
「はっきり言うぞ。もしお前がまたそんな熟女好きを侮辱するような言い方をしたら、俺は…………」
…………
……
「起きろ! 」
カックリーの声が頭の上から降ってき、尋夢は嫌々ながら目を開けた。ソファのそばで怒っている少女と、彼女のあの跳ねる綿を無関心な顔で見た。
「俺と一緒に仕事に行く 。 」
「仕事? 」
「お前、毎日うちのソファに転がってるんだから、多少は働かなくちゃ? タダじゃないぞ。昼飯は出す」
「働かなくても昼飯は食べられてた気がするけど…… 」
「もう一回言ってみろ? 」
「はいはいはい…… 」
尋夢は体を起こし、左肩の傷口が腕に力を入れた瞬間に引っ張られ、痛みが三角筋の外側から鎖骨に沿って這い上がった。歯を食いしばり、半袖を濃い灰色の立襟コートに替えた――ルシフィットが以前くれたものだ。
カックリーは玄関で靴を履き替えていた。片方の足を地面に置き、もう片方の足をブーツに突っ込んでいる。靴下は濃い灰色で、足首の外側には極小の弾頭兎のアイコンが刺繍されていた。
「お前のオフィスには何人いるんだ? 」尋夢はコートのボタンを二つ目まで留めた。
少女はかかとを踏み鳴らした。「一人、私だけ」
「たった一人か? 」
「同僚なんて必要ない。給料を分けられるだけだ」
朝の光が扉の隙間から流れ込み、玄関の弾倉下駄箱を暖かい黄色い光で照らした。
「行くぞ」
腔線省附属宗教事務署のビルは、二本の銃身ビルの間に挟まれ、まるで腔線に詰まって進退両難の弾頭のように見えた。外壁には腔線藤が這い、濃い緑色の葉っぱは螺旋状に巻き、朝の光の中で暗い光沢を放っていた。入り口には錆びた銅板が掛かっていた。「聖女事務室――ガントピア暦89年設立」
カックリーは最後の一口の饅頭を飲み込み、鍵でドアをこじ開けた。ドアの軸が乾いたキーキーという音を立てた。
濃い色のウォールナット材の執务机が窓際にあり、数枚の書類が広げられていた。机の後ろの椅子は銃床の形をした高背革張り椅子で、座面には窪みが押されていた――カックリーが毎日お尻で擦って作ったものだ。壁際の書類棚の濃い灰色の金属表面には弾頭兎のシールがびっしり貼られていた。ダンボール箱がいくつか隅に積まれ、開いていた。箱には「未読」「未処理」「未食」と書かれていた――三つ目の箱は空っぽだった。
隅にもう一つ椅子があった。折りたたみ式で、鉄管の溶接部分はもう錆びていた。
カックリーはそれを壁際から引きずり出し、広げ、執务机の側面に置き、それから顎でそれを指さした。
「お前の仕事場 だ」
その椅子……座面のビロードは磨り減って白くなり、縁には何かに焦げた跡が数か所あった。
「……」
カックリーは引き出しから出勤簿を取り出した――牛皮紙の表紙、端が丸まっている――今日のページを開き、空白に一匹の弾頭兎を描いた:耳を立て、ニンジンロケット弾を抱え、口元を上げている。
「さあ、お前も描け」
尋夢はその弾丸万年筆を手に取り、歪な、かろうじてウサギと分かる絵を描いた。
カックリーはそれを見て、口をへの字に曲げた。
「もう少し練習が必要だな」
それから机の上のあの書類の束から一番上の一枚を抜き取り、開き、消しゴム印を手に取り、「パッ」と書類の右下隅に押した。押した後も見もせず、脇に置き、次の一枚を手に取った。「パッ」。次の一枚。「パッ」。七枚目まで来たとき、尋夢はついに我慢できなくなった。
「中身を見なくていいのか? 」
「見なくていい。全部腔線省 から回されてきた『信徒意見フィードバック 』だ。一枚一枚『既読 』って押しておけばいい。中身を見るのは時間の無駄」
「じゃあ万一、何か重要なのがあったらどうするんだ? 」
「重要なのはこんな手続きを通さない。重要なのは直接国王のオフィスに届く 。これらは――『聖女様、うちの銃身を錆びさせないでください』『聖女様、息子の射撃試験が落ちましたどうすればいいですか』『聖女様、ルシフィット様が水着で浜辺を走っている夢を見ました、これは何の前兆ですか』とかいうやつだ」
「……最後のは何の前兆なんだ?」
「知らないけど、適当にでっち上げることはできる」
引き出しから黒火薬ビスケットの箱を取り出し、一本抜き取って、一口かじった。
「お前、毎日こんな感じなのか? 」
「こんな感じって? 」
「こんな……のんびりしてるってこと 」
彼女の動作が一瞬止まった。そして残った半本のビスケットを口に押し込み、噛み終え、飲み込み、それから人差し指で口元の粉くずを拭い、尋夢を見た。
「聖女ってどんなものだと思ってる? 毎日祭壇の前に跪いて八時間祈るもの? それとも白いローブを着て街に聖水を撒いて歩くもの? 」
「そうじゃないのか―― 」
「聖女の仕事は存在すること だ。私がここにいる。信徒 は私が出勤していることを知っている。それだけで女神も出勤している と思ってる。ガントピアの信仰システムはこうやって回ってるんだ」
次に机の上のコーヒーを手に取り、匂いを嗅いだ。
「もちろん、たまには本当の用事 も処理するけどな。例えば装填祭 の祈願式典の参加者選びとか、どこかの教会の司祭がやらかしたから解任とか、例えば――異世界から勇者を召喚して事件解決させる**とか」
「……じゃあ、なんで俺は今日連れてこられたんだよ……」
「一人で出勤するのはつまらないからだ」
「それだけか? 」
彼女はそのビスケットの箱を彼の方へ押しやった。
「一本食べろ。クラシック味 だ」
彼は〇・五秒迷い、一本を取り、一口かじった。ほろ苦く、後味にほんの少しの塩味があった。まるで火薬で燻された煎餅を噛んでいるようだった。
「美味いか? 」
「……まあまあ」
「まあまあってことは美味いってことだ」彼女はビスケットの箱を引き戻し、また一本抜き取って、一口かじった。「お前って人間はそうだな、何でも『まあまあ』なんだ。事件解決したときも『まあまあ』、褒められたときも『まあまあ』、私のビスケットを食べても『まあまあ』。もっと早くお前に分けてやらなきゃよかった」
「じゃあお前は何て言ってほしいんだ? 」
「『美味しいです、カックリー様、ありがとうございます』って」
「やだ」
「じゃあ『聖女殿下、お疲れ様です。小さな私が肩でも揉みましょうか』」
「もっとやだ」
カックリーは笑った。
窓の外では、朝の光が暖かい黄色から淡い金色に変わっていた。腔線藤の螺旋状の葉っぱが風にゆっくり揺れ、影が書類棚の弾頭兎シールの上に落ちては揺れていた。
尋夢は折りたたみ椅子に寄りかかり、印鑑を押す音、ビスケットを噛む音、カックリーが時々椅子を後ろに倒すときのスプリングのきしむ音の中で、奇妙な温かさのあるリズムを感じ取った。傷口さえも無言になり、瞼が下へ落ちた。
「寝るなよ。まだ出勤四十分だ。せめて昼休み までは持たせろ」
「寝てない」
「さっきまつ毛がくっついてたぞ」
「……それは瞬きだ」
「三秒間の瞬きは瞬きじゃない、閉眼 だ! 」
尋夢は目をこすり、カックリーが押し出したあのすっかり冷めた雷管コーヒーのカップを手に取り、一気に飲み干した。
「お前、明日も来るのか? 」
「それは俺が決められることじゃないだろ? 」
「うまいこと言うな。でもさっきもしお前が『来る』って答えてたら、座布団 を持ってきてやったのに」
「なんでお前のオフィスにはいい椅子が一つしかないんだ? 」
「なぜなら、いい椅子に座る資格があるのは一人だけだからだ。お前はあのいい椅子の副操縦士 だ」彼女は手に持った消しゴム印を机の上でトントンと叩き、それに付いたビスケットの粉くずを落とした。
「俺はお前の副操縦士じゃない」
「お前は俺の子分 だ」
「子分じゃない」
「お前は、お前はそうなんだ」
カックリーは十二枚目の書類を開き、消しゴム印を手に取り、「パッ」と押した。それからビスケットを一本取り出し、二つに折り、その半分を机の隅に置き、彼の方へ押しやった。
尋夢はその半分のビスケットを手に取り、一口かじった。腔線模様が歯の間で砕け、ほろ苦い後味が舌の根元で溶け、極めて淡い、ほとんど気づかない甘さに変わった。
窓の外では、腔線藤の葉っぱが風で裏返り、裏側の銀灰色の産毛を露わにした。朝の光が葉っぱの隙間から漏れ入り、机の上に小さな細かい、薬莢の破片のような光斑を落とした。
午後の陽の光が窓台の上にあるあのルシフィットの粗い彫像の頭頂から滑り落ち、書類棚の弾頭兎シールに明るい境界線を刻んだ。
「だから俺は言ったんだ、あそこの店のヒンジ辛麺 は全然ダメだって。辛さは十分だけど、あの『ヒンジ』の食感はゴム紐を噛んでるみたいだった。本当のヒンジは弾力があるべきであって、頬を弾くものじゃない」
「お前、二回もおかわりしてスープも全部飲み干して、それでいて『ダメ』って言うのか」
「それは**腹が減ってたからだ 」
カックリーは上着を椅子の背もたれに掛け、全身を銃床高背椅子にだらりと沈め、プリーツスカートの裾が彼女の膝の上で一团のくしゃくしゃの灰色に折り重なり、天井を二秒見つめ、それから目を閉じた。
「昼寝する」
「いきなりか? 」
「聖女の昼休み は神聖不可侵だ。お前は見張りをしろ 」
「何の見張りだ? 」
「入口を見てろ。誰も入れるな」
「ここには午前中ずっと誰も来なかったぞ」
「それは午前中は誰も探してなかったからだ。万一、昼に誰かが探してきたらどうする? 誰かが来たら『聖女は瞑想中です。午後に来てください』って言え」
「……お前が瞑想するタイプ に見えるか? 」
「お前、私に対して失礼すぎるぞ 。そんなことすると天罰 が下るぞ。よし、見張りだ。喋るな」
尋夢は折りたたみ椅子に座り、カックリーが「横向き寝」からゆっくりと「仰向け寝」に変わり、さらに「仰向け寝」から捻れた、まるで締めすぎた銃機のような姿勢 に変わっていくのを見ていた。唇は微かに開き、呼吸は安定から軽い鼻息を伴った規則的な起伏**に変わった。
約三分後、彼女はいびきをかき始めた。
とても軽い、まるで薬莢がビロードの上を転がるような音――短く、均一で、数秒ごとに極細の「ふう――」 という音がして、語尾が上がる。まるで誰かが空っぽのゼリードリンクを吸っているかのようだった。
尋夢はズボンのポケットからスマホを取り出した。画面が光り、通知バーに二件のメッセージが届いていた。
一件目はマグシン・クウソウカケキから。二件目は一昨日のあの女性から。
彼はまずマグシンのを開いた:「今日は傷はまだ痛みますか? 」
「だいぶ良くなりました。ありがとう」
送信。返信は〇・一秒後に飛んできた。
「そうですか。良かったです。今日はカックリーさんのところに行ってるんですか? 彼女、先週の夜に『今週はオフィスに連れて行く』って言ってましたが、彼女にいじめられてませんか? お昼は何を食べましたか? カックリーさんはきっとまた不健康なものばかり食べさせてるんでしょうね。左肩の包帯は交換 しましたか? 自分でやったんですか? 彼女がやってくれたんですか? 自分でやらないでください。その角度、自分じゃ届かないですから。もし届かないなら、私が取り替えに行きますよ。私、午後は暇ですから」
尋夢は画面を三秒見つめた。すると向こうが撤回した。
「すみません、私、言葉が足りませんでした 」
「大丈夫だよ。夜にまた話そう。君も早く昼休みを取れ」
向こうの「入力中…… 」が一瞬光ったが、止まった。何も送られてこなかった。
彼はマグシンのチャットウィンドウを閉じ、あの純白のアイコンをタップした。
「いる? 」
「いる」
「昼寝? 」
「寝てない」
「うん」
「今日は仕事は? 」
「行ったよ、昼休み。襟、まだ立ててる? 」
「一つ聞き忘れてたんだけど」
「? 」
「お前の名前、何ていうんだ」
「次に会ったときに教える」
静けさ。腔線藤の葉っぱが窓の外でゆっくり揺れ、影が窓台から滑り落ち、あの粗い小さな彫像の上に落ち、バスローブの模様を一段一段の暗色に切り分けた。
スマホがまた震えた。二件のメッセージ。
一件はマグシンから:「あなた、午後もカックリーさんのところにいるんですか? 迎えに行きましょうか? 仕事が終わったら、私の帰り道ですから」
一件はカックリーから:「ちゃんと見張りをしろ」
彼ははっと顔を上げた。カックリーがいつの間にか起きていて、椅子にだらりとし、灰白色の逆立った髪が片側だけ潰れ、赤い同心円の瞳孔が髪の隙間から彼を睨みつけ、手にはあの銃形スマホを握り、画面は上を向いていた。
尋夢はスマホを膝の上に伏せた。カックリーはそれ以上言わず、目を閉じ、いびきが再び繋がった。




