2. 犯行現場――腔線螺旋塔
「それで――」尋夢は咳払いをして、気持ちを本題に戻す。「事件について。」
「うーん。」カックリーが最後の半分のボールをかじりとり、もごもごと言った。「事件について。」
少女がポケットからくしゃくしゃの羊皮紙を取り出し、尋夢に差し出した。
氏名:土銃 重工
官職:腔線省次官(基建審査担当)。ガントピアの官僚序列では第七位だが、実際の承認権限は邦主自身に次ぐ。
異名:「ダブルアクション・トリガー」――彼はどんな審査でも二度引かなければならないからだ。一度目は賄賂を受け取り、二度目は進捗を止める。業界内では「永遠に撃てない不発銃」と呼ばれている。
年齢:54歳
死亡日時:ガントピア歴134年3月15日、午後9時17分頃
死亡場所:撞針市・腔線螺旋塔 第33階「撃針庁」
死因:後頭部を撃たれた.45口径単発で貫通され、即死。
容疑者リスト(全員が出頭済み):
撃槌・撞針――腔線省次官秘書、死者の直属部下
薬莢・抛窓――腔線省建築審査科長、死者の政敵
安全・阻鉄――腔線螺旋塔警備主管、事件当夜の当直者
雷管・撃発――死者の妻、腔線省檔案管理員
備考:四名全員、事件発生後48時間以内に撞針市中心警察署へ自首。供述は高度に一致しており、いずれも「私が撃った」と主張している。
尋夢は信じられないという顔で羊皮紙をひっくり返し、裏面に何も書かれていないことを確認する。「……これだけ?」(ああもう、なんなんだこの名前の数々は。)
カックリーが銃を構える仕草をしながら言う。「重要なのは、見つかった凶器なんだよね。
.45口径の半自動式拳銃。死者の手元に置かれていた。弾倉内の残弾数と腔線の数は完全に対応している――薬室内に一発発射済み、弾倉内に六発残っている。これは銃の設計基準に適合している。そして四人の指紋が全部付いてた。それだけじゃない。四人のDNA、皮膚片、さらには汗の跡まで、拳銃の表面に均一に分布していたんだ。鑑定課の話では、あの銃は四人が同時に握ったかのようだと言う。重なってるって意味じゃないよ。文字通りの『同時に』ね。」
「四人が同じ引き金を同時に引いたって言うのか?」
「だからこそ、君の出番ってわけ。さあ、着いたよ。」
カックリーがある建物の前で足を止める。
さっきまで見ていた弾倉ビルでもなければ、銃身ビルでもない。それは……銃の形をしていた?
尋夢は顔を上げ、建物の輪郭に沿って視線を上へと動かす。これは狙撃銃の形をしたビルだった。周囲の建物より倍以上高く、銃床の部分が地面に埋め込まれている。銃身は螺旋状に立ち上がり、数階ごとに照準器 型の張り出した観察窓がある。最上部は銃口だが、その銃口は空を向いていない――水平に、街の中心方向を指している。あの、頂上が見えない「対物ライフル級」の行政中心に向かって。
「腔線螺旋塔。」カックリーが名前を告げる。「ガントピアで最初にできた狙撃銃形建築のひとつ。全66階。33階以下は商業・オフィス、33階以上が腔線省の執務エリア。撃針庁は33階。ビル全体の『心臓』の位置にあたる――ちょうど機関部 の部分だ。」
腔線螺旋塔の入口は、巨大な排莢口 の形をした回転ドアだった。ドアを押し開けた瞬間、尋夢は本能的に首をすくめた――機械的な音がすると思ったのだ。しかし実際にはごく静かな油圧音がしただけだった。
ロビー内部は外から見たよりもさらに誇張的だった。床は艶消し黒の金属板に、真鍮の腔線模様が埋め込まれている。天井からは巨大な弾帯を模した照明が吊り下げられ、ひとつひとつの「弾丸」が暖かな黄色い光を放っている。中央にはルシフィットの黄金像が置かれていた――威厳がありつつも慈愛に満ちた表情でAK47を手にし、銃口を下に向けている。フロントデスクは横向きに置かれた巨大な拳銃の形で、受付係は弾倉井の位置に座り、拳銃型のパソコンを前にしている。
「いらっしゃいませ、ご用件は――」
「刑事捜査だ。撃針庁。 」いつからかサングラスをかけていたカックリーが一枚のカードを掲げる。そこに描かれた図柄は尋夢には見えなかったが、受付係の表情は肉眼でわかるほどに変わった。
「し、少々お待ちください。警備に連絡を――」
「いいよ。自分たちで上がるから。」
カックリーは尋夢の手を引いてエレベーター棟へと向かう。エレベーターの扉は弾倉井の形をしており、二枚の扉が閉じるときにちょうど完全な弾倉の輪郭を描く。彼女が呼び出しボタンを押すと、金属の衝突音がした――「ピン」ではなく、「カチッ」と。
エレベーターはすぐに来た。扉が開いた瞬間、尋夢は言葉を失った。
エレベーター内部の床は巨大な雷管 の図柄。四方の壁は滑らかな黒い金属。天井は……透明な照準器 型の天窓? いや、あれは天井そのものだが、何層もの光学レンズが重なったような効果を持たせてあり、中に立って見上げると「拡大された」ような錯覚に陥る。しかし尋夢が驚いたのはそれではない――エレベーターの中に、二人の黒服が腕を組んでカックリーをにらみつけていたからだ。そのうちの一人はオオカミの耳を生やしている。
カックリーが尋夢をエレベーターの中へ押し込む。左側の黒服の男は無言で素早く「33」のボタンを押し、それからもカックリーをにらみつけ続ける。彼の顔には刀傷があった。
尋夢は汗を拭い、この機会に頭の中を整理しようとした。
「四人の容疑者。全員が自首。全員が殺人を認めている……」
「私が初めてこの螺旋塔に足を踏み入れた日、12歳のとき。持っていたのはベレッタ30X。上折れ式銃身。.32ACP弾。それまでエレベーターなんて見たこともなかった。」カックリーがサングラスを外し、夢見るように呟く。
「……え?」
「それであの子は、誰もいないのをいいことに一人でエレベーターの中に入って、ボタンを銃で撃ち抜いたんだ。全部のボタンをな。 塔全体が一週間麻痺して、私たちは階段で通勤するハメになったんだよ。」右側の黒服の女が怒りを込めて引き継ぐ。彼女の頭の上のオオカミ耳が怒りでぴくぴくと震えている。
「……え?」
カックリーの方を見ると、彼女は笑いをこらえていた。「反省したよ、ほんとに。 でも、変だと思わない? ここはガントピアなんだよ? なのにエレベーターが――」
エレベーターが止まった。
扉が開いた瞬間、かすかな硝煙の匂いが漂ってきた。刺激的なものではなく、むしろ……何か残留した、意図的に保存されたような香りだった。
33階の廊下はロビーよりもずっと落ち着いていた。壁は濃い灰色の艶消し金属。数メートルごとに排莢口形の壁灯が設置されている。床は濃い色の木製――ようやく金属じゃない――だが、よく見ると、木の床の継ぎ目が腔線の螺旋模様に削り出されている。
廊下の突き当たりには両開きの扉があり、その上にプレートが掛かっていた。
撃針庁
腔線省次官執務室
無許可立ち入り禁止
取っ手は二本の撞針が交差した形をしている。
カックリーが前に歩み出る。しかし扉を押すことはせず、横に身をかわして、扉の方へ顎をしゃくった。
「君がやる?」
尋夢は深く息を吸い込み、前に進んだ。そして冷たい撞針型の取っ手を握りしめ、扉を押し開けた。
「俺がやる。 」
撃針庁は彼の想像よりも広かった。
部屋は長方形で、奥行きは少なくとも十五メートル、幅も十メートルほどある。真正面は一面の床から天井までの窓。窓の外には撞針市のスカイライン――無数の銃身型ビル群が朝の光の中に冷たい金属の輝きを反射している。窓枠は照準器の十字線の形にデザインされており、その十字線は街の中心部、あの「対物ライフル級」の行政中心にぴったりと合わされていた。
部屋の中央には巨大なデスク。天板は濃い色のクルミ材で、脚は二本の巨大な弾倉の形をしている。机の上には整然と書類が置かれ、拳銃型の電気スタンド、薬莢型のペン立てが並んでいる。机の後ろの椅子は背の高い革張りのもので、背もたれの輪郭は銃床の形に設計されていた。天井を見上げる――そこにはガントピアの創世神話を描いたフレスコ画があった。ルシフィットが雲の上に立ち、金色のライフルを両手で捧げ、それを地面で見上げる人類に差し出している。
机の数メートル手前の床に、白いチョークで描かれた輪郭があった。
人形の。
しかし完全な人形ではなかった。チョークの線が描くのは跪いた姿勢。上半身は前傾し、頭の位置にはすでに濃い茶色に変色した跡があった。
「死者はこの姿勢で発見されたのか?」
「そう。両膝をついて、上半身を机の上に伏せて、頭は机の端に。 」カックリーが入口に立ったまま中に入らずに言う。「致命傷は後頭部の一か所の銃創。弾丸は後頭部から入り、前額部から出て、弾頭は机の木製天板にめり込んでいた。」
「射撃距離は?」
「コンタクトショット(密着射撃)。 後頭部に火薬の焼けと残留物がある。銃口はほぼ肌に密着した状態で撃たれたんだ。」彼女は手で軽くジェスチャーをした。
「つまり、犯人は背後から近づいて――」
彼は立ち上がり、部屋の中を一周した。机の側面――チョークの輪郭の頭部に近い位置――には確かに弾孔があり、周囲の木繊維がめくれ上がっていた。弾孔は透明なテープで封鎖され、隣には番号ラベルが貼られている。
「凶器はここにあったのか?」
「そう。.45口径半自動式拳銃。死者の右手のすぐ横、距離にして約二十センチのところに置かれていた。銃口は机の方を向き、グリップは死体の右手に向いていた。」
「死者が撃ったあとに置いたか、あるいは犯人が故意にそう置いたか。 」
「鑑定の結果も面白いんだ。」カックリーがポケットから小さな手帳を取り出し、数ページめくる。「死者からは薬物もアルコールも検出されず。死亡推定時刻は21:15から21:20の間。胃内容物から、死の二時間前に普通の夕食を摂ったとわかっている。」
「四人の容疑者の自首時刻は?」
「3月16日の午前9時から11時の間。間隔は二時間以内。順番は――まず秘書の撃槌・撞針、次に妻の雷管・撃発、次に警備主管の安全・阻鉄、最後に政敵の薬莢・抛窓。」
「四人が、四人別々の警察署に?」
「いやいやいや、同じ署――撞針市中心警察署。四人が同じ大門から入って、フロントに『私が人を殺しました』と言って座った。順番は彼らが到着した順番であって、自首した順番じゃない――実際、誰が先に着いたかは彼ら自身もはっきり覚えていない。なぜならフロントがちょうど交替の時間で、記録に十数分のズレが生じているからだ。」
尋夢は目を閉じ、頭の中にすべての情報を繋ぎ合わせた。
四人の容疑者。
同じ凶器。
四人全員の指紋。
四人全員が自首。
全員が『自分が撃った』と言う。
「現場の監視カメラは?」
「それが二つ目の問題。」カックリーが笑った。「腔線螺旋塔33階の監視システム、事件当夜21:00から21:30まで完全に機能停止。停電でもなければ、電波妨害でもない。――」
「物理破壊だ。三十七台の監視カメラ、すべてが何らかの高温物体によって内部から回路基板を焼き尽くされていた。鑑定結果:どのカメラの破損痕も異なるが、破壊の方法は完全に一致している。――レンズ方向から高温粒子流が照射され、外部のケースに傷をつけることなく、内部の核心チップだけを正確に焼損している。 」
「三十七台を、同時にか?」
「三十七秒以内に。一機ずつ、均等な間隔で。 何か正確なタイマー装置にでも制御されているかのようにな。」
「…………」
「まだ三つ目の問題がある?」彼は尋ねた。
「あるよ。」カックリーは小さな手帳をしまい、床から天井までの窓の前に歩いていき、背を向けて外のびっしりと生い茂る銃身の森を見つめる。
「四人の容疑者は自首したあと、警察署内で別々の取調室に隔離された。でも彼らは――」
彼女は振り返る。茶色の瞳が朝の光の中でひときわ深く澄んでいる。
この瞬間、この瞬間に、とうとう尋夢はカックリーの瞳孔をはっきりと見た。
複数の赤い同心円が茶色の中に重なり合い、狂気がそこからとめどなくあふれ出していた。
「――彼らはみんな同じ言葉を言った。一字一句違わずにな。 」




