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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第15話:魔王討伐1ー⑧


 ボーナスクエストの報酬が二つになった。


 神話級武器・天叢雲剣あまのむらくものつるぎ

 神話級スキル・呪い之王(ダ・オヌ)


 計画にはなかったが、これは嬉しい誤算だ。

 神話級スキル――十年以上このゲームをやってきて、たったの一度しか拝めたことが無い貴重なスキルだ。効果は絶大で、使用すれば魔王討伐を呆気なく終わらせられる可能性があるぶっ壊れ性能を持つ。


 完全攻略を目指すにあたって、最適なスキルセットを組むことも大事だ。

 だが、ゲームバランスを崩すような今回の神話級スキルはまた別だ。あって損はない、それどころかアクティブスキルの高火力技はいくらでも歓迎する。


「俄然、やる気が出てきた」


 不敵に笑いつつ、文楽は腰に仕舞っていた短剣を取り出す。


 ざっと周りを見渡すと、周囲の山々から数えきれないほどのモンスターが一斉に飛び出してきた。例外なく鬼の形相で迫り、殺意をむき出しにしている。嫌でも、スキルの影響で殺意がちくちくと肌に突き刺さってくる。


「はは……生きて帰れるよう神にでも祈っておこうか」


 視界に映るモンスターの大群に、文楽はから笑いをしていた。


 人生で一度だって殺意を感じたことなどない。

 だというのに、こんなにも大量の殺意を一心に向けられて、どう受け取ればいいのだろうか。適度な殺意ならばこの世界で何度か感じたことはある。殺意に質量を感じて押しつぶされそうな経験は初めてのことだった。


 否応にも額に冷や汗が流れ出てきた。


「…………戦争に赴く一兵卒の気分ってのは、こんな感じなのか?」


 孤独な恐怖、それが全身を縛っているような嫌な感覚だった。


 これから始まる生き死にを懸けた乱戦は、魔王戦とはまた雰囲気が異なる。

 このマップにどんなモンスターが潜んでいて、どんなスキルセットを所持していて、どのタイミングで押し寄せて来るか――それは文楽にさえわからない。こんなところでローグライクゲームの厳しさを生身で味わうことになるなんて思いもしなかった。


「相変わらずクソゲーだな。……とはいえやるしかない」


 恐怖のせいで異様に重たく感じていた上着を脱ぎ捨て、文楽は軽装になっていた。


 捨て駒の下等勇者にできることは限られている。

 だからといって、指をくわえて死ぬわけにもいかない。


 戦う手札を多くするなら、今ここだ。

 代償を支払ってでも、ここで生き抜く術を増やすしかない。


「そろそろ巻いた種を回収する時間だ。スキル――【代償変更】を発動」


 声に反応して、文楽の視界にはシステムウィンドウが表示されていた。

 慣れた様子で素早く目を通す。


「スキル獲得に付随する代償条件を、別の代償で補填する」


『――対象を選択してください』


「レベルを1つ償却。代わりに、鹵獲ろかく解体、自傷回復(微小)を獲得する」


『――認証されました』

『条件達成――スキル【鹵獲解体】を獲得しました」

『条件達成――スキル【自傷回復(微小)】を獲得しました」


 アナウンスをひと通り聞き終えると、文楽は短剣を逆手で持ち直す。


 刃先を傷だらけの腕に添え、躊躇せずに自ら腕を斬った。

 その傷口から血が溢れ出てくるが、数秒もすればじわじわと傷口が閉じていく。それだけではなく傷口の周囲にあった傷跡や焼け爛れも綺麗な皮膚へと徐々に再生していく。


 スキル――自傷回復、これは自傷の傷は自動で回復するという傭兵らしいスキルだ。


 無事にスキルの効果が発動したことに、ほっと胸を撫でおろす。


 これでようやく痛みが落ち着く算段が付いた。

 痛みに耐えながら戦う消耗戦とも、ようやくおさらばだ。


 これで――全力で戦え手筈は整った。




 ◆




 夜が明ける頃、雨が降ってきた。


 異形の亡骸で埋め尽くされた平原で、文楽は一人佇んでいた。

 顔についた泥を手で払い落とし、邪魔な前髪をかき上げる。


「スキル――【鹵獲ろかく解体】」


 五メートルほど先にいるモンスターの亡骸へ、手を伸ばす。

 亡骸の心臓がほんのり赤く輝くと、モンスターの握っていた長剣がふわりと宙に浮いた。そのまま勢いよく文楽の元に飛んでくると、手元の前でぴたりと止まった。それを文楽は自分の武器として握りしめていた。


 スキル・鹵獲ろかく解体――手を触れずに、落ちている物体から指定の部品を回収する能力がある。対象の範囲はおよそ半径十メートル。今回のような乱戦では武器を容易に入手できる強みを発揮できる。


 重心を吹くくして奪った長剣を深く構えると、クラッツォの腕力を駆使して全力で投擲した。

 力任せに投げられた剣は、空中で回転しながら、遥か遠くにいたモンスターの胸へ深々と突き刺さった。それを何度か繰り返し、見えている範囲のモンスターをあらかた片付ける。


「はぁ、はぁ……残りはあいつらに任せよう」


 そう呟いた文楽は、辛そうに肩で息をしていた。

 雨が降ってきて外も寒くなってきた。

 息がほんのりと白くなってきた。


 ようやく魔王討伐クエスト1の終わりが見えてきた。


 ラストスパートだ、と自分に喝を入れて文楽は走り出す。

 急いである場所までたどり着くと、そこで立ち止まり空にいる王蛇を見上げる。


「王蛇ッッッ!!!! 最後の戦いだ!!」


「キウィァァァァァァァアッッッ!!!!」


 その意思を感じ取ったのだろうか。

 今までは優雅に空から戦場を見下ろしていた王蛇が、ゆっくりと動き出す。


 モンスタートレインのときには、厄介な黒いビーム攻撃を放って文楽を苦しめていた魔王だったが、ようやく本体が動き出した。王蛇は体を捻らせると、文楽のいる場所目掛けて落下しながら突進攻撃を繰り出してきた。


 迎え撃つように、文楽は拾った鉄製盾を構える。


 火花を散らし、激しく両者は衝突した。


「くそ、重ッッッ」


 それでも文楽は体を捻り、上手く力を受け流す。

 王蛇は頭から勢いよく地面にぶつかったが、平然とそのまま地中に潜っていく。次は地中から攻撃を繰り出そうとしているのだろう。


 だが、文楽はそんなこと知っていた。


 文楽が口角を挙げた、次の瞬間だった。

 地面に大きな亀裂が入り、平原全体が陥没したのだ。


「掛かったな。成功だ」


 戦い初めてからずっと、文楽は魔王の地中からの飛び出し攻撃を誘導していた。

 特定の距離、角度、回数で攻撃させると、どんなマップでも必ず岩盤が脆くなる。それを逆手にとって、空飛ぶ王蛇を地中に抑えこむことができる。


 そうして――魔王は岩盤に体を押しつぶされて、地中に拘束されていた。


 頭隠して、尻隠さず。

 まさにその状態になった王蛇は、大きく陥没した岩盤の重さで身動きが取れなり、拘束を解こうと暴れ出した。必死に体をねじり、尻尾を振るって地層の表面を破壊しようとするが、上手く抜け出せないでいた。


 文楽はすかさず盾を放り捨てると、スキルで近くにあった長剣を手繰り寄せる。

 そのまま王蛇の尾に切り込みを入れようと力を籠めるが、軟弱な剣は半ばからぽっきりと折れてしまう。それでも諦めず斬れかけの尾を掴むと、力の限り尻尾の傷口を大きく開いた。


 血飛沫が飛び散る中で、ようやく黒色の剣の柄を発見する。

 切れかけの尻尾に手を突っ込み、文楽はそれを力づくで引き抜いた。



「……これが神話級武器・天叢雲剣あまのむらくものつるぎか」



 王蛇の血が滴っていて、禍々しさが拭えていない。

 それでもこれは間違いない。ゲームで何度も見た最高峰の武器の一つ――神話級武器・天叢雲剣あまのむらくものつるぎだ。


 喜ぶのも束の間、文楽は躊躇なく地面に天叢雲剣あまのむらくものつるぎを突き刺した。


 剣身から、肌を震わせるほどのオーラが解き放たれた。

 平原の地面にできた亀裂からは眩いほどの光が溢れ出し、平原の地面をこぞって粉々に砕いたのだ。


 それがきっかけとなり、王蛇は再び動き出す。

 地中で体を翻すと、文楽目掛けて下から突進攻撃を仕掛ける。




「このときを待っていた」




 文楽はその突進攻撃を避けなかった。

 下からトラックのごとき速さで迫る王蛇を正面から受け止め、一緒に天高く飛び上がっていく。食い破ろうと獰猛に開く王蛇の口に、下あごから使い捨ての剣を突き刺して、それ以上動かないように黙らせた。


 必死に食らいつき、王蛇の目を見て言う。



「待たせた、王蛇ダ・オヌ


『――鬼神のごとき戦いぶりであった。あとは頼んだ、真の勇者よ」


「真の勇者、か。下等勇者様には相応しくない称号だな」


『――主にこそ相応しい呼び名だ』


「そうなることを、あの世で願ってな」



 天叢雲剣あまのむらくものつるぎを握りなおすと、王蛇の眉間に力いっぱい振り下ろす。

 深々と突き刺さった剣は、体内にあった八つ目の魔核を破壊した。


 この手に、魔核を破壊した感触が伝わってきた。



「キウィァァァァァァァアッッッ!?!?」



 空で王蛇がのたうち回るように、暴れ出す。

 文楽は落とされないよう必死にしがみつき、右往左往と揺れ、遠心力に踊らされる。


 数分もしがみついていると、王蛇の力が弱まっていくのがわかった。


 ゆっくりと地面に落ちていく王蛇。

 地面が近づいた頃合いを見て、文楽は飛び降りた。

 真っ逆さまに山の中へと落っこちていくと、木々の枝を折りながら、地面になんと着地する。



「ああ……終わった。さすがに疲れた」



 ぐったりと地面に寝転ぶと、明るくなり始めた明け方の空を見上げていた。


 長い戦いだった。

 一体何日ほどここで戦い続けていたのだろう。


 だが、魔王をようやく倒せた。

 下等勇者で、最弱の傭兵適性の文楽が、魔王討伐クエストにピリオドを打ったのだ。



『――魔王【王蛇ダ・オヌ】の討伐を確認』

『魔王【王蛇ダ・オヌ】の魂が浄化され、世界は祝福に満たされました』


魔王討伐クエスト1の目標をすべて達成しました』

『ワールドクエスト進捗度:01/99』


『Congratulations!』(おめでとうございます!)

『勇者として、誰も成し得ない偉業を達成しました!』

『偉業を讃え、豪華な報酬が支給されます!』


『貢献度ランキングが公開されました!』

『拠点内、モニターをご確認ください!』


『魔王討伐を祝福して、一時間のエリア解放を行います』



 アナウンスが終わっても、文楽はずっと雨降る空を見上げていた。


 それから間もなく、文楽の目の前に光る玉がゆらゆらと現れた。

 見覚えのある光の玉に触れると、光の粒子が体の中に流れ込んできた。



【■■■■――神話級スキル・呪い之王■■■】

【■■■■――神話級武器・天叢雲剣あまのむらくものつるぎ■■■・■■■■】



 それから少し体を休めた文楽は、どこかへと歩いていく。

 辿り着いたのは、亡き魔王【王蛇ダ・オヌ】のいる場所だった。


 安らかに目を閉じた瞼に、そっと手を置く。


「スキル――呪い之王(ダ・オヌ)、発動」


 文楽の手から勢いよく黒い煙幕が噴出された。

 それはあっという間に魔王の体を包み込んでいく。


 気がついたときには、魔王の体が黒い粒子へと変換されていき、煙幕と混ざりあっていく。文楽の意思で、煙幕は手へ再び吸収されていった。


 目の前から、魔王の亡骸が消えた。


 しばらくの間、文楽はその場から動こうとしなかった。

 帰還を知らせる法螺貝が、平原に鳴り響いた。


『拠点へ帰還しますか? YES/NO』


 視界に表示されたシステムウィンドウ。

 それを見た文楽は、静かに答えた。


「イエス」


 視界に幕が降ろされ、文楽の足元には転移渦が召喚された。

 拠点へ帰るときがきた。





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名前 * 神々廻文楽

適正 * 傭兵

等級 * 下等勇者

体質 * 魔力不全体質 / 異人拒絶体質/■■■■■

Lv * 3

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<所持スキル>

*代償変更 / C級 / Active

*鹵獲解体 / C級 / Active

*自傷回復 / D級 / Passive

*白共感覚 / A級 / Active

*呪い之王 / 神話級 / Active

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名称 * 罪被の短剣

分類 * ショートソード

等級 * B級

効果 * 罪の解放(ラ・パージ)

刻印 * 2/5

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名称 * 天叢雲剣あまのむらくものつるぎ

分類 * ■■■■■

等級 * 神話級

効果 * ■■■■■

刻印 * 4/5

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