四之五
美倉は侮蔑とも嘲弄ともとれる笑みを浮かべたまま、言った。
「どうした、ためらわずに、はようかかってこぬか。小童どもッ!」
恫喝めいた挑発に、耐えきれないのは未熟者と相場が決まっている。
気合い声とともに、間合いを詰めて刀を振りおろしたのは、箏太郎である。
美倉は箏太郎の刀を軽く弾いて、返す刀で胴を薙ぐ。
その右肩めがけて照潤の棒が突きだされた。
美倉が棒を見もせずに身を沈めて躱した隙に、箏太郎は間合いをとる。
箏太郎を美倉が追う。
穂波が音もなく、美倉の背後から飛びかかり、短刀を振りおろす。
美倉は独楽のように体を回転させる。穂波の首を目がけて、刃が疾風のごとく襲いかかる。
強引に体を捻って、穂波はその凄まじい一撃を躱したが、体勢を崩して、地面に転がった。
転がる穂波を追って、美倉がつつっと体を滑らせたが、横合いから、箏太郎が刀を突きいれた。
それを切っ先で弾いて、美倉は箏太郎の肩を目がけて刀を斬りさげた。
が、その刃が箏太郎の肩口にとどく、まさに紙一重。
ぴたり、と攻撃がとまった。
寸時の硬直を、訝しみつつも、三人は美倉から距離をとって、囲む。
息を合わせて、箏太郎と照潤が攻撃をいれる。
照潤の足元を薙ぐ棒を、軽く飛んで躱した美倉は、同時に振りおろされた箏太郎の刀を弾き、身を捻って、体勢を崩している照潤の頭を一刀両断せんと振りおろす。
が、照潤の剃髪された頭に刃がとどく寸前に、また、攻撃がとまった。
後頭部目がけて飛んできた穂波の十字手裏剣を、かがんで躱した美倉が、刀を横に旋回する。
しかし、すでに箏太郎も照潤も間合いの外にいた。
何かがおかしい。
箏太郎、照潤、穂波の頭に芽生えていたかすかな疑問が、鮮やかな確信に変わった。
――乗っ取った体を操りきれないのか?
箏太郎は思う。
それにしては、自在に体を動かせているときもある。牢人の体にはいった美倉の魂が、体になじんでいないように思えるが……。しかし、常に攻撃が緩慢になるというよりも、こちらが危機に陥った、あわやという瞬間だけ、動きがとまるのだ。
――まるで誰かに腕を掴まれたように、動きをとめる。
箏太郎は首を捻った。
――誰かに……?
はっと何かに気づき、箏太郎は、美倉に言った。いや、美倉にというよりも……、
「ご牢人、聞こえますかっ?」
突然の問いかけに眉をひそめたのは、照潤と穂波であった。美倉は、先ほどまでの余裕の笑みが、瞬時に引きつった笑みに変じていた。
「聞こえているのでしたら、どうにか、その乗っ取られた体の動きをとめてください。なんとか、体がもとに戻るように私たちが考えますから」
照潤と穂波も、そこで気がついた。
そう、美倉は、おさちの体から牢人へと魂を移しているときに、箏太郎に邪魔をされたため、牢人の意思を完全には支配しきれずにいるのだ。心の奥底へと閉じ込められた牢人の意思であったが、美倉が箏太郎たちに致命的な打撃をあたえる瞬間だけ、どうにか気力を振り絞って体の動きをとめていたのだ。
箏太郎はそのわずかに残っている牢人の意思にむけて話しかけている。
「お願いします、ご牢人」
「そううまくゆくものか」
美倉が、ふたたび口もとに笑みを浮かべて言った。そうして、ゆっくりと、刀を大上段に構える。
それに対して箏太郎は正眼に構える。
「おふたりとも、お手出し無用に願います」
箏太郎に言われて、照潤と穂波が頷く。
――この男だけは、私自身の手で引導を渡してやりたい。
これが、箏太郎の想いであった。
おさちの体を無慈悲に乗っ取り、箏太郎の恋心を踏みにじったこの男だけは、どうしても許せない。
星空に浮かぶ月を刺すような美倉の大上段の構えが、箏太郎を威圧してくる。箏太郎は気おされまいと歯を食いしばり、敵の目を睨む。




