三之八
着物を着て、刀を帯びた十兵衛は、作左衛門とお絹を見た。
ふたりはうなだれて、砂浜にべったりと座りこんでいる。
言うべきことは何もない、という気がした。
彼らが落胆しているのは、自分たちの希望が断ち切られたからか、十兵衛たちへの申し訳ない気持ちからか。
――どちらでもいいさ。
十兵衛はそう思った。
そんな彼らの姿を見ても、憎しみも湧いてこなかったし、かといって、憐憫の情も湧いてはこなかった。
ただ、彼らの弱さにつけいって操った、城咲という男が赦せなかった。制裁をあたえたというのに、十兵衛の城咲への憎しみは薄らぐことなく、むかむかとしたものが心のなかでのたうち続けていた。
十兵衛が仲間に頷いて歩きだすと、皆、何も言わずについてくる。
これはある意味、作左衛門夫婦にとっては酷であったかもしれない。
面罵し、怒りのかぎりをぶつけたほうが、彼らにとっては贖罪となり、気が楽になったかもしれない。
松林にはいってゆく十兵衛たちの後ろから、作左衛門とお絹の嗚咽の声が聞こえてくるのだった。
「ねえ」と穂波が言う。「くさくさするわ。羽衣の松でも見にいきましょう」
「また、そんなことを言う」照潤があきれる。
「そうだね」と十兵衛が言った。「羽衣の松……。すっかり見るのを忘れていたね」
行ってみると、周囲に林立する松とは際立って違う、数段立派な松があった。
ここは御穂神社の神域にあって、羽衣の松は神の依代でもあるそうだ。近くに鳥居があって、柵で囲われて、大切に祀られている。
十兵衛たちは、羽衣の松を見あげた。
太い幹からしっかりとした枝が伸び、梢が幽玄なる美をかもしだしている。
だが、不思議と十兵衛たちにはなんの感慨も湧いてこなかった。
あんなことがあったすぐ後だから、心が麻痺でもしているのだろうか。それとも、優れているとはいえ、あくまで松の範疇から突出しているわけではない、しょせんはただの松でしかないからだろうか。
誰言うともなく、一行は歩きだした。
西側の浜へでると、こちらまで送ってくれた舟がまっていてくれた。
十兵衛たちが乗ると、舟は清水へむけ、折戸湾へと漕ぎだした。
十兵衛は、祓魔の力を使ったものだから、今夜は熱にうなされるのが憂鬱だった。
箏太郎は、つい先ほどまで大変な目に遭ったというのに、なぜか、おさちの裸が思い浮かんだ。不謹慎だと思いつつも、湧いてくる想念をとめられない。
照潤は、作左衛門夫婦への憐れみが消えず、瞑目して心を落ち着けていた。
穂波が舟の端から手を出して海に浸していたのは、やはり、裏切られた心を落ち着けるためであっただろう。
皆の想いを包み込むように、富士山は温かく見おろしている。




