三之六
十兵衛は、体を開いて、右に城咲を見、左に捕らわれた照潤と穂波を見た。
箏太郎を捨て置いているのは、箏太郎がまだ弱年ゆえに経験が浅く、このような突発的なできごとに対処できないと、城咲は見切っているのだろう。
――なんたる痛恨事か。
十兵衛は、歯噛みした。
作左衛門とお絹は、城咲の回し者であった。十兵衛たちとの仲を深め、安心させ、こうして裏切る機会を狙っていたのだ。十兵衛は、まったく作左衛門の底意を見抜けなかった自分の甘さを悔やんだ。
「申し訳ない」作左衛門が呻くように言った。「城咲殿に助勢すれば、尾張への仕官を取り計らってくれると言う」
「もう、辛酸を舐めて生きるのは嫌なのです」お絹も言った。
「つらい生活から抜け出したいのです。すまない、十兵衛殿」作左衛門は顔をしかめる。
「すまないで済む話ですか」照潤が後ろから締めつける作左衛門を、叱るように言った。「いくらつらい生活を送っているからといって、このような卑劣な手段に及ぶなど、堪忍できるものではありません」
「若いあんたたちにはわからないだろう。関ケ原よりこのかた、地べたを這いずり、泥水をすする生活を送ってきた、わしらのつらさ、苦しさなど、とうていわかるまい」
「わかるわからないの前に、人としてやってはならない行為です」
「赦してもらおうとは思わない。理解してもらおうとも思わない。ただ、こうするより他に生きる道が見いだせないのだ」
「なんという愚かな」
憎悪のかぎりをぶつける照潤に対して、穂波は不気味なくらい無抵抗で、じっと捕らわれたままになっている。
――卑劣漢め。
心中、十兵衛は城咲を罵った。作左衛門たちを憎む気持ちは湧かなかったが、城咲に対する憎悪が火山が噴火するごとく心に噴出した。作左衛門たちの弱みにつけこみ、仕官を餌に心を惑わせ、間者にして送りこんだのだ。心を読めるこの男なら、人を操ることなど造作ないということか。
「まずはそのご大層な刀を捨ててもらおうか」
城咲に言われるままに、十兵衛は三池典太を砂浜に放り投げた。
「うむ、素直でよろしい。では次に、着物をすべて脱いでもらおう」
「なに?」
十兵衛は鋭く城咲を睨んだ。この者たちの目当ては銅鏡であろう。銅鏡を手にいれるために、なぜ十兵衛を裸にする必要があるのか。それとも、男姿でありながら、実際は女である十兵衛の弱点を突いてきたと見るべきか。
「脱げと言っている。言うことをきかねば、見せしめにひとり殺してもいいのだぞ」
城咲のいやらしく歪む目を見ながら、十兵衛は呻いた。そうして、わずかな逡巡のあと、帯をときはじめた。
「それでいい」城咲は嘲弄する。
十兵衛は着物をすべて脱ぎ捨てた。
意外なほど白い肌が、天日に晒された。
にたにたと笑いながら、城咲は十兵衛の全身を舐めるように、視線を這わせた。
均整のとれた体に、小ぶりだが形の良い乳房、その先端の薄紅色の乳暈、薄く陰毛の生える股、引き締まった太もも。
ごくりと唾を飲む音が、十兵衛の耳にも届くほどだった。
「では、そこに寝そべれ」
十兵衛は歯をくいしばって、城咲を睨む。
「なんだ、その反抗的な目つきは。人質の命がどうなっても知らんというのか?」
「なんたる破廉恥なッ」照潤が叫ぶ。「それでも侍ですかッ。十兵衛殿、私たちにはかまわず、そのような人非人は斬り捨ててくだされッ」
「ふん、貴様がなにをどう叫ぼうが、とうの十兵衛はこれこのとおり、従順なものだ」
十兵衛は城咲の言うがまま、ゆっくりと腰を落とし、砂浜に座り、体を横たえる。
城咲が不快な笑みを浮かべて言う。
「十兵衛、これからお前をたっぷりと凌辱してやろう。仲間の目の前でな。屈辱であろう、口惜しかろう」
天空から眺めている天道でさえも顔をそむけたくなるような、城咲の嗜虐性である。
「外道めッ」
照潤の罵り声が十兵衛の耳に響いた。だが、城咲にとっては痛くも痒くもない、むしろ罵られることが快感とでもいうように、笑みを浮かべている。
「恥辱のなかで悶えさせてくれるわ」
舌なめずりしながら、城咲が、十兵衛に覆いかぶさった。
女でありながら十兵衛という男名を名乗り、日夜、剣術修行に明け暮れ、妖魔と闘ってきた身である。まだ男に対する興味も持ったことはないし、当然男の肌を知らぬ。それが、こんな形で貞操を奪われようとは……。だが、仲間の命がかかっている。屈辱に耐え忍び、反撃の機を待つしかない。
だが、城咲は十兵衛の心を読んでいる。油断はしていない。刀を左手に持ったまま、右手を十兵衛の体に伸ばす。
指を立て、虫のように十兵衛の体に這わせる。腹をもぞもぞと撫ぜ、首筋をくねくねと刺激する。
その指が、双丘の片方の頂上に到達したときであった。
ふと、城咲が穂波のほうを振り仰いだ。
「よせ、馬鹿なまねをするんじゃあない」
その顔に、突如、困惑の色が浮かびあがったのだった。




