↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/20

第7話:『お味噌汁と肉じゃが、お屋敷を包む至高の香り

第7話:『お味噌汁と肉じゃが、お屋敷を包む至高の香り』


「俺だけの聖女様だ。屋敷から一歩も出さん」


昨日、ギルバート様からそう告げられた時はさすがに「過保護すぎ!」とツッコミを入れたけれど……。


「……うん、冷房はないけど、ブラック企業のサビ残に比べたらここは天国だわ。合法的な引きこもりスローライフ、最高!」


翌日の夕方、私はホクホク顔でお屋敷の厨房に立っていた。

だって、目の前にはマドカ印の菜園で大収穫された、ピチピチの大根、ネギ、そして山盛りの大豆があるのだ。


実は昨日、お屋敷の料理番のメイドさんに頼まれて、ある実験をしてみたのだ。

「マドカ様の魔法を使わずに、普通にその種を植えたらどうなるのですか?」と聞かれたので、魔力を一切込めずに、ただの日本のネギの種を裏庭の端っこに植えてみた。


すると、マドカ印の菜園とは違って一晩では成長せず、数日かけてようやくひょろひょろと生えてきたのだが……それをメイドさんと一緒に一口かじってみて、私たちは揃って顔をしかめた。


『に、苦い……っ! それに硬くて、とても食べられたものじゃありませんわ!』

『うわ、本当だ……。これ、私の聖女の魔力ウマミが乗っていないと、異世界の土壌の悪い成分を吸い込んじゃって、ただの硬くて苦い雑草になっちゃうんだ……』


つまり、この菜園の日本の野菜たちは、私の魔力とお水があって初めて、あの魔力回復効果のある美味しい和食素材になるというわけ。私にしか育てられない、完全なオーダーメイドチートだったのだ。


「マドカ様、今日はいったいどんな奇跡の料理をお作りになるのですか?」


バルトさんや料理番のメイドさんたちが、すでに期待で目をキラキラと輝かせながら、私の手元をのぞき込んでいる。昨日、ネギ焼きを食べたギルバート様の魔力が爆発的に大回復したのを見て、お屋敷の全員が私の料理の信者になってしまったのだ。


「ふふん、今日は私の故郷の究極のソウルフード、お味噌汁と肉じゃがです!」


まずは魔法収納から、干しておいた『異世界シイタケ』を取り出す。それを水に浸けてじっくりと旨味を抽出し、お屋敷の削り節(干し肉)を合わせて、完璧な『極上合わせ出汁』を取る。

厨房にふわぁ……と、深みのある香ばしい香りが立ち上ると、使用人たちの喉が「ゴクリ」と一斉に鳴った。


さらに、魔法収納の中で時間が止まってる、実家から送られてきたお中元の『極上味噌』と『本醸造醤油』を解禁する。

菜園の大根とネギをお味噌汁に沈め、牛肉(異世界のイノシシ肉)とジャガイモ、大根を醤油と出汁でじっくりコトコト煮込んでいく。


「……ただいま戻った、マドカ」


夕暮れ時 。

騎士団の仕事を終えたギルバート様が、応接間を素通りして真っ直ぐ厨房へと入ってきた。

漆黒の鎧を纏った凛々しい姿のままだけど、その碧眼は、私の姿を捉えた瞬間にトロンと甘く蕩けている。


「おかえりなさい、ギルバート様! ちょうどご飯ができたところですよ」

「ああ、門をくぐった瞬間から、酷く愛おしい香りが漂っていた。お前が俺の帰りを待って、飯を作ってくれている……。これ以上の幸せがこの世にあるだろうか」


(う、うわぁ……。サラッと新婚さんみたいな殺し文句を言う人だなぁ、もう!)


相変わらずの距離の近さにドギマギしながら、私はダイニングに料理を並べた。


「これは……茶色いスープに、ツヤツヤと輝く煮物か。見たことのない料理だな」


ギルバート様は席に着くと、まずは丁寧にお味噌汁をスプーン(お箸は絶賛練習中だ)ですくい、口に運んだ。


ゴクリ。


「っ…………!!!?」


その瞬間、ギルバート様がカッと目を見開き、椅子の手すりをミシッ……と握りしめた。

彼の身体から、昨日よりもずっと濃密で、けれど驚くほど穏やかで澄み切った漆黒の魔力がブワリと立ち上る。


「なんだ、この深みは……。大根の甘みと、この茶色いスープ(味噌)のコクが、信じられないほど調和している。……美味い。美味すぎる。身体の奥底から、力が満ち溢れてくるようだ」


「旦那様、私どもも一口いただいたのですが……これは脳が震えるほどの美味でございます!」

老執事バルトさんも涙目で大はしゃぎしている。


ギルバート様は続いて肉じゃがを口に運ぶと、今度は言葉を失い、碧眼をこれ以上ないほど優しく細めて「……素晴らしいな」と、大人の色気が駄々漏れな極上の笑みを浮かべた。

私の聖女の魔力ウマミは、彼の戦い疲れた胃腸だけでなく、心まで完全に包み込んで癒やしていた。


「マドカ」

「は、はい?」


ギルバート様は食事の手を止め、漆黒の鎧のまま、椅子から立ち上がって私の目の前に進み出た。

190cm近い彼に見下ろされると、小柄な私はすっぽりと彼の影に隠れてしまう 。

彼は私の小さな両手を優しく包み込むと、熱い執着の宿った碧眼でじっと見つめてきた。


「やはり、お前を外に出すわけにはいかない。お前のこの料理と癒やしは、世界中の何よりも価値がある。……一生、俺の側で俺のためだけに作ってくれ」

「ひえっ……! 嬉しいですけど…(やっぱりこの人、過保護が限界突破してまーーす!!)。」


お屋敷中に広がる美味しい出汁の香りに包まれながら、私は彼の甘すぎる独占欲に、本日何度目かわからない嬉しい悲鳴をあげるのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます!


次回は【7月3日(金) 18時】に更新予定です。お楽しみに!


誤字脱字報告ありがとうございます!


「続きが気になる!」「おもしろい!」と思ってくださったら、下の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマーク登録をしていただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。