第6話:『お疲れOL、畑のネギで最強騎士の魔力を完全回復させてしまう』
「マドカ、これは一体……どういうことだ?」
翌朝。裏庭の菜園に案内した瞬間、ギルバート様は信じられないものを見たというように、その美しい碧眼を大きく見開いた。
昨日、二人で泥だらけになりながら耕したばかりの土壌。
そこには、私の魔力とお水を吸って、一晩で青々と立派に成長した『九条ネギ』や『みずみずしい大根』が、所狭しと実っていたのだ。
「えへへ、ちょっと美味しくなるように魔法を意識してお水をあげたら、こんなに育っちゃいました」
「ちょっと、のレベルではない……。通常、植物の育成魔法は数日かかる上に、ここまで生命力に満ちた野菜など見たことがないぞ」
ギルバート様は驚きつつも、収穫したばかりのネギを使用して私が作った『お出汁たっぷりのネギ焼き』を、恐る恐る口に運んだ。
昨日の出汁巻き卵をベースに、さらに採れたてのネギをぎっしり詰め込んだ特製品だ。
モグ、と彼が咀嚼した、その次の瞬間――。
「っ……!??!?!」
ギルバート様の身体から、凄まじい密度の「漆黒の魔力」がブワッと溢れ出した。
あまりの風圧に、私の短い髪が激しくなびく。
けれど、その魔力は凶暴なものではなく、驚くほど澄んでいて、彼自身の体内にどんどん吸い込まれていく。
「ギ、ギルバート様……!?」
「……頭痛が、完全に消えた……? いや、それどころか、すっからかんだった魔力回路が、一瞬で満たされていく……!」
ギルバート様は自分の大きな手のひらを見つめ、驚愕に震えていた。
前線での戦い続きで、異世界のどんな超高級ポーション(魔法薬)を飲んでも治らなかった彼の『慢性的魔力飢餓』が、ただのネギの卵焼きで一瞬にして完治してしまったのだ。
ガタン、とギルバート様が立ち上がる。
鋭い黒髪を揺らしながら、彼は私の前に膝をつくと、私の両手を大きな手で包み込んだ。
その碧眼には、今まで見たこともないような熱い『執着』と『独占欲』がギラリと宿っている。
「マドカ。いいか、絶対にこの野菜のことを、屋敷の外の者に話してはならない」
「は、はい……?」
「この事実が知れ渡れば、王宮の奴らや他国が、手段を選ばずお前を奪いに来る。……お前を、あんな奴らに渡してたまるか」
ギルバート様は、私の手を引き寄せ、まるで宝物を壊さないように、優しく、けれど力強く私を抱きしめた。
耳元で、彼の低くて色気のある声が響く。
「お前は俺が守る 。この屋敷から、一歩も出すつもりはない 。……俺だけの聖女様だ 」
(えっ……これって、ものすごい超過保護――というか、監禁モードに入ってません!?)
抱きしめられた胸の中で、私の心臓は、ブラック企業の締切前よりも激しくバクバクと音を立てていた――。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
次回は【7月2日(木) 18時】に更新予定です。お楽しみに!
「続きが気になる!」「おもしろい!」と思ってくださったら、下の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマーク登録をしていただけると執筆の励みになります!




