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第5話:『強面騎士様、クワを持つ』


「――よし、これでいいか?」


眩しい朝の光が降り注ぐ裏庭で、私はあ然と立ち尽くしていた。


目の前にいるのは、帝国最高峰の武力を誇る『黒狼騎士団』の総長、ギルバート様だ 。

いつも身に纏っている漆黒の頑丈な鎧は脱ぎ捨てられ、白いシャツの袖を肘の上まで豪快に腕まくりしている 。

そこから覗くのは、数々の戦場をくぐり抜けてきたことが一目でわかる、しなやかで逞しい男の筋肉だった 。


(ま、眩しい……! 騎士の服も格好いいけど、作業着スタイルのギルバート様、大人の色気がカンストしてる……!)


そんなギルバート様の手には、お屋敷の倉庫から持ってきた、少し錆びついた大きな『クワ』が握られている 。


「あ、あの……ギルバート様。本当にやってくださるんですか? 騎士団長様のお仕事を放っておいて、家庭菜園の土を耕すなんて……」

「気にするな。今日は非番だ。それに、マドカが故郷の野菜を育てたいと言ったのだろう。お前の頼みなら、俺が自ら動くのは自然なことだ」


ギルバート様は鋭い碧眼をフッと和らげると、ザクッ、と力強くクワを地面に突き立てた 。


驚くべきは、その圧倒的なパワーとスピードだった 。

私のようなひ弱な元OLなら、一回クワを振るうだけでも息が切れるというのに、ギルバート様が軽く腕を動かすだけで、固かったお屋敷の土壌が面白いようにふかふかに裏返っていく 。


「ふむ……。剣を振るうのとは勝手が違うな 。少し、力が入りすぎているか?」

「いえいえ! 完璧です! むしろプロの農家さんより早いです!」


私が目を輝かせて拍手すると、ギルバート様は少し照れくさそうに黒髪を掻いた 。


「お前に褒められると、悪い気はしないな」


そう言って、彼はちんまりとした私の隣に歩み寄り、腰を落として目線を合わせてくれた 。

至近距離で見つめられる碧眼の美しさに、私の心臓がドクンと跳ねる 。


「ギルバート様、これ、私の故郷から持ってきた特別な野菜の『種』なんです。食品メーカーで働いていたときにサンプルバッグに入れていたものが、魔法収納にそのまま残っていて」


私はそう言って、手のひらにポッと取り出した、日本の大根やネギの種を見せた 。


「ほう、これがマドカの故郷の種か。この世界のものとは少し形が違うな。……愛おしい我が家の菜園だ。お前の故郷の味、俺も楽しみにしている 。さあ、一緒に植えよう」

「は、はい……!」


大人の男の人に「我が家」なんて言われると、まるで新婚生活が始まったみたいで、顔がカッと熱くなってしまう 。


「マドカ。お前の料理や茶を飲むと俺の魔力が回復する。お前には高い聖属性の魔力があるはずだ 。その魔力を、水に流し込むようなイメージを意識しながら種に水をやってみろ」


「えっ、魔法なんて使えるのかな……?」


私は半信半疑ながらも、前職の営業事務で培った「美味しく育ってね」という丁寧な気持ちを込めて、指先からお水に魔力を流し込むようなイメージで、そっと畑に水を撒いた 。


「……マドカ、顔が赤いぞ。やはり、朝の陽射しが強すぎたか? 無理をせず、一度屋敷の影に入っていなさい 。残りは俺がすべてやる」

「だ、大丈夫です! ちょっとドキドキしただけで……あ、いや、なんでもないです!」


慌てて両手で顔を隠す私を、ギルバート様は「?疲労から来る 熱か……?」と心配そうに、けれど底なしの過保護な視線で見つめてくるのだった 。


だが、この時の私たちはまだ知らなかった 。

私の丁寧な想いと、聖女の魔力をたっぷり注がれたこの日本の種たちが、わずか一晩で『世界の常識を揺るがす奇跡の魔力回復食材』を大爆発させることになるなんて、これっぽっちも予想していなかったのだ―― 。



ここまでお読みいただきありがとうございます!


次回は【7月1日(水) 18時】に更新予定です。お楽しみに!


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